
photographs : Josui(B.P.B.)
「着ることは、書くことと似ている」――又吉直樹が語るジャージという選択と、ものづくりの哲学。
芸人・作家として知られる又吉直樹さんが、自身のファッションブランド「水流舎」の第2弾として「ジャージ」を発表しました。第1弾のパジャマに続く今作は、小学生のころからジャージを着続けてきた又吉さんならではの視点と記憶が、デザインの細部に宿っています。今回は、新作ジャージへのこだわりから、言葉を書くことと服をつくることの共通点、そしてものづくりに向き合う若い世代へのメッセージまで、じっくりとお話を伺いました。
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ジャージという選択――「届きそうで届かなかった」一着をつくる
――今回、第2弾のアイテムとしてジャージを選ばれた理由を教えてください。
「ジャージ作ってみたいなぁ」とぼんやり考え始めたのは、1年半ほど前のことです。もともと小学生のころからほぼジャージしか着ていなかったくらいで、サッカーをやっていたこともあって、ジャージが日常のど真ん中にありました。
中学で古着にはまってからは、古着屋で買ったジャージのセットアップで部活の練習に参加するようになって。日常と古着と部活、全部がジャージのなかで混ざり合っていったんです。大人になっても結局よく着ているから、やっぱり好きなんやなと。それだけたくさん着てきたからこそ、まったく同じものが存在しない、「こういうのがほしい」と思えるジャージを自分で作ってみたいというのが動機でした。

――元々スポーツウェアであるジャージには、だからこそのデザインの難しさもあると思います。どんなところにこだわりましたか。
スポーツ用のジャージは、その競技に特化した設計になっているので、絞るべき箇所は絞られているし、軽さも求められる。でも今回はタウンウェアとしてつくるので、そういう制約を取っ払って、ストレートにストンと落ちるシルエットにできました。体の線を見せることにとらわれず、重さも気にせず設計できたのは大きかったですね。
素材には光沢のあるベロアを使っています。ジャージなんですが、一緒に遊んでいる人に「手を抜いている」と思われにくい。仮に手を抜いていたとしても(笑)。食事会くらいであれば、場所を選ばず着ていけると思っています。


ラインに宿る「ご機嫌」――デザインの源泉
――サイドのラインには、又吉さんが撮影された写真が使われているそうですね。
ジャージというアイテムを考えたとき、サイドのラインや象徴的なデザインをどうするかが1番難しい問題でした。結果として、フィルム状にしたラインをつくってもらい、そこに自分が撮った写真を貼り込む形にしました。
写真には、たとえばウィンナーだったり、レモンサワーの搾り器だったり、自宅で漬けている梅酒の瓶だったり。特別に縁起がいいものというわけではなく、「なんとなく気持ちいい」というときに撮ったものだけを選んでいます。あまりにも分かりやすく縁起のよいものだと、かえってさまざまな意味が乗っかってきてしまうので。
着た人が心も軽やかになればいいなという気持ちで、自分が機嫌よく過ごしていたときの写真だけを使いました。ご機嫌が伝染するといいますか、そんなイメージです。

――カラーはネイビーと、もう1色を選ばれています。
ネイビーは1番着やすいですし、ジャケットなどとも合わせやすい。もう1色は、少し紫がかったような絶妙な色です。自分でも今まで着たことのない色味で、秋に着ると気持ちいいんじゃないかと気に入っています。
ひもには赤を使っています。赤は、高校のサッカー部のチームカラーでした。部員はみんな制服に赤ソックスを合わせていて、先輩かどうかすぐわかるし、サッカー部だとわかるから自覚を持って行動しようという意味もありました。大事な試合のときも赤を身につけていたので、今でも大切なときには赤い靴下を履いたりします。お守りみたいなものですね。

書くことと、つくること――工程が似ている理由
――文章を書くことと、服をつくることに共通点はありますか。
すごくよく似ていると思います。小説を書くとき、僕はなんとなくこういう話を書きたいなというイメージから始めて、登場人物が行きそうな場所を歩いたり、その人物が通っていそうな店に通ったりしながら、空気感を自分のなかに入れていく。書き始めた時点では分かっていなかったことが、書き終えた時点では分かっている、という状態に持っていきたいんです。
今回のジャージも、ジャージを着て散歩しながら「そもそもなんで自分はジャージが好きなんだろう」と考えて、記憶を探っていって、そういうのをどんどん集合させながらつくっていきました。その工程は小説と本当によく似ています。
違うのは、服の場合は一人では作れないということ。まずパターンを自分では引けないので、古着を参考に口頭で伝えたり、職人さんに任せたりしながら、上がってきたものを調整していく点は難しかった。二次元でこういう形と言っても、構造的に不可能だったり、ポケットのサイズがセンターラインに影響したり。そういうことを職人さんに教えていただきながら作っていくプロセスは、おもしろかったですね。
――着る側から作る側になって、何か変化はありましたか。
他の服を見るときの眼差しが増しました。特に個性的なブランド、ほかと被っていない服をつくり続けているデザイナーへの尊敬がすごく増しました。僕は2年に1回、自分の好きなものを1つ作るだけでも、これだけ時間がかかるんですから。

服は文脈である――場所と気持ちを纏う
――ファッションとの向き合い方で、変わってきたことはありますか。
年齢的なこともあるのかもしれませんが、場所によって着るものを変えるということが、昔よりも明確になってきました。服は自分だけのものじゃなくて、人の景色にもなる。何度も通っている居心地のいいバーがあったとして、その日にそこで告白しようとしている人がいるかもしれない。そう考えると、その場の空気にあった服を選ぼうという気持ちが、若いころより強くなりましたね。それが、誰かと一緒の時間なら、どんな服を着るかはその人への思いの表れというか、服を通して気持ちを伝えるみたいなことでもあると思います。
一方で、原宿でショップを回るような日は、自分の中で1番尖った服装で行くこともある。要は文脈なんです。空間の設計とか、場の意図みたいなものを読みながら、服を選ぶようになってきた気がします。
――自己表現という意味では、言葉と服はリンクしますか。
すると思います。文章を書くとき、おもしろければいい、笑えればいいだけじゃなくて、この文章を読んだ人がどういう感覚になるかを意識しています。読んだ人がなんかいい午後を過ごせそうだなとか、この文脈でカレーが出てきたら、カレーを食べることが特別なことのように感じられるなとか、何かしら持ち帰ってもらいたい。
服も同じで、パジャマをつくって次にジャージをつくって、という流れを見ると、意図しているわけではないけれど、「緩めで心地いい日常に貢献するようなファッションアイテム」というメッセージが自然と滲み出ている気がします。意図してるわけじゃないんですけど、そこはかとなく漂う緩さみたいなものは出るんじゃないでしょうか。

次の一作、そしてものづくりへの視座
――今後、水流舎として手掛けたいアイテムのイメージはありますか。
チームと相談しながらになるので全部が通るかどうかは分からないですが……。正直に言うと、なかなか通らなそうなのが2つあって(笑)。1つは、70年代ごろにみんなが着ていたような、台湾映画に出てきそうな白い開襟シャツ。もう1つは、工務店の社長が着ていそうなジャケット、ああいうブルゾンのようなものを作ってみたいですね。どちらも日常にそっと溶け込むようなアイテムで、自分の方向性とは一致しているんですが。

――最後に、ものづくりを志している若い世代へメッセージをお願いします。
物をつくるとなると、どうすれば売れるかとか、今何が流行っているかという話に回収されがちだと思うんです。それを学ぶことは決して悪いことじゃないし、プロとして生きていくなら大切な視点ではあります。でも、そればかりが上手になっていくと、同じ哲学を持つもっと優秀な人と戦うことになってしまう。
本来、自分の好きなものや表現したいものって、みんなに必ずあると思うんです。あらゆるコンテストで優勝できなかったとしても、自分自身の大会だったら圧倒的に優勝できるくらい、自分の輪郭や個性というものをちゃんと持っておいてほしい。商業的な方法論と掛け算するのはそのあとで十分です。まずはそれを大事にし続けることが、ものをつくる上では1番大切なんじゃないかと思っています。
coding : Akari Iwanami

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★ポップアップストア「まだ、起きてたよ」
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会場 :ADRIFT(〒155-0031 東京都世田谷区北沢3-9-23)
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日時 :2026年9月26日(土) 16:30開場|17:00開演|18:30終演予定
会場 :ADRIFT(〒155-0031 東京都世田谷区北沢3-9-23)
チケット:前売券4,500円(取り扱いはFANYチケット)
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会場 :espace202(大阪府大阪市中央区南船場3-2-6 大阪農林会館ビル 2F 202号)
又吉直樹
Naoki Matayoshi
1980年、大阪府寝屋川市生まれ。お笑いコンビ、ピースのメンバーとして活動するほか、作家としても執筆を続ける。2015年に『火花』で第153回芥川龍之介賞を受賞。『劇場』『人間』などの小説や、『東京百景』『月と散文』などの著書を発表。今年は、6年ぶりの長編小説『生きとるわ』、そしてたなかみさきさんとの共著『失恋カルタ』のカルタと書籍を発売。2024年にはファッションブランド「水流舎(つるしゃ)」を立ち上げ、発表服づくりにも取り組んでいる。今回はその第2弾となる「ジャージ」を発表した。
Instagram @matayoshi_staff





