
「チューニングが合う」表現者に
──本作は、古川監督が長年準備されていたオリジナル脚本の映画で、金子真司という役には古川監督を投影していた、というお話も公式インタビューの中にあったと思います。具体的に、古川監督のどのような部分が役に反映されたのでしょうか?
丸山:内容は詳しく言えないのですが、彼が人生で出会ってきた人のことや、ご両親との関係性などを会話の中で知り、だったらこういう仕草が生まれるかなとか、こういう人になっていくかなということを考えました。
監督のものまねをするということではなく、そのマインドや、芯にあるものを拝借したようなイメージです。数回話しただけで理解できるわけではないので、ガワというよりも彼が芯に持っている大事なものや、人に対する視線などを少し取り入れて、脚本と照らし合わせながら、金子というまた別の人物に落とし込んでいきました。
色んなパーツをもらいつつも、そのパーツだけでは足りないところを金子の要素としてどんどん増やしていって、最終的には、違和感なく何をしても金子になるように。それを無意識的にしていたと思います。
古川監督にお話を聞くのも、かしこまった取材みたいな形ではなくて、たまたまお店で会った時に「どうですか、順調ですか」みたいな世間話から始まって、飲んでいる時みたいに話が派生していったような感じです。最初は、僕が自分のことを話したんだったかな。
古川監督、掘り下げると面白いんですよ。多分、人って掘り下げたらみんな面白いんですけど、聞いたら素直に話してくださる方で。これが何かになるかもしれないっていうのは意識せずに話していて、自然に生きてきたような感覚です。

──金子は、劇中でほとんど笑顔を見せないような役柄でしたね。
丸山:ああ、そうか!笑ってなかったかも。
──食事のシーンでちょっと笑顔があったかな、くらいでした。パブリックイメージとは異なる役柄を演じられるということについては、いかがでしょうか?
丸山:そこはあまり関係がなかったです。「よし、アイドル丸山隆平、普段とは違うシリアスな演技を思いっきりして、差を見せてやるぜ!」というギャップ萌え狙いみたいなものはなかったです。昔はね、ちょっとあったんですけど。「サイコパスやってみたいな、すごいギャップあるじゃん!」みたいな(笑)。ただ、今は一つひとつのお仕事に対して、どれだけフィットした自分でいられるかのほうが大事な気がしています。
見ている方が、エンタメとしてそのギャップを面白く感じてくださったなら、それは、今までのアイドル人生でみんなが作ってくれたキャラの賜物だと思います。映画が公開されて皆さんに届いたなら、発注いただいたネジがうまいことハマって良かったな、という感覚です。
ただ、社会派と呼ばれる種類の作品は今までよく見ていて好きなんですよね。目を背けたくなるような人間の側面を描いたヒューマンサスペンスや、ドキュメンタリーも好きです。
自分のイメージのことは僕にとっては案外どうでもよくて、それより大きかったのは、古川監督のデビュー作だったということでした。

──ご自身が作品を届ける時にいま意識されていることや、これから携わりたいと思う作品などがあれば、最後に教えてください。
丸山:やっぱり、どんなものにでもフィットできるような表現者でいたいです。無茶振りされたとしても、演出家の方やカメラマンさん、衣装さんが見た時に、チューニングがピタッと合っているような表現者になれればいいなって。
今後何をやりたいですか?と聞かれたら、やったことのないものをやりたいですし、もう、すごい欲張りなんですけど、いろんなことに挑戦していった結果、人からゆくゆく「こういう俳優だね」「こういうベーシストだね」「こういうアイドルだね」と言ってもらえたらいいかな。
・・・でも、アイドルとしては多分、もうある程度認識をしていただいているだろうからいまさらキャラチェンジもできないか。 コワモテ系をしばらくやったあとに実は優しい、みたいなの、あれめっちゃ得してるやん!なにそれそっちが良かった!って思うけど、人間形成の初期段階からこれだったからなぁ。もうアイドルとしてはこのままいきます(笑)。でも、表現者としては幅広く色んな挑戦をしていきたいですね。

Ryuhei Maruyama
1983年生まれ、京都府出身。2004年、シングル「浪花いろは節」でCDデビュー。歌手、ベーシスト、俳優として活躍。’11年、『ギルバート・グレイプ』で舞台初主演。同年、『ワイルド7』で映画初出演。’12年、「O-PARTS~オーパーツ~」でTVドラマ単独初主演。同年、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」で連続ドラマ初主演。’17年、『泥棒役者』で映画単独初主演を果たす。主な出演作は、「フリーター、家を買う。」(’10年)、「ストロベリーナイト」(’12年)とその映画化(’13年)、『エイトレンジャー』シリーズ(’12、’14年)、「泣くな、はらちゃん」(’13年)、「地獄先生ぬ~べ~」、『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』(ともに’14年)、「誘拐法廷~セブンデイズ~」(’18年)、「よつば銀行 原島浩美がモノ申す!~この女に賭けろ~」(’19年)、「大江戸グレートジャーニー ~ザ・お伊勢参り~」(’20年)、「着飾る恋には理由があって」(’21年)など。舞台では、ブロードウェイミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(’22年)、『浪人街』(’25年)などに出演。
『金子差入店』

「差入店」を営みつつ、妻の美和子(真木よう子)と10歳の息子、和真(三浦綺羅)、伯父の星田(寺尾聰)とともに暮らす金子(丸山隆平)。ある日、息子の幼なじみの少女がなんの関係もない男・小島(北村匠海)に殺害されてしまい、その事件にショックを受ける中で、犯人の母親(根岸季衣)から差入の代行と手紙の代読を依頼される。金子は仕事としてそれをこなそうとするが、常軌を逸した犯人の対応に激しく感情を揺さぶられてしまう。さらにもう一度、差入を頼まれた金子は、犯人への疑問と怒りに身を焼かれるような思いを抱く。また、その頃、金子は母親を殺した犯人に会いたいと毎日拘置所を訪れている女子高生(川口真奈)に出会い、二つの事件と向き合ううちに、自身の過去にも対峙することとなる。
監督・脚本:古川豪出演:丸山隆平、真木よう子、三浦綺羅、川口真奈、北村匠海、村川絵梨、甲本雅裕、根岸季衣、岸谷五朗、名取裕子、寺尾聰
2025年5月16日(金)より、東京の「TOHOシネマズ 日比谷」ほかにて全国公開予定。
配給:ショウゲート
©2025「金子差入店」製作委員会
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