
ユニクロのマレ店にて。インスタレーションを手がける原田さん。
パリ・マレ地区のユニクロ(UNIQLO)で、特別なインスタレーションがスタートしました。コラボレーターは、資生堂トップヘアメイクアップアーティストの原田忠さん。秋冬の定番であるカシミアニットを主役に、日本の伝統とモダニティが融合する独自の世界観を展開しています。


店内に一歩足を踏み入れると、真っ先に目に飛び込んでくるのがこのインスタレーション。設置は11月初めごろまで。
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万華鏡のように。日本の美意識をポップに再解釈
ユニクロが掲げた秋冬のテーマは「Revisiting Classic」。その世界観を受け、原田さんが創作したインスタレーションのコンセプトは「万華鏡ニッポン – ニットと舞う、日本の色彩精たち」です。これは、“伝統×モダン×色彩のダンス”を軸に、和のエッセンスを万華鏡のように多面的に表現したもの。日本の伝統文化に宿る美意識をポップに再解釈したヘッドピースとユニクロのシンプルなカシミアニットが響き合い、日常と非日常が交錯するビジュアル体験を生み出しています。

カラフルなカシミアニットのインスタレーション。
「ユニクロのベースは日本ですし、“和”の引き算の美学や間の取り方をヘアスタイルの中に入れたら、おもしろいかなと思って」と原田さん。
「ニットの展示なので、温かさや軽さを意識しつつ、ニットの色とのハーモニーやコントラストをウィッグに落とし込んでいます。そこにウェーブのクラシックなイメージや編み込みのクラフト感を加味しながらバリエイションを広げました。服のコーディネイトに合わせて、ディテールやテクスチャーで遊ぶ見せ方がしっくりきましたね。華やかさもありつつ、ふと目が止まるような、そんなイメージで作りました」

マネキンの向きや間の取り方を含め、空間全体を統合的に監修。
色・素材・クラフトが響き合うヘッドピース
日本の伝統モチーフを現代的にアレンジしたヘッドピースは、手毬、紙風船、波文様、組紐などをモダンにデフォルメさせた形やディテールが目を引きます。さらに、クラフト感あふれる編み込みやメタリックな質感のパーツが加わることで、繊細さと大胆さが融合する表現に。

クラフト感あふれるウィッグ。グレーからブルーにかけての色のクラデーションも美しい。
「この店のインテリアには鉄が使われているので、メタルの要素もポイントです。色付きのワイヤーで鍵編みのような形状を作り、編み込んだ髪とリンクさせることで、無機質と有機質のコントラストを表現しました。ワイヤーがキラキラ光るアクセントになって、僕としても新たな発見でしたね」

自作したカラーワイヤーの髪飾り。
歴史ある特別な舞台と呼応
ユニクロのマレ店は、パリでも屈指のファッション感度を誇るエリアに位置し、100年以上前の建物をリノベーションした特別な空間です。かつての煙突や道具が残され、歴史の趣と現代性が同居するユニークな佇まいは、他のユニクロでは体感できない唯一の魅力を放っています。そこで展開される今回のプロジェクトは、ユニクロが掲げる日常にある美しさ、機能性を可視化する「LifeWear」の哲学とも深く呼応しています。

貴金属精製工場を改装して生まれたマレ店。ファクトリーの雰囲気をそのまま活かした空間が広がる。
「パリの空気感の根底には、クラフトマンシップやアルティザン的な要素があるように思います。ヘアスタイルにもそうした手が込んでいる部分をちゃんと見せておかないと、説得力が弱くなる気がしたので、ただウィッグを被せて終わりではなく、そこに至るまでの時間の経過も伝わるような表現にしたいと思いました。それを感じていただけたら嬉しいですね」


和テイストを取り入れた独創的なデザインのなかに、凝った手仕事を見せるウィッグ。
最後は現場で。無駄も一つのプロセス
「事前にある程度イメージができていましたが、現場の空気感を大切にしたいので、服に合わせてウィッグを大胆にするのかコンパクトにするのかを決めていきました。だから当初考えていたものとはだいぶ違ってますよね。意外と馴染んでくれて、洋服を邪魔せず、全体的にバランスが取れたかなと思います」


現場でマネキンに合わせ、細部の調整をする原田さん。ユニクロとのコラボレーションは、2020年東京・銀座の『UNIQLO TOKYO』オープニングに合わせて開催された『UNIQLO CREATOR COLLABORATION The Art and Science of LifeWear from TOKYO』にアーティストとして参画して以来、今回が3回目となる。
「フランスでの仕事は、間違いも最終的には仕上がりの一つのプロセスになっていると思うんです。失敗は失敗じゃなくて、むしろ必要なステップ。作っていく過程でのコミュニケーションや無駄話も、実は大事な要素なんですよね。日本にいるとテンポよく進みますが、逆算と準備に注力しすぎて、予定調和にならないことも多い。今回は臨機応変に、そのズレを楽しみながらデザインできた感じです」
原田さんのヘッドピースは、日常に彩りを与える力であり、新しい価値を生み出す挑戦でもあるのです。
●UNIQLO Le Marais: 39 rue des Francs Bourgeois Paris France

マレ店があるのは、おしゃれな店が並ぶフラン・ブルジョワ通り。
原田 忠(はらだ・ただし)
資生堂トップヘアメイクアップアーティスト。航空自衛隊航空管制官から美容師へ転身後、㈱資生堂に入社。宣伝広告、NY・パリ・上海コレクションのバックステージ、著名アーティストのCDジャケットやMV、商品開発など、幅広く活動。アニメや漫画のキャラクターから着想を得たビジュアルは国内外で高い評価を受ける。40代以降の男性に向けたメンズビューティー企画「DIAMENS」を立ち上げ、一般社団法人宇宙美容機構の共創プロジェクトでは、宇宙における美容生活課題の解決や産業発展に取り組んでいる。JHA(ジャパン・ヘア・ドレッシング・アワーズ)では最優秀新人賞を皮切りに19年連続ノミネート、グランプリ2度・準グランプリ4度を受賞。2024年にはNYでの国際コンテストIBIA(インターナショナル・ビューティー・インダストリー・アワーズ)で3部門グランプリを獲得し、世界的評価を得ている。

text : B.P.B. PARIS