「装苑」モデル出身で、俳優としても活躍するモトーラ世理奈さんが、写真家の松岡一哲さんと新たな写真集『せりなが』を出版。オール韓国ロケで撮影された写真には、モトーラさんの「今」がみずみずしく、力強く写し取られています。2023年からはロンドンと韓国・ソウルにも活動拠点を広げたモトーラさん。自らスタイリングも写真のセレクトも行ったこの写真集に込めた思いを、松岡さんとの対話でお伝えします。
photographs : Josui (B.P.B.) / interview & text : SO-EN
「表紙だ!」って言っていました
——今回の写真集『せりなが』で、モトーラさんの写真集は7冊目ですね。
松岡一哲(以下、松岡):ミューズですよね。
——写真家の多くが撮りたいとリクエストする「ミューズ」で写真集もたくさん出ているモトちゃんなので、今回、松岡さんが撮影前に写真家としてどんなプランニングをしていたのかが気になりました。
松岡:年に何回か、ブランドのカタログなどでモトちゃんを撮影させてもらう機会があったんです。その度に「こういうモトちゃんが素敵だな」とか「こういうふうに撮れたらいいな」という思いがあって、今回も「一冊で彼女の魅力が伝わる本を作りたい」という思いはありましたが、具体的にあまり考え過ぎないようにしていましたね。唯一あるとすれば、そのままのモトちゃんを撮りたいということでした。
——ロケ地が韓国というのも、この本には大切な要素でしたか?
モトーラ世理奈(以下、モトーラ):韓国は最近よく行っている好きな場所で、そういう場所で撮れるのはとても嬉しかったです。あとは、海外で撮影すると半分くらい旅のような気持ちになれて新鮮。新しい発見がありますし、思い通りにいかないことがあっても楽しいです。
松岡:僕は初めての韓国だったので、夜のスーパーでスナック菓子を買うだけで新鮮でした。郊外で出会った人たちも、強烈で面白かったな。
編集・鈴木満帆吏:行く予定がなかった寺院で素敵な写真が撮れた、いいサプライズもありましたね。
松岡:そうそう。赤い装飾の天井が印象的な写真なんだけど、そこはもともと行く予定がなかったんです。最後の帰り道で見つけて「きれいだね、行ってみよう」となって。そこで撮った写真がたくさん使われることになって嬉しかったです。
写真集『せりなが』より
モトーラ:ちょうどその時は、祀られている神様の生誕を祝う期間で、提灯がたくさん飾られていたんですよね。
松岡:いつもあるわけじゃないんだよね。
——その写真は、本の最後のほうに掲載されていますよね。もしかして『せりなが』の写真の順番は、旅程と同じですか?
松岡:ほとんどそうなんですよね。ただ、パッキング中の写真が寺院の前にあるけど、本当はその場面が最後。「閉まんない!」みたいにしているモトちゃんの写真。
モトーラ:駐車場で……(笑)。
松岡:そのあと、関わってくれた人たちと一緒に記念写真を撮って締めくくったのが、いい思い出です。
写真集『せりなが』表紙
——印象的な表紙のカットはどのように決まりましたか?
松岡:表紙はみんなの意見が一致したんです。僕は最初から「絶対これだな」って思っていたのですが、そういうのって大体その通りにはならないんですよね。でも今回は、モトーラさんもデザイナーの藤田裕美さんも「これだ!」って言ってくれて。
表紙は、撮影の前日にご飯でも食べようかって言って会った時に、出会い頭で撮った1枚目の写真なんです。撮る予定ではない日でした。撮った時のこともよく覚えていて、「上手く撮れてたら(表紙は)これかもな」って思った。それで現像したら、珍しくピントが合ってたから嬉しくて(笑)。ここから何日間か撮影できるんだ!ってワクワクした思い出があります。
この写真の、不敵な笑みがすごく可愛いですよね。「私の世界!」って言っているような強さのある希望を感じるし、見る人も勇気をもらえるような表情だなって。
モトーラ:一哲さんがこれを撮った時に「表紙だ!」って言ったのを私も覚えています。
松岡:えっ、言ってた!?
モトーラ:言ってました(笑)。
松岡:そっか、言っちゃってたんだ(笑)。撮ってる間に「これだ!」ってわかるものなのですが、出来上がってみると写ってなかったり、ストロボで真っ暗になってたりすることはよくあるんです。だから表紙になってほしい、写っててくれ!と思って言ったのかも(笑)。写ってなかったらスーっとなかったことにするんだけどね。
モトーラ:あはは(笑)。
写真集『せりなが』より
人の思いが一個一個重なってできていった
——モトちゃんが私服をスタイリングしたパートと、韓国のスタイリストさんがスタイリングをしたパートがありますね。
モトーラ:はい。1日だけファッションパートで、韓国人のヘアメイクさんとスタイリストさんが来てくれて、ファッション写真として撮りました。それ以外は私服で、素の感じを撮っています。そのお二人とお仕事をするのは今回初めてだったのですが、一回、プライベートでお会いしたことがあって。いつか一緒にお仕事ができたらいいなと思っていたんです。いいチームでした。
松岡:ね、素敵でした。
——ファッションパートでお気に入りのスタイリングはありますか?
モトーラ:制服のスタイリングです。
松岡:これ、ジャケットが韓国の制服なんだよね。
写真集『せりなが』より
モトーラ:そうです。中のワンピースは韓国のブランドのもの。制服だけどちゃんとファッションになっていてお気に入り。
松岡:この服は、カラオケとネットカフェで撮りました。ネットカフェは韓国のチームが「ネットカフェいいよ!」って言っていて。最初、自分たちは光もないしなぁと思っていたのですが、行ってみたら納得しました。韓国の若い子はネットカフェでゲームをするのが好きみたいで、独特の熱気があるいい場所でしたね。あわせてるブーツはモトちゃんの私物。
モトーラ:移動の時に私物のブーツで歩いてたら、スタイリストの子が「それいいね」って言ってくれて。たまたま韓国のブランドでした。
——韓服(チマチョゴリ)も印象的です。
松岡:これも初めからしっかり着る予定があったわけではないんです。伝統舞踊の先生が持っているスペースに撮影に行ったら、そこのスタッフの人が「着てほしいな」と言ってチマチョゴリを着つけしてくれて。それでまた、似合う!
モトーラ:その時に初めて着たのですが、日本の着物に比べると締め付けも少なくて、ふわっとしていました。
松岡:チマチョゴリを着ると普通は脚が見えないから、ちょっと脚を見せるようなポーズもとってもらって、その写真もお気に入りです。靴はその場にあったものがたまたまピッタリでね。
写真集『せりなが』より
——「これを着てほしい」という人がいるから着るとか、素敵な場所があるからそこで撮影するとか、偶然性を大切にしながら即興性も取り入れて撮影されていたんですね。
松岡:人の思いが一個一個重なってできていった気がします。友人が、似合うと思うからって作ってくれた服もありました。それぞれがやってくれたことを撮ってまとめた感じがあるかな。
モトーラ:そうですね。
——写真はどのように選ばれたんですか?
松岡:すごくたくさん撮ったのですが、最後に選ぶ時はモトーラさんにも一緒に見てもらって作りました。
モトーラ:ずっと「早く見たい!早く見たい!」って言ってた(笑)。絶対見たいと思ってた。
松岡:ちょっと間があいちゃってね。
モトーラ:4月に撮って、写真を見たのが9月くらい。ちょっと忘れかけていた記憶も、写真を見ながら思い出して。すごく良かったです。もう胸いっぱいって感じでした。
松岡:嬉しいねぇ。
全部の感情が入っているような作品を
——モトちゃん、本を作るのは楽しいですか?
モトーラ:本が好きだから、やっぱり楽しいです。あと、何かを作ることがまず楽しいです。「好き」を共有できるメンバーだったから、打ち合わせの時から楽しくて。『せりなが』では、こうしなきゃいけないっていうのがなかったので、どういうのを作ろうかっていうところから一緒に考えられたのが嬉しかったです。
——はじめはどんな本にしたいと思っていましたか?
モトーラ:このタイミングで写真集を作るっていうお話をいただいて、どういう本を作りたいんだろうって考えて……。今の自分が何を好きかとか、どういうものが好きかとか、自分でも自分のことがよくわからない時があるけど、それも自分。それなら、今しかない「今」を撮ってもらいたいなって。一哲さんは素を見せられる人だなと思っていて、撮ってほしかったんです。
本が出来上がってみたら、自分自身がそこにいる感じがしました。普段思っていることや大事にしていること、こうなればいいなと思っていることが伝わるような気がします。
松岡:写っている人が喜んでくれるのは、その人が自分を肯定できてるっていうことだからすごく嬉しいですね。それって、写真を通して「これはあなたの世界で、この街も何もかもあなたのためにある。あなた自身があなた自身のためにあるんだ」みたいに言えてるということなのかなって。そして本人がそう思ってくれるなら、写真を見た人も同じように感じてくれる可能性があるということ。
写っている人が少しでも新しい自分の美しさを発見してくれたら、その人の世界が広がっているっていうことですよね。それは、ものづくりの根本だなとも思います。
撮っている間はとにかく夢中になっているからあまり考えられていないのですが、僕は、全部の感情が入っているような写真が出来上がると嬉しくなります。『せりなが』の表紙の写真みたいな、笑っているけどちょっと怒っているようにも見えて、なんなら泣いているようにも見えるような……。そのくらい凝縮されたものじゃないと人にはなかなか届かないという実感もあって、モトーラさんはそこがすごい。出会い頭の1枚目でそれができちゃうんだから。
——「全部の感情が入っている」って、見る人の想像の余地に委ねられる部分が大きいということですよね。同じ人でも見るタイミングによって見方が変わったり。
松岡:実際はそうじゃないかもしれないけれど、自分と同じ気持ちだ!というものに出会うと感動しませんか? 「私も実はこう思ってた」と思わせてくれる作品って、実は許容範囲がすごく広いというか、みんなをそう思わせちゃう力がある。なるべくそういうものを撮りたいです。
——松岡さんにとってそういう作品ってなんですか?
松岡:いろいろありますけど、なんだろうな……。ケンドリック・ラマーの新しいアルバム『GNX』とか、(ポール・)セザンヌの絵とかかな。もっと心象に向き合わなきゃと思うような作品はいっぱいあります。
——モトちゃんが惹かれる作品の傾向はありますか?
モトーラ:うーん……(しばらく考えて)。こういう世界もあるんだって思わせてくれるもの。音楽でも映画でも、自分だけじゃないんだって思わせてくれるものかな。あとは夢を与えてくれるような作品もすごく好きで、小さい頃からかわいいものがすごく好きだから、そういうものが詰まっている映画も、見ているだけで幸せになります。
韓国と日本、それぞれの良さが混ざってほしい
——「新しい世界を見たい」という気持ちは、東京、ロンドン、ソウルを行き来するモトちゃんの今のライフスタイルにも通じている気がします。
モトーラ:そうですね。ずっと柔軟でいたいという気持ちがあって、感覚的にはいつまでも子供のままでいたい。そういう大人を見て「かっこいいな」って小さい頃に思っていたので、いろんなことを知りたいとか色んな人に出会いたいとか、それは多分、これからもずっと持ち続ける気持ちだと思います。
——韓国はどんなところが好きですか?
モトーラ:好きなところはたくさんあります!K-POPも好きだし……。日本と似ているんです。
松岡:似てると思った!
モトーラ:似てますよね。お辞儀をする文化も、世界規模で見れば言葉も似てる。敬語もあるんですよ。だけどやっぱり文化の違いはあって、お互いをリスペクトしているところがある。だからもっと混ざり合ったら楽しいだろうなって思います。
——韓国で、現地のスタッフのクリエイティブに参加して感じた違いもありますか?
モトーラ:私は韓国の雑誌を見て「自由で楽しそうだな」って思っていたのですが、韓国の友達は「日本の雑誌のほうが面白い」と言っていたんです。それは、日本のほうが色んなテイストやジャンルがあって、もっと自由だから。確かに韓国は、ひとつの流行りが全体にいきわたる感覚があります。両者の良いところがもっといい感じに混ざっていけばいいなって思います。
松岡:この本がそういう架け橋になればいいね。
モトーラ:はい。本当に!
モトーラ世理奈×松岡⼀哲写真集『せりなが』
撮影:松岡⼀哲
定価:¥4,730 発行:manpan press
発売:2025 年1月10日(金)
Serena Motola ⚫︎ 1998年生まれ、東京都出身。『装苑』でのモデルデビューを皮切りに数多くのファッション誌やアパレルブランド広告でモデルとして活躍。パリコレクションやロンドンコレクションへの出演も果たす。「少女邂逅」(2018年)で映画デビュー以降、「ブラック校則」(2019年、日本テレビ) 映画「⾵の電話」(2020年)、映画「アイスクリームフィーバー」(2023年)、など俳優としても注⽬を浴びる。2023年よりロンドン、ソウル、東京と活動の幅を広げており、今後さらなる活躍を期待されている。
Ittetsu Matsuoka ⚫︎ 1978年生まれ。写真家。日本⼤学芸術学部写真学科卒業後、スタジオフォボスに勤務し、独⽴。フリーランスの写真家として活動するかたわら、2008年6月よりテルメギャラリーを立ち上げ、運営。主にファッション、広告などコマーシャルフィルムを中⼼に活躍する⼀⽅、日常の身辺を写真に収めながらも、等価な眼差しで世界を捉え撮影を続ける。主な個展に「マリイ」 BOOKMARC(東京、2018年)、「やさしいだけ」amanaTIGP(東京、2020 年)、「what i know」 amanaTIGP(東京、2020年)「TOKYO GAMES」渋⾕スクランブル SKY GALLERY(東京、2023年)。Taka Ishii Gallery Kyobashiのこけら落としグループ展に参加。
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