mister it.(ミスター イット)
“身近なオートクチュール”をコンセプトに
人に寄り添った服作りを提案。
手仕事の丁寧さを
モダンに変化させたクリエーション
〈東京発のブランドストーリー Vol. 4〉

身体に添った服は、一人一人の個性を際立たせるように着る人の美しさを引き出す。デザイナー砂川さんの手から生み出される「ミスターイット」の服は、オートクチュールの要素を反映させたもの。なぜオートクチュールがキーワードになっているのか?今後の展望も含めて、デザイナーとしての服作りのこだわりを語る。

コンセプトは“身近なオートクチュール”です。もともとパリのクチュールメゾンでデザイナーとして働いていたので、クチュールの丁寧に服を作るというやり方や、特定の人に向けて作るという考え方が好きで、今はブランドの基本になっています。あとは単純にオートクチュールの美しさに魅力を感じます。自分にとってオートクチュールというのは、遠い存在のような気がしていたのですが、それをあえて身近なものにしていきたいということが今のコンセプトに繋がっています。

エスモード大阪校に2年通って、その後パリ校に1年間通いました。

大阪の時はオートクチュールということは意識していなかったのですが、パリの学校にはクチュールのクラスがあったので、そこを専攻しました。オートクチュールは唯一無二で、人に向けての丁寧な服作りが重要視されます。自分でもそこは大切にしたいところで、細かい手作業の技術なども習得したいと思っていました。

もともと父がスカーフを作る仕事をしていて、小さい頃から身近にスカーフがたくさんありました。ファッションの楽しさをそこで知ったような気がします。

父が作ったものではなく、オリジナルで作っているものや、今まで集めてきたヴィンテージのスカーフを使っています。幼い頃に見てきたスカーフのイメージを、自分のコレクションに使うことは、服をデザインするうえではとても自然な流れでした。ファッションを意識することになった最初のアイテムです。

そうです。デザイン的には同じ形だとしても、柄によって表情が変わったりするので、それぞれ違う見え方になると思います。そういうのもおもしろいです。

ストーリーがあるところだと思っています。その瞬間、その時にしか出会えない。もしかしたらこれは自分のためにあるんじゃないかなと思わせてくれる。そういうのが魅力的です。

意識しているわけではないのですが、そういうものが好きなので自然に表現されるのかもしれません。ほっこりする方向にいくのではなくて、その中から新しさ面白さを引き出したい。そしてそこにはモダンさをしっかり入れたいです。

オリジナルの素材が多いです。

ファッションで何かをしたいとは思っていたんですが、デザイナーになるというのは考えていませんでした。もともと手先が器用だったので、自分で手を動かしてもの作りをする中で、もしかしたら服を作るのが得意なのかもしれないと思い始めて。やっていくにつれて思ったことです。

服に限らず、細かい作業がもともと好きでした。「mister it.」ではそれをラッピングと呼んでシリーズ化もして、いろんなものを包んでいます。

高校2年ぐらいのころから、いずれはパリに行きたいと思っていました。それはファッション イコールパリというか、単純な理由で。

行ったのは2012年でしたが、すごく、自分に合っているなと思いました。

ひたすら手を動かしていましたね。パリでは何事も率先して自分からやらないとだめ。ひたすら手を動かして、自分で試して。その繰り返しです。

技術を習得するというよりも、見様見真似でいろいろ挑戦することが多かったですね。クチュールの服を見に行っては自分自身で研究していました。裏など細部に至るまで実際に目で見て、ここはこうなっているんだなって。パリではそういうクチュールの服が身近にあったので、デザインする自分にとってはとても良かったです。あとは蚤の市とかも好きなので、古くていいものを常に探しに行っていました。

実は日本ベースでやるかパリベースでやるか、どちらも考えました。ブランドとして確立させて長く続けるということを考えた時に、日本ベースにした方がいいんじゃないかと直感的に思って、思い切って帰国しました。

クチュールを意識したというよりは、純粋に自分が今出来ることをしたと思ったコレクションです。フランス語もまともに話せなかった自分に対して助けてくれた人がたくさんいたので、ブランドを立ち上げる前にそういう人たちに、感謝の気持ちを言葉だけじゃなくて形にしたいと。“コレクション ゼロ”は10人のための10ルックです。その10名に来ていただき、その人たちの前でプレゼンテーションをしました。

10人に対してのパリのプレゼンテーションのあとに展示もしました。その時に一人のイメージで作った服でも、欲しいという声が結構あったんです。そのときに、誰かのためだけに作った服でも共感してもらえると自分の中で発見があって。その実体験があったので不安はなかったです。

今回のプレゼンテーションは、ブランドの考えやどんな思いで服を作っているかということを丁寧に伝えたかったです。最初にブランドとしてやったこと。誰かのために服を作るということを。コンセプトを変えずにそれを続けてやっているので、“コレクション ゼロ”と同じようなプレゼンテーションで発表しました。

毎シーズンハートのモチーフはあります。言葉がなくても世界共通なので。デビューコレクションの時は、シャツのカフスのところにハートのモチーフをつけました。握手をしたときに相手にそれが見えるように。

はい。人の体にどう添わせるかとか、生地にボリュームを出してどうシルエットを作るかとかを追求しています。立体裁断で意識するのは、ハンガーにかかったときにいい服に見えるというのももちろんですが、実際人が着て動いた時にどう見えるかを大切にしています。その時のシルエットや生地の動きはとても重要になりますね。

本当ですか! 初めて言われました。ありがとうございます。

辛いのはあまりないです。デザインしてアイディア考えて自分が手を動かしているときは、本当に楽しいですね。

デザインというか、いろんなものを布でくるんでみたいです。立体裁断の応用編ですね。人の体に添わせた服作りが得意なので、身近なオートクチュールというコンセプトで、実際に生活の中にあるようなものをくるんで。“え!それくるんじゃう?”というようなものまでくるんだり。

ブランドが成長して大きくなったとしても、今の作り方とか考えとかを変えずに成長したいです。

自分がやるべきことをしっかりやって、その時にベストを尽くしていたら、それをちゃんと見てくれている人は絶対います。困っているときは、そういう人が手を差し伸べてくれたり助けてくれたりします。自分はそういう実体験があったのではっきり言えます。そういうことを信じて前に進んでください。

photographs: Josui Yasuda(B.P.B.)


Takuya Isagawa
大阪府出身。Ecole International de Mode ESMOD Parisを首席で卒業。2012年から、Maison Martin Margielaでメインコレクションとオートクチュールライン 「Artisanal」のデザインチームの一員となる。パリにて「Collection Zero」を発表。その後、帰国し、2018年春夏シーズンに1stコレクションを発表する。

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