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金子大地インタビュー
「現代のロマンポルノ」を演じて見えたもの

「日活ロマンポルノ」※ 50周年を記念して作られた『ROMAN PORNO NOW』では、現代女性へのエールを込めた3本が並んでいる(松居大悟監督『手』/9月16日公開)、(白石晃士監督『愛してる!』/9月30日公開)、(金子修介監督『百合の雨音』/10月14日公開)。この中で、松居大悟監督の『手』に出演し、最近では、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」源頼家役など、話題作への出演が続く俳優・金子大地に話を聞いた。

photohraphs / Jun Tsuchiya  (B.P.B.) / styling : Junya Chino(UM) / hair & make up :  Taro Yoshida (W) / interview & text : Yuka Kimbara

※「ロマンポルノ」について知りたい方はこちら

『手』
おじさんの写真を撮っては、コレクションするのが趣味のさわ子。これまで付き合ってきた男性も年上ばかりだった。しかし父との関係は何となくうまくいかずギクシャクしたまま。そんな時、同年代の同僚・森との距離が縮まっていくにつれ、さわ子の心にも変化が訪れる。山崎ナオコーラの同名小説を原作に、『くれなずめ』や『ちょっと思い出しただけ』の松居大悟がメガホンを取り現代のロマンポルノとして完成させた。
監督:松居大悟、出演:福永朱梨、金子大地、津田寛治、大渕夏子/金田明夫
2022年9月16日(金)より、東京の「ヒューマントラストシネマ渋谷」ほかにて全国順次公開。R18+

人間ドラマだなと思ってていました

――ちょうど去年の7月頃、『ちょっと思い出しただけ』を撮影した直後の松居大悟監督にお話を聞く機会があったのですが、その時、「日活でロマンポルノを撮るんです。女性の俳優はオーディションで選びますが、男性俳優は決めている人がいて」と嬉しそうに話していたのをよく覚えています。それが金子大地さんだったんだなと聞いてなるほどと思いました。その時、松居監督は相米慎二監督がロマンポルノで撮った『ラブホテル』の話もされていて。

「松居さんが『ラブホテル』をすごく好きだという話は伺いました」

――『ラブホテル』を筆頭に、過去の名作と言われているものはご覧になりましたか? ロマンポルノは性愛を前面に押し出したシリーズで、世界的にもこれほど長く、多彩な作品を生み出しているレーベルは珍しいのですが、この分野への主演の出演依頼はどう受け取られましたか?

「あまり詳しくないんです。というのも、『ROMAN PORNO NOW』は今に重きを置いた新しいシリーズということだったので、あえて過去の作品は撮影前に観ないようにしました。

 『手』の台本を頂いて読んだとき、別にロマンポルノって謳わなくても、映画として成立してるじゃん、と思ったんです。そういう意味でも、”松居大悟がロマンポルノという世界観の中で何をするんだろう?“という興味しかありませんでした。オファーをいただいたのは撮影の2か月前ほどで、結構急ではありましたが、出演しない理由が見つからなかったですね。なかなか経験できることではないですし、今、20代で性愛をメインにした作品に出られる機会もそうそうない。役者としては、プラスにしかならないんじゃないかと思い、出演させていただくことを決めました。

 関係者の方から、10分に1度は性的描写を入れるというロマンポルノの定義のようなものも聞いていたのですが、完成した映画を観ると、”そんなにあったっけ?“と思いました。どちらかといえばさっぱりしているなと。むしろ僕は人間ドラマだなと思って観ていました」

――松居監督は慶応義塾大学在学中に立ち上げた劇団「ゴジケン」で初期の頃は童貞という題材を扱った作品を発表され、その後、クリープハイプとの出会いで男の子の性的欲求に踏み込んで表現されるようになり、それで今回の『手』じゃないですか。同世代の人たちには、そういう段階がとても身近で、親近感のある歩み方だと思います。

「僕も、松居さんはこれまで男性をメインに撮っていた監督というイメージがあったので、女性の性愛をどう撮るんだろうというところをすごく楽しみにしていました。
 実際、現場に入ってみたら、松居さんはずっと役者に寄り添ってくれていました。役者から出たアイディアや、ヒロインのさわこを演じた福永朱梨さんと、僕が演じた森君の空気を大切にしてくださったので、本当にリラックスして撮影に臨めましたね」

映画『手』より

――ヒロインのさわこが、なかなか一筋縄ではいかないキャラクターですよね。おじさんが大好きで、日頃、世の中のおじさんを隠し撮りしてアルバムを作っているだけではなく、おじさんたちとも積極的に交際している。それには、父親からの愛情が薄いと感じていることが関係していて、父の愛情を埋めようとしているのかどうか。

「僕はどちらかというと、さわこはそういう愛に飢えているということよりも、本物の愛を受け取ることを怖がっているんじゃないかなと感じました。だから、あそこまで、不特定多数のおじさんたちと付き合っているのかなと。さわこ自体、僕は、わりとふわふわしていると思うんですよね。満たしてもらいたいからセックスをするというよりも、本当に愛されることから逃げているようにとれて。

 完成作を観て、福永さんが演じることで、さわこの逃げている部分がリアルに出ているなとも思いました。すごく不確かな感情なんですが。もしかしたら、さわこは、僕が演じた森に対して一番愛情を感じていたかもしれない。だとすると、”本当の愛って何なんだろう?と。さわこが関係を持つ津田寛治さん演じる上司は、愛の逃げ場にはなっていても、愛の空白は多分埋められていないですしね。様々な受け取り方ができるし、解決しないという意味で、余白がある作品かなと思います」

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