普通なら見たくないし、
見せたくないところを映画の中で出してくる。
――高校時代の再会の瞬間、即座に側転するってめまいがするくらいカッコいいですよね。あれはくらいます。
映画『不死身ラヴァーズ』より
佐藤:えっ!あれ、よかったですか?ちょっと厨二病みたいじゃないですか。効くんだ、側転(笑)。これから使ってみようかな!
見上:やめたほうがいい(笑)。松居さんは演劇人でもあって、肉体表現が舞台っぽいっていうのは感じました。りのは感情が高ぶると走るというシーンが多いんですけど、ガチできつかったです(笑)。見上愛自身の肉体の辛さと、りのの辛さをリンクさせるために、わざと肉体的に追い込まれていった気がしていて。撮影中は、そういうことも考えてたような気がします。
佐藤:たしかに見上さんはずっと走ってた。むしろ、飛んでるみたいだった。
見上:佐藤さんはどこがきつかった?
佐藤:なんだろうな?あったかな。うーん。あ、クリーニング屋の甲野じゅんで、アイロンがけは苦労はしたかな。
見上:そこか(笑)。
佐藤:もう、大苦労よ。走る練習もしたけど、アイロンがけは毎日何10枚も練習した。なのに、練習していない見上さんがさらっとアイロン掛けしていて、これはどういうことかと。
見上:ハハハ!
佐藤:僕が松居さんらしさを感じたのは、登場人物がダサいこと。普通なら見たくないし、見せたくないところを映画の中で出してくる。でも、それが心に残るよなっていう。今回の作品もなんか、りのを純真で綺麗で、本当に明るくて素晴らしいっていう風に展開しておきながら、先ほど言っちゃったけど、惨めな側面も見せてくる。僕が松居さんの作品の好きなところはそういうところで、甲野じゅんも、最初はすごいイケキャラかと思いきや、りのが彼の家に行ったら泣いてるし、後半は全部ダサかった。僕は、ほんとは、ブラッド・ピットみたいにかっこよく生きていきたかったの(笑)。残念です(笑)。
見上:松居さん、対役者への演出方法が違っていて、私には、今のテイクをなぜ撮り直すのか、細かく説明があって、『僕はこう思うんだけど、見上さんはやってみてどういう気持ちだった?』と、丁寧に話しながら進めてくださったんです。
佐藤:俺はもう全然喋ってない。僕は聞くんですよ。いつも不安だし、『これ、大丈夫ですかね?』とか。でも、ほぼ返事が『うん、大丈夫大丈夫』。1回も、やり直しの理由も説明されなかった。本当に見上さんが言う通り、タイプによって言葉を与えた方がいいのか、与えない方がいいのか、演出を変えてたんだと思う。そもそも、3人で作品の話をしたことないんですよ。僕は世間話程度ぐらいしか話してない!
陽の部分をめっちゃ引き出されたと思います。
――衣装についてうかがいたいのですが、りのはビタミンカラーの服が多く、また、見上さんの手脚の長さを生かしたショートパンツやミニ丈のスポーティな装いが多かったのですが、どういうコンセプトでしたか?
映画『不死身ラヴァーズ』より
見上:りのの衣装は松居さんと、スタイリストの望月恵さんが相談しながら作り上げたもので。私はそのスタイリングを着ることで、役をとらえてヒントにしていきました。短パンに関しては、りのがじゅんに黄色いお花を渡すシーンがあるので、それに合わせて色が決まり、象徴的なものになりましたね。
佐藤:一方、僕の場合は、大学生時代はズボン1個に上2アイテムだけだからね。衣装合わせもすぐに終わりました。
見上:でも、エルメスのパジャマを着るシーンがあったよね。
佐藤:ありました、毎日着古したような使用感があって、それも含めてよかったです。
――りのの甲野じゅんへの純愛を、小さい頃から見続けてくれている親友の田中くんを青木柚さんが演じていますが、彼の不憫な立ち位置に対して、何か一言、いただけないですか?
映画『不死身ラヴァーズ』より
見上:私は田中を不憫だとは思ってなくて。実際、羨ましいとセリフでも言っていますが、自分にないものを持っているりの見ていて楽しいんだと思います。
佐藤:田中が、りのを羨ましいっていうの、憧れとは違うよね。自分はりのみたいになれないのがわかった上での、羨ましさですよね、多分。
見上:いいよな、そういう生き方もっていう意味だと思います。田中は田中で、りのとは違うコミュニケーション能力の高さがあって、彼は彼のままでいいと思います。
――最後に、今回松居大悟監督との初顔合わせで、自分の中でここが最も引き出されたなという新たな面を教えてもらえますか?
佐藤:なんだろうな。でもさっきの続きで、自分の中のダサい部分なんじゃないかと思います。
見上:今まで、こういうダサい役はなかったでしょ?
佐藤:うん、なかった。今回は、演じていてもおかしかったもん。オッケーって出されても、それが本当にオッケーなのかわからない。それが結構今回は多かった気がするな。
見上:松居さんは、佐藤さんを安心させないっていうことすら、計算していそうだよね。私自身は、これまで闇を抱えているような、謎めいた役が多くて。りのもだいぶ変わった人だとは思いますが、こんなに弾けて、こんなにも好き!ってまっすぐ気持ちを伝える役を演じて、陽の部分をめっちゃ引き出されたと思います。
Ai Mikami 2000年生まれ、東京都出身。’19年のデビュー以降、映画、ドラマ、舞台、CMと幅広く活躍。’21年、ドラマ「きれいのくに」(NHK)に出演し、注目を集め、同年に映画『衝動』(土井笑生監督)でダブル主演を務めた。近年の主な出演作に、映画『異動辞令は音楽隊!』(’22年、内田英二監督)、『レジェンド&バタフライ』(’23年、大友啓史監督)、『658km、陽子の旅』(’23年、熊切和嘉監督)、MBS主演ドラマ「往生際の意味を知れ!」(’23年)、Netflix「幽☆遊☆白書」(’23年)、映画『すべての夜を思いだす』(’24年、清原惟監督)、KTV・CX「春になったら」(’24年)、NHK大河ドラマ「光る君へ」(’24年)、CX『Re:リベンジ-欲望の果てに-』などがある。
見上さん着用:キャミソールトップ ¥30,800、スカート ¥59,400、チュールカラー ¥36,300 ミューラル(https://murral.jp/ )/ イヤーカフ ¥10,450 ジュスティーヌ クランケ(ザ・ウォール ショールーム、TEL 03-5774-4001)/ その他 スタイリスト私物
Kanta Sato 1996年生まれ、福岡県出身。2014年に「劇団EXILEオーディション」に合格し、’15年に「劇団EXILE」に正式加入。同劇団の公演「Tomorrow Never Dies 〜やってこない明日はない〜」(’15年、作・演出:上條恒)で初舞台を踏む。主な出演作に、初主演を務めた『イタズラなKiss』シリーズ(溝口稔監督)、『いのちスケッチ』(’19年、瀬木直貴監督)、『花束みたいな恋をした』(’21年、土井裕泰監督)、『軍艦少年』(’21年、Yuki Saito監督)、MBSドラマ「あせとせっけん」(’22年)、舞台『怖い絵』(’22年、作・演出:鈴木おさむ)、『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』(’23年、演出:白井晃)、『正欲』(’23年、岸善幸監督、舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』(’24年、演出:上田誠)など
『不死身ラヴァーズ』
長谷部りのは、幼い頃に“運命の相手”、甲野じゅんに出会い、忘れられないでいた。中学生になったりのは、ついにじゅんに再会。後輩で陸上選手の彼に「好き」と想いをぶつけ続け、やっと両思いにーー!しかしその瞬間、彼は消えてしまった。まるでこの世に存在しなかったように、誰もじゅんのことを覚えていないという。しかし高校の軽音楽部の先輩として、車椅子に乗った男性として、バイト先の店主として、甲野じゅんは何度でも彼女の前に現れた。まったくの別人として。その度にりのは恋に落ち、全力で想いを伝える。なぜ、甲野じゅんは何度もりのの前に現れるのか?何度も出会い、何度でも好きだと伝えるりのの恋の結末は。
監督・共同脚本:松居大悟
出演:見上愛、佐藤寛太、青木柚、前田敦子、神野三鈴ほか
東京の「テアトル新宿」ほかにて、全国公開中。ポニーキャニオン配給。
©︎2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©︎高木ユーナ/講談社