3月16日(土)19:00、渋谷ヒカリエホールA。漆黒のランウェイを、一列に並んだスポットライトが照らす。このようにいたってミニマルなセットでも、鮮烈な印象と余韻を残すのがソウシオオツキのショーだ。
デビュー当時から「日本人の精神性」を題材にしてきたソウシオオツキ。今シーズンは、写真家、須田一政の作品集『風姿花伝』と出会ったことが創作の起点にある。須田の6×6判のモノクロ写真に日本人の思いやりを含有するような「品」と「死生観」を感じとったことが、重要な契機になったそう。
そしてもう一つ、大きな影響を与えたのは「父」の存在。長年、デザイナーの大月壮士さんの創作にインスピレーションを与えてきた父親が、制作期間中、病に倒れたことをきっかけに、長らくリサーチを続けてきた「神道」をいっそう個人的なものとしてとらえたのだという。日本人ならではの宗教観や道徳観、八百万の神などの日本古来の神観念を、洋服へと落とし込んだ。
「日本人の精神性とテーラーのテクニックによって作られるダンディズム」をブランドコンセプトに掲げる同ブランドは、今季もテーラードジャケットをコレクションの基調とした。1stルック(写真上左)はラペルを裏返し、裏地とポケットを表に見せたダブルブレストのスーツジャケット。通常であれば隠れるジャケットの内部構造をデザインとしたリバーシブルジャケットや、コンパクトなジレ、ウィメンズの服のディテールとして使われることが多いカシュクール風の前合わせを採用したジャケットも見られた。
ブラウンのニットには、大月家の家紋をモチーフにしたブランドロゴが、神社のしめ縄のようにあしらわれた。ケープコートやホワイトのオーバーサイズのダウンジャケット、コンパクトなきもの袖ともいえる変形スリーブのワークジャケットとパンツのセットアップも印象的だった。きもの袖が特徴の黒いロングコートは、袖に手を入れることで、腕や物を入れる所作の提案がなされており、実際に袖口から物を入れることも可能。
コレクションの変化球となったのは、経年変化を経て錆が付着したようなデニムや、薔薇モチーフを刺繍したベロアのスカジャンなど、メンズカジュアルの定番にひとひねりを加えたアイテム。2023AWに協業し、100円札グラフィックが話題を呼んだKOTA OKUDA(コウタ オクダ)とのコラボレーションも展開。全ルックを通じてネックレスやメガネチェーン、ウォレットチェーンなど数珠やタッセルがついたアクセサリーが登場した。これらは、シャコガイの貝殻や、サンゴ、翡翠、メノウ、オニキスなどの多種多様な天然素材で作られている。足元はMOONSTARのビジネスシューズライン「BALANCE WORKS(バランス ワークス)」のシューズをスタイリング。
紋付羽織袴を彷彿とさせるボクシースタイルのコートや、ステンカラーコートは、薄くしなやかに織られた尾州産のウールにオゾン加工を施している。強力な酸化作用によって毛のスケールを取り除き滑らかな生地に仕上げたことでドレープが強調され、美しいテーラードルックとして完成した。
フィナーレでラストルックのモデルを務めたのは、デザイナー大月さんの実父。どのモデルよりもソウシオオツキを着こなしていたのは、間違いない。コレクションタイトルは「good memory」で、より、個人史的な色が濃く現れていたシーズン。個人史と日本人の精神性、和装文化を結びつけ、西欧発祥の衣服にそれらを落とし込む。ソウシオオツキのイデオロギーが一つの完成形を見せていた。