
プルミエール・ヴィジョン・パリ 2026年春夏エディションより。
世界最大級のファッション素材の見本市、プルミエール・ヴィジョン・パリ(Première Vision Paris)の2026年春夏シーズンが、2月11日から3日間の日程で開催された。今シーズンは、およそ40か国から、ヤーン、繊維、生地、皮革、服飾資材、テキスタイルデザイン、縫製などの企業が、約1,100社出展。126か国から約30,000人の来場者を迎えた。


初日、11時頃の会場入り口。来場者による長い列ができていた。
業界全体を支える存在に
プルミエール・ヴィジョン(以下PV)を傘下に収めるGLイベンツ(GL events)のファッション部門は、「クリエイティブ・ポール(The Creative Pole)」という新たな名称のもと、戦略的ビジョンを強化。その一環として、クリエイティブ産業のトレンドや変化を読み解く観測機関「国際クリエイション・オブザーバトリー(International Observatory of Creation)」を発足し、業界全体を支援していくとしている。
ちなみにGLイベンツは、フランス・リヨンに本拠を置き、世界中で様々な分野のイベントを主催・運営しているグループ。ファッション部門の見本市では、プルミエール・ヴィジョンをはじめ、トラノイ(Tranoï)、ファッション・ソース(Fashion Source)を展開している。


適切なサプライヤーや素材の発見を支援する「ソーシング・ソリューション・フォーラム(SOURCING SOLUTION FORUM)」。PVのトレンドエキスパートが分析・予測した2026年春夏のカラートレンドの展示も。
ビジネスを支援する新たな取り組み
PVパリでは、業界のニーズに合わせた新たな施策として、今年から7月開催を9月に移動。2021年まで、2月と9月に行われていたので、以前のスケジュールに戻ることを意味する。また、今後の主軸のテーマが、2月は「サヴォアフェール(職人技・技能)」、9月は「イノベーション&テクノロジー」になることも発表された。
プルミエール・ヴィジョン モードディレクターのデゾリナ・シュテール氏は「伝統的であれ革新的であれ、サヴォアフェールこそがこうした課題への解決策となる。資源を大切にし、循環型のものづくりを取り入れることで、より持続可能な未来を築いていく」と解説している。

今回の2月展も「サヴォアフェール」がテーマに。写真は、ドイツの工房「ソイ・コモ・ソイ(Soy Como Soy)」のアクセサリーの展示。スイスの伝統的な麦わら工芸の技術が使われている。
今回の取り組みとしては、公式モバイルアプリにAIアシスタントなどの新機能を搭載し、デジタルツールをアップデート。220 名の国際的なキーパーソンが来場したホステッド・ゲスト・プログラムの設置、カンファレンスやファッションフォーラムの充実なども挙げられ、来場者に様々な角度からインスピレーションを与える場が提供された。





「インスピレーション・フォーラ(INSPIRATION FORUM)」では、色や素材の方向性を紹介。今回のエディションでは、それに基づいて厳選された3,983点のサンプルが展示された。
2つのブースに文化服装学院の学生の作品が展示
発想を刺激する各社の取り組みも興味深い。リボンで知られるSHINDOのブースでは、文化服装学院の学生の作品が展示され、来場者が足を止めて見入る姿が印象的だった。
作品を手がけたのは、アパレルデザイン科3年生の桂 日向映(かつら・ひなえ)さん。SHINDOのリボンをメインに使用したクリエイションのコンテストでグランプリに輝き、副賞としてパリ行きのチケットと作品展示の機会という華々しい栄誉を手にした。



コンテストはSHINDOと文化服装学院の共同企画によるもので「スポーツカジュアル」をテーマに、学生が作品を制作。昨年秋の文化祭で発表され、人気投票によりグランプリが決定した。写真上右は、来場者と桂さん(中央)。
SHINDOヨーロッパのセールス・ディレクターである橋本祐二氏は、学生の作品展示の効果を次のように話す。
「非常にインパクトがあり、我々のブースに展示することで、来場者の目を引くアイキャッチになっています。僕たちも、こうゆうリボンの使い方があるんだなって、勉強させられますね。お客様にも、SHINDOの製品の活用方法や見え方を提案するよい手段になっているので、すばらしいことです」
桂さんはテニス部だった経験からテニスウェアに着目し、そこに原宿カルチャーのイメージをプラス。多種多様なリボン、キルティング、ハンドペイントを駆使した作品は、独創性に富んでいる。


ハンドペイントにリボンをプラスして、女の子や人魚を生き生きと表現。ファンタジーあふれるキャラクターが魅力的。実は、桂さんは「装苑オンライン」で星座占いコーナーを担当するイラストレーターでもある。
「作品を展示していただけたことは、大チャンスだなって思いました。そして、もっとがんばらなくてはと実感しました」と桂さん。「自分の言いたいことを全然伝えられなくて、言語の壁を突破しないと、世界でファッションをやっていけないなと思いました。でも言葉が通じなくても、ここで私のことを知ってくれて、インスタをフォローしてくださるかたもいたので、すごくうれしかったです」


持参した作品集を紹介する桂さん。来場者からは「アメージング!」の声。
また、イーストマンケミカル社のブースでも、文化服装学院在校生の五郎丸直樹(ごろうまる・なおき)さんの作品が披露されました。デザインコンセプトは、同社のジアセテート繊維「ナイア(Naia™)」とレースを調和させ、エレガンスと快活さを表現すること。



写真上:この作品も昨年秋の文化祭に出されたもの。世界中からファッションの専門家が集まるPVパリでも、多くの来場者の興味を引いていた。下:イーストマンケミカル社のブースの様子。
「ナイア(Naia™)」 は、木材パルプを主原料とするサステイナブルな素材。絹のような光沢と美しいドレープ性に加え、快適な着心地を特長としている。


イーストマンケミカル社は「ナイア」にプラスチックリサイクル技術を組み合わせた「ナイア・リニュー」も開発。これにより、資源の循環性が向上し、廃棄物削減にも貢献する。
次世代のファッション産業に向けて
PVパリ全体では、デッドストックや新素材、人工知能に特化した「スマートクリエイション(SMART CREATION)」のコーナーが注目されていた。また、今年 9月には、美容に焦点を当てたファッションの未来的なスペースを加えるそうで、どのような内容になるのか楽しみだ。

ひと際賑わっていた「スマートクリエイション」のコーナー。


日本の企業が開発した「プラックス(PlaX™ )」の展示。この素材はサトウキビを原料とし、抗菌効果と消臭効果に優れている。

3Dプリンティングの先駆者、ストラタシス(STRATASYS)社のブースでは、生地に直接印刷できる3Dプリンターを用いた「3D Fashion™ 」テクノロジーを紹介。デザイン表現の新たな可能性を広げるこの技術は、昨年新設された文化服装学院の「バーチャルファッションコース」の授業でも取り入れられている。
Photographs & Text:B.P.B. Paris