
音、感触、匂い、すべてを内包する
空間というデザインを求めて

『装苑』2026年9月号 掲載
気品漂うドレスやシャツを生む、こだわり抜かれたテキスタイルが印象的なSein(ザイン)。手がけるのは建築家でもある中川宏文さん。

たて糸にはキュプラを、よこ糸にはマットで柔らかなコットンに、裾へ向かうにつれてリネンをミックス。特有の乾いた質感とほのかな光沢を描く。オリジナルのテキスタイルは、建築業で知り合った、Watanabe Textileの渡邊竜康さんと共同制作。シャツワンピース¥79,200

たて糸にキュプラを用い、よこ糸には細番手のコットンとコットンモールを使用。異なる素材を1枚の織物の中でよこ糸を切り替え、縫製による境界ではなく、織りそのものによる自然な質感の変化を実現。ドレス¥97,900
「コロナ禍以降、建築のプロジェクトの多くがクライアントの事業の見直しなどで白紙になり、『このままでは何も作れなくなってしまう』と思いながらも、仕事が落ち着いている今がチャンスだと思い、パリ・ファッションウィークを見るためにフランスを訪れました。大学時代から、建築に限らず創作とは何かを追求する中で、衣服のクリエイションにも関心があったからです。現地では老若男女がおしゃれを楽しむ姿に圧倒されました。また、美しい街並みに魅力的な装いの人がいるだけで、建築が生き生きすると気づいたんです。服まで自分で作ることができたら、建築が空間としてより魅力的になるのではないか。そう思い至り、帰国後、その勢いで文化服装学院へ入学し、在学中にブランドを立ち上げました」


胸より上部にはコットンによるマットなブラック、下部はリネンによるわずかに光沢を帯びたブラックを配し、同じ黒でありながら異なる質感が連続する。シャツ¥74,800
ファーストコレクションのテーマは「見えないものたちの気配 — What can I find in the darkness?」。戦争や社会不安が続く中、ガザ地区の人々の言葉をきっかけに「夕暮れ」に着目。普遍でありながら、見る人や置かれた状況によって意味や見え方が変わるその多義性を、1枚の織物の中で素材を切り替えたグラデーション生地に反映し、目に見えない感情や気配を表現。


建築家の石上純也が設計した神奈川工科大学の「KAIT広場」にてファーストコレクションショーを開催
建築家らしい会場でショーを開催。闇を感じさせる「黒」、血や情熱を想起させる「赤」、そして織りで表現した「夕暮れ」の淡いピンクのグラデーションカラーで構成し、ショー全体を通して、一つの時間の流れを表現している。バイオリニストの石上真由子さんが生演奏を披露し、まさに五感で感じるコレクションとなった。
「今回、制作の段階からショーという形にこだわったのは、衣服だけでなく、空間や音楽、光のすべてが交わる瞬間を体験してほしかったからです。建築が人間でいう骨や肉ならば、光や匂い、空気、そして洋服は、そこに生命を巡らせる存在だと考えています。いくら箱(建物)だけがよくても、その中に漂う空気や、中にいる人が生きていなければ、物は腐ってしまう。建築と洋服、その両方を作っている自分だからこそできるアプローチで、目に見えないかすかな気配に気づいてもらえるようなきっかけを作り続けていきたいと思っています」
ブランドプロフィール

中川宏文●1989年生まれ、長崎県出身。建築家。D.A.(Diverse Architects)パートナー兼取締役。2024年より文化服装学院Ⅱ部服装科に在籍しながら、’26年にブランド、Seinをスタート。建築とファッションを横断して活動する。 @sein_hirofuminakagawa
そのほかのニューカマーも気になる?
EUCHRONIA/ ユークロニア デザイナー



文化服装学院卒業の宮崎さんと佐藤さんによって立ち上げられたブランド。おのおのアパレル企業のデザイナーとして勤務した後、共にイギリスへ留学。2023年4月にユークロニアをスタートさせた。 Instagram:@euchronia_official