木竜麻生×藤原季節 対談、
映画『わたし達はおとな』のバックステージ

一瞬、本当の自分が出現しています。(藤原季節)

――監督・脚本の加藤さんが書く物語についても聞かせてください。藤原さんから見てどんなところが魅力的ですか?

藤原:曖昧さが好きです。複雑さといったら簡単になってしまうけど、そういうものを書き続けている気がします。
 誰かと付き合うっていうのも一つの約束じゃないですか。付き合うとか父親になるとか、そういう約束や契約、社会的な名前がつく一個前の場所をずっと行ったり来たりするという、それが見ていて楽しいです。図らずも共感してしまいますしね。

――共感も?

藤原:共感・・・しちゃった!とか。あ~、共感していいのか自分!とか。我が身を振り返ります。加藤さんの作品を何年も観続けたり演じていて、行いが正しくなってきました。こういう人になってはいけないなと(笑)。

――教訓のような作用が…(笑)。木竜さんにとってはいかがですか?

木竜:映画にはそういう部分を孕んでいてほしいといつも思いますが、観る側が、物語の先や前を想像する余白を残してくれているところが好きです。私達が作ったものをどう見てどう受け取るかを、観客のかたにちゃんと委ねている部分があるように感じるんです。
 そういう体験ができる非日常を映画で作るのに、ものすごく日常に近い人や空気を感じさせてくれるのは、加藤さんが書くもの、作るものの面白さかなって思います。

映画『わたし達はおとな』より

――とてもよく分かります。だからこそ、最後のお二人の場面にも緊張感がみなぎっていて。

藤原:緊張感ありますよね、長回しでもあるし。あの時、加藤さんは現場で、「今は救急車の音とか鳴らないでくれ~!」って思っていたらしいです。もうNGが出せないから。

木竜:一回目か二回目で、「いった!」って思ったらしくて、すごい祈ってたみたいですよね。頼む!って(笑)。それを後から聞いて嬉しかった、愛情を感じて。
 あのシーンは、一番、自分が知らない自分の顔や声色を知った場面でした。初号試写(※)で観た時に恥ずかしくなるほど。「そんな声が出るんだ、こんな話し方してたんだ」って。
※完成した映画を関係者が観るための、最初に行われる試写のこと。

――優実ちゃん、20代前半で経験することとしては、相当ハードな体験をしますから・・。

木竜:はい。家族のこともありますしね。

――私は、妊娠が分かったタイミングで母親がいなくなるのが一番きついと思っていました。でもよくよく見ていると、優実の台所での手つきにお母さんの存在を感じられたりして。

藤原:料理をいれたタッパの底を触ってみたり。

――そうなんですよね。そういう所作の一つ一つから、彼女の中に母親が「いる」という気がしたのですが、演じている時は、母親の存在はどのようなものとして木竜さんの中に存在していましたか?

木竜:『わたし達はおとな』という、この映画のタイトルを私がすごくいいなと思うのは、優実にはちゃんと子供の部分があるから。ちゃんと甘えがあるのは、多分直哉も一緒ですけど。
 そして、優実にとって、お母さんが一番甘えられる存在のような気もしていました。その甘えられるところがなくなった時、甘えることを無意識的に意識するということはあるのかなと思います。

――藤原さんは、彼女(優実)との関係性においては、女性の敵のような役を引き受けていらっしゃいますよね。『のさりの島』(監督:山本起也、2021年)や『中村屋酒店の兄弟』(監督:白磯大知、2020年)で演じていたような、どこにでもいそうな青年が道を踏み外してしまうのともまた違い、隣人の身勝手みたいなものを表現するのは難しく苦しそうだなと想像していました。

藤原:実はすごく楽しいです(笑)。人が書いている、自分とは違う人間がどんどん一人歩きしていって、まわりの人に嫌われたりしているのを見るのは楽しくて、「もっといけ、やったれ」みたいな気持ちになってきます。きわめて客観的ですよ。
 ただ、どこかで自分の実人生や、演じている自分の体や心と、一瞬クロスオーバーするんです。その瞬間、急に泣けてきたりして。そのとき、「また新しい自分に出会っちゃった!」というのはあります。それまでは”待ち”ですね。

――直哉の場合、どこにそのご自身と重なる地点がありましたか?

藤原:やっぱり最後の場面ですね。そこは木竜さんが頑張るシーンなので、僕にできることは祈ることだけだと思っていました。
 なんとなく分かっていたんです。その場面は最後に撮っていて、ここで、木竜さん演じる優実が限界まで運ばれていくなっていうのが、もう空気で分かっていた。あとは途中で救急車のサイレンが鳴らないとか、俺が噛まないとかそういうレベルの話だなと思って立ってるだけ・・・のはずだったのに、「あれっ、確実に泣く予定じゃなかったのに泣いてるな自分」っていう瞬間があって。あとで加藤さんに聞いたら、「あそこで涙出るって分かってたで」と言われました。なんて恐ろしい男だ。

木竜:(笑)

藤原:なので、ラストシーンには一瞬、本当の自分が出現しています。それまでは「木竜さん頑張れ!!!」って。「ぜんぶ任せた!」って思っていました(笑)。

木竜:そんなわけないんだけどなあ(笑)。私は、その直哉の顔を見てハッとしました。

――おっしゃっていた驚きのあったシーンというところですね。

木竜:そこで私がハッとするところも加藤さんは織込み済みなんでしょうけど、優実は見たことなかったはずなんです、直哉の泣くところ。だから一番見たかった・・・というか、近づけたような気がした瞬間にはもう戻れないところにいて、何とも言えなかったです。

藤原:そう、後戻りできなかった。俳優としても、ワンカットだから後戻りできず進むしかなくて。

――現実と物語と、二重に切迫感のある時間が流れていたんですね。

藤原:まさにそうです。演じている切迫感と役の切迫感が併走している感じで、白熱していました。

映画『わたし達はおとな』より

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