
世界を席巻し、社会現象ともなったドラマシリーズ「Girls/ガールズ」の製作・脚本・監督・主演を務めたレナ・ダナム。’14年に出版したエッセイ集『ありがちな女じゃない(原題:Not That Kind of Girl)』は全米で30万部以上を売り上げ、2010年代、時代の寵児となった。
そんな彼女が脚本に惚れ込み、主演として15年ぶりにスクリーンにカムバック!本作『旅の終わりのたからもの』(公開中)で、生まれ育ったアメリカ・ニューヨークから、両親の故郷であるポーランド・ワルシャワに、ホロコーストの記憶を持つ父親のエデク(スティーヴン・フライ)とともにやって来るジャーナリストの女性、ルーシーを演じている。
決して忘れてはならない戦争の記憶にフォーカスしながら、未来への希望を描いたこの映画。レナ・ダナムが、この作品にどうしても出演したかった理由、そして今を生きる私たちの“使命”だと感じていることは?

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またバカげた役ばかり演じることになったとしても、この作品に出られたことは一生の宝物
――本作の脚本を気に入り、すぐに俳優兼プロデューサーとして参加することが決まったとうかがっています。
レナ・ダナム(以下、ダナム):率直に言うと、自分で作らない限り、実のある役をオファーされることはほとんどありません。多くの女性にとって、どんな体型・宗教・ルーツを持っていたとしても、自分の“リアル”を本当に物語の一部として描いている人物像が不足していると思っています。単なる飾りや、ありきたりなステレオタイプのキャラクターではなくてね。
この映画は、ホロコーストを生き延び、決して消えることのない痛みを持った父親のエデクに、娘であるルーシーがどう囚われ続けているかを描いています。自分自身のユダヤ人としてのアイデンティティが重要な要素となる役をオファーされたのは非常に貴重なことで、それは私にとって、とても大きな贈り物でした。だからこそどうしてもこの映画を形にしたくて、できることは全部やろうと思ったんです。個人的にもこの作品を観てみたかったですし。
――これまでは「GIRLS/ガールズ」など、コメディ要素が強い作品を中心に携わってこられたと思います。今作は悲喜劇で、過去作とは少し違った印象を受けました。
ダナム:そうですよね。この映画に私を起用しようと考えてくれたことに驚きました。「マーゴット・ロビーじゃなくていいの?」って監督に言ったくらいですから(笑)。
だから監督が私にこの役を任せてくれたこと、スティーヴン・フライという一流俳優と共演する価値があると認めてくれたことが、私にとって本当に特別な経験だったんです。たとえ今後、またバカげた役ばかり演じることになったとしても、この作品に出られたことは一生の宝物です。

レナ・ダナム演じるルーシー(左)と、スティーヴン・フライ演じるエデク(右)の場面。
――スティーヴン・フライが特別な存在だったのですね。
ダナム:彼が演じるエデクには、他の誰にも出せないような知性がありました。それは彼の演技力と同じくらい特別なものです。彼はわずか数ヶ月でポーランド語を習得しただけではなく、エデクという人物に、スティーヴン自身のような純粋な好奇心と誠実さを吹き込んだ。この非常に難しい役を、彼がいとも簡単に演じる様子をまのあたりにするのは、とても光栄なことでした。

――ユリア・フォン・ハインツ監督はどのような監督なのでしょうか?
ダナム:ユリアは、“真実”にすごく誠実な人です。自然界の美しさや多様性を正確に描写することに情熱を注いだ偉大なヨーロッパの自然主義者たちのように、安易に笑いに走ったり、もしくは美しく物語をまとめようとしたりしないのです。彼女は映画に誠実さを求めていて、自分自身にもそれを課しています。彼女の最初の映画を見た時から、その作品が生まれるプロセスをそばで見守りたいと思っていました。
私たちが未来の世代に誇れる世界を残すためには
――実際に、アウシュヴィッツ強制収容所の駐車場や境界沿いのフェンスの外側で撮影を行った時は、どのようなことを感じられましたか。
ダナム:収容所での撮影の初日、私たちはほとんど喋りませんでしたが、徐々にホロコーストに関して異なる歴史や経験を持つ人々の間で、非常に力強い会話が生まれていきました。撮影中、私たちは自分たちがアウシュヴィッツにいるということを強く意識していました。アウシュヴィッツは、その時の私たちの集合的意識と同様に、永遠に悲しみと重みを帯びています。決して忘れてはならない場所なのです。
―― 過去の悲劇や痛みを繰り返さないために、ダナムさんは映画を通じてどんなメッセージを伝えたい、あるいは伝えられると考えていますか?
ダナム:大規模な悲劇であれ核家族内の出来事であれ、ある世代に痛みや虐待が降りかかると、その影響は私たちが思っている以上に深く波紋のように広がり、跳ね返っていきます。この映画のエデクとルーシーのように。
私たちが未来の世代に誇れる世界を残すためには、今の行動が大切なんです。過去を振り返り、歴史の過ちを学ぶことで、それを繰り返さないようにし、お互いを癒すことができる。これが本作の脚本から受け取ったメッセージで、今もその意味を深く考え続けています。

Lena Dunham 1986年生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身。作家、監督、女優、プロデューサー。HBOのテレビシリーズ「Girls/ガールズ」(2012〜’17年)の製作・脚本・主演を務めエミー賞にノミネート、ゴールデン・グローブ賞を2度受賞している。オバーリン大学で創作文学を学び、卒業後ニューヨークに拠点を移して短編映画の制作を始める。初の長編映画『タイニー・ファニチャー』(’10年)は、自身の大学卒業後の生活を描いた半自伝的作品で、インディペンデント・スピリット賞の最優秀脚本賞を受賞した。’13年、「TIME」誌の“世界で最も影響力のある100人”に選出。’14年、エッセイ集『ありがちな女じゃない』を出版し、女性の成長や社会的期待に対する鋭い洞察を示した。’15年にはフェミニズムをテーマにしたオンラインニュースレター「Lenny Letter」を共同創設し、’18年まで発行を続けた。 近年では、Netflixのロマンティック・コメディシリーズ「イカれてる⁈(原題:Too Much)」の製作・脚本・監督を手がけ、俳優としても同作に出演。現在はイギリスで生活している。
『旅の終わりのたからもの』
ニューヨークで生まれ育ったルーシーは、ジャーナリストとして成功しているが、どこか満たされない思いを抱えていた。その心の穴を埋めるため自身のルーツを探そうと、父エデクの故郷ポーランドへと初めて旅立つ。ホロコーストを生き延び、その後決して祖国へ戻ろうとしなかった父も一緒だ。ところが、同行したエデクは娘の計画を妨害して自由気ままに振る舞い、ルーシーは爆発寸前。かつて家族が住んでいた家を訪ねても、父と娘の気持ちはすれ違うばかり。互いを理解できないままアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所を訪れた時、父の口から初めて、そこであった辛く痛ましい家族の記憶が語られる。
監督:ユリア・フォン・ハインツ
出演:レナ・ダナム、スティーヴン・フライ
東京の「kino cinéma 新宿」ほかにて全国公開中。キノフィルムズ配給。
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