窪塚愛流×蒔田彩珠 
特別すぎる7日間を描く『ハピネス』を演じて得た初めての感覚。ロリータファッションのこと、二人が考えるハピネスとは。

窪塚:雪夫を演じる上で一番大切にしたのは、やっぱり、由茉を思うことです。普段、僕は自分の役柄が感じていることを一度紙に書き出すのですが、受け止めるとか寄り添うというのは本当に難しいことなので、今回、由茉のことも一緒に書き出したんです。その中で、「こういうところでデートしてきたのかな」みたいに、脚本や原作に書かれていなかったところも、自分の中で想像して埋めていきました。そういうことを考えていたからこそ、由茉に寄り添い、受け止めることができたような気がします。自分にとってしっくりくる形でお芝居ができました。

蒔田:私は、余命ものや病気を抱えている方の恋愛映画などを見ていきました。そうした物語で女の子が主役の場合、弱い心情を見せない子が多いな、というのが感じたこと。そこは『ハピネス』の由茉と近いところがあったので、参考にしていました。

窪塚:『ハピネス』は、僕がこれまで読んだ台本の中で、一番、読み終えてから考える時間が長かったんです。これまで、台本を読み終えた後に、あえて頭の中に簡単な感想を思い浮かべるようにしていました。「悲しかった」とか「この部分が良かった」という感想を、こういうふうに作っていこうというプランも含めて、最初に書いていたのですが、『ハピネス』はすぐに感想を書けなかったんです。恋人が亡くなってしまうというストーリーと、『ハピネス』という題名の矛盾を含め、本を読み終わった後に感情が一つにおさまりきらなくて——。それは初めての経験でした。

本当にストーリーが素敵で、読んでいて自然に涙が出るような作品が『ハピネス』だったんです。心の底から素敵だと感じる作品を演じるのに、自分がプレッシャーや責任感に押しつぶされている場合ではない。決心して演じようと思いました。

窪塚:由茉の強さと、愛情の巡り方。あとは好きなセリフがあります。由茉の「世界で一番ラッキーな女の子だよ」と、雪夫の「世界で一番ラッキーな男の子だよ」という二つのセリフ。そこに心を持っていかれてしまいました。「由茉がちょっと雪夫の視界に入る」というようなその場面のト書きも、想像したら涙が止まらなかったです。

蒔田:私もです。今、うるっときちゃいました。

窪塚:ね、また泣いちゃいそう。

蒔田:由茉はロリータファッションを着ている時に、より輝きますよね。すごく自分に自信を持つことができて、多分、自分を一番特別な女の子だって思いながら雪夫の隣を歩いていたはず。勇気を持ってロリータさんデビューしたことは、由茉の1週間の中で最も意味があって、悔いなく過ごすことができるチャレンジだったのかなと思います。

蒔田:ありました。私は普段あまりスカートをはかないので、スカートをはくだけでもいつもより動きが丁寧になります。

蒔田:教わるような時間はなかったのですが、最初に美沙子さんにお会いした際に「すごく着こなしていますね」と言っていただいて、それはとても嬉しかったです!ロリータ協会の会長さんにそんなふうに言っていただけるなんてって。コルセットでウエストを締めるので、撮影中は、お昼ご飯をなるべく食べないようにしていました。おしゃれは我慢だなと思いました。

窪塚:普段着ることはないです。いろんな系統の服を着ているのですが、やっぱり多いのはストリート。誕生日とか特別な日にスーツを着るようにはしているのですが、レースのついたブラウスは初めて着たので、ちょっと宙に浮いているような感覚になりました。自分なんだけど、自分じゃないみたいな。お芝居をしている時、いつも自分自身とは違うなと感じるのですが、その「いつも」以上に違う自分を知ることができて緊張しましたし、楽しかったです。

あとは、大阪での撮影もよく覚えています。僕は大阪で育っていて、大阪にいた時間のほうがまだ長いくらいなのですが、撮影したのは学生の時にプライベートでよく行っていた場所。そんな場所で撮影しているのは、不思議な気分でした!ロリータさんと大阪の町を歩くのは想像したことがなかったので、それも楽しかったです。

蒔田:最後のほうにお友達も来てたよね?

窪塚:そう!撮影中だったのでちょっと恥ずかしかったです(笑)。

蒔田:たくさんありますが、カレーのお店は印象的でした。

窪塚:資生堂パーラー?インドカレー?

蒔田:ううん、一番最初にカレーを食べたお店なんだけど……。

窪塚:雪夫の回想が入るところだね。「僕の気持ちを少しも汲んではくれませんでした」っていうモノローグと一緒のところ。

蒔田:そうそう。あのお店のカレーを食べさせていただいたらおいしくて、よく覚えています。

窪塚:そのカレー屋さんのカレーは、コクがありました。

蒔田:なんでしょう……。それこそファッションは、誰が見てもいいっていう服はもちろん、初めて着るようなスタイルにもどんどんチャレンジしていきたいですし、その気持ちは大切にしたいです。普段でも仕事でも、挑戦できる間にいろいろなファッションを試したいなと思っています。

蒔田:暖かくなってきたので、大胆にノースリーブを着たり、肌見せをしたいです!

窪塚:まだちょっと寒くない?

蒔田:確かにまだ寒いね(笑)。

窪塚:僕は、自分の生き方です。今は何かと入ってくる情報が多いですが、何にも惑わされずにいたいですし、変に自分のキャラクターも作りたくない。これからも等身大でこの仕事をしていきたいです。例えどんなことがあっても、腑に落ちないことはしたくないし自分の生き方は曲げたくないなと思います。

窪塚:僕は、由茉の気持ちなのかなと思いました。5段階くらい考えて、最終的にこの考えに落ち着いたのですが(笑)。雪夫としては、自分のやれることはすべて注ぎ込んでやったけれど、それでも由茉のことを幸せにできたかはわからないんです。雪夫の感情とすり合わせた時に、ハピネス、とはならなかったんです。これは、蒔田さんが演じているからどうおっしゃるかわからないのですが、僕は、由茉がしたいと思うことが叶えられていたり、家族や雪夫が由茉に注いだ愛は彼女に伝わっていると思っていて。最後に見せてくれた由茉の表情も微笑んでいたから、由茉ちゃんの気持ちなのかなと思っています。由茉ちゃんは、どう思う?

蒔田:難しいですね……。最後まで自分の好きなことを貫き通して、周囲も支えてくれた、その由茉のハピネスはきっとあると思います。でも例えば、雪夫が由茉に関わったからこそお姉さんとの関係性が前向きなものになったり、両親が互いに由茉への愛情を認識しあったり、それぞれに、由茉の最後の1週間を通してハピネスな瞬間があったようにも思っていて。残された人たちの中にも、辛いだけではなく幸せなことがあったので、その部分も含まれているような気がしました。

窪塚:そうだね。それもとってもわかる!

Airu Kubozuka
2003年生まれ、神奈川県出身。’18年に映画『泣き虫しょったんの奇跡』でスクリーンデビュー。’21年から本格的に俳優として活動開始。映画『麻希のいる世界』『少女は卒業しない』、ドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」など数々の作品に出演。初舞台となる、モチロンプロデュース『ボクの穴、彼の穴。W』が9月17日(火)より公演。待機作に『恋を知らない僕たちは』がある。本作『ハピネス』が初主演作品。

窪塚さん着用:ジャケット、パンツ、シャツ すべて参考商品  ウィリー チャバリア(ジェットン ショールーム TEL:03-6804-1970)/ その他スタイリスト私物

Aju Makita
2002年生まれ、神奈川県出身。是枝裕和監督によるテレビドラマ「ゴーイングマイホーム」に出演し、高い演技力が評価され注目を集める。その後、映画『海よりもまだ深く』、『三度目の殺人』、『万引き家族』、Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」などの是枝作品の常連に。初主演映画は、南沙良とのダブル主演作『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』。本作で、第33回高崎映画祭最優秀新人女優賞、第43回報知映画賞新人賞を受賞。『朝が来る』では、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ数々の賞を受賞した。最近ではNetflix「忍びの家 House of Ninjas」に出演。

蒔田さん着用:トップ ¥410,000、ブラ ¥175,000(参考価格)、スカート ¥780,000(参考価格)、ショーツ ¥210,000(参考価格)、チョーカー ¥165,000 ディオール(クリスチャン ディオール TEL:0120-02-1947)

『ハピネス』
「わたしね、あと1週間で死んじゃうの」。高校の美術室で出会った二人の高校生カップルらしい穏やかな日々は、その由茉の告白で一変する。持病により余命宣告されたという由茉は、自分の運命を受け止め、残された時間でやりたいことをやり尽くして生きると決意していた。一方、雪夫は突然のことに取り乱してしまい、気持ちが追いつかない。しかし雪夫も由茉の意思を尊重し、最高の日々を過ごすため全力を尽くすことに。若き恋人たちの生命のきらめきを映し出す。監督:篠原哲雄
出演:窪塚愛流、蒔田彩珠、橋本愛、山崎まさよし、吉田羊
全国公開中。バンダイナムコフィルムワークス配給。 ©︎ 嶽本野ばら/小学館/「ハピネス」製作委員会
WEB:https://happiness-movie.jp/

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