映画『陰陽師0』山﨑賢人(主演)×佐藤嗣麻子(監督)対談  
令和に蘇りし呪術師、安倍晴明はどのように作られた?
芝居、アクション、衣装などから二人が解説。

2024.04.19

山﨑:大変でした。裾を踏んじゃったりするので、慣れるまでは足さばきが難しかったです。あとは、烏帽子(えぼし)が高いのでぶつからないように動くのに苦労しました。現代っぽい動きでかわすことができないので、必然的に腰から落としていくようになります。

佐藤:すごくうまかったですよ。

山﨑:ありがとうございます!走る時も大変でした。

佐藤:本来は走ることを想定していない装束だからね(笑)。

山﨑:龍から逃げている時の全速力、どうしよう!って(笑)。

佐藤:あはは。それでも足が本当に速いから、装束を着て走っている山﨑さんに誰も追いつけなかったんですよ。

佐藤:そうなんです。というのも、平安中期の装束に使われていた絹糸を吐き出す蚕は、「小石丸」という日本古来の在来種の蚕で、本当に小さい。だから糸も細くて軽く、その糸で仕立てた生地は、とても柔らかくて軽かったはずなんです。今のシルクは、外国由来の大きな蚕の糸ですし、糊もついているためハリも重量感もあります。けれど今回は、その当時の日本の絹を、画として再現したかった。

十二単も、今よく見るものは、おそらく明治時代頃に浸透したものではないかと思います。平安中期の女性の装いはもっと軽やかだったはずで、そういうことを再現したかったんですよね。そして夏の装束だったので、晴明の狩衣(かりぎぬ)は、紗(しゃ)のように透ける生地になっています。狩衣といっても通常のものとは袖付けのあきを変えて、アクションに対応できるようにしました。

山﨑:衣装は本当に綺麗でしたし、かっこいいなと思っていました。アクションも、揉み合ったり殴り合ったりするような動きではなく、衣装に合っていましたよね。無重力ではないですけどちょっとそれに近いところがあって、「戦って倒す」ではなく「いなして逃げる」中でのアクションでした。

佐藤:腕を動かすと、広い袂(たもと)がふわっと広がって本当に綺麗なんですよね。

山﨑:どこか人間離れしているようなアクションは、演じていてすごく楽しかったです。

佐藤:いつものアクションとは気持ちが違った?

山﨑:全然違いましたね。相手を倒していくようなアクションの時は殺気を持っていますけど、晴明の時は余裕でした。 相手というよりもその先の博雅を向いていますし、その場のことをあまり考えないで前に進むような感覚がありました。

佐藤:なるほどね。私は普段、ワイヤーアクションでも、アクション監督には重力を感じるような動きをリクエストするのですが、今回は“狐の子”の晴明ですし、呪術師なので、アクション監督の園村健介さんには「重力は無い気味で大丈夫です」と伝えていました。

佐藤:そうそう。ちょうどオリンピックの時期だったので、園村さんが、羽生さんのスケートを見ていたんです。

山﨑:それを聞きつつ、ビデオコンテを見て、なるほどと思いました。ただ、浮いているような動きは氷上だからできるものなので、僕自身がアイススケートを強く意識することはなかったです。氷上のイメージを持ちつつ、砂利の上で動くという変換ができれば面白いかなと思っていました。晴明ならその動きがアリですからね。

佐藤:こうやって、山﨑さんはさりげなくいろんなことをしてくれるんです。あまりにさりげないので、現場では気づけなかったこともあるのですが、編集しながら「すごい!」と思うことがたくさんありました。特に最後のバトルの場面の微妙な表情。本当にかっこよかったです。

山﨑:うわ〜、よかった!

佐藤:あのシーンは、大変だったんですよね。撮影用のスモークをたくさん焚いていたので現場は煙だらけだったのに、私は「あまりまばたきをしないでね」と注文しちゃったんです。晴明の人間離れしたところを表現したかったので。あの環境では目が痛くてしょうがないはずなのに、すごく頑張ってくださり、まばたきをほとんどしないでいてくれました。そういう姿を見ていると、表には出さなくても、山﨑さんって実はすごく負けず嫌いなんじゃ?と思います。

山﨑:そうかもしれません(笑)。

佐藤:私はヴィヴィッドできれいな色合いが好きなんです。日本映画はどちらかというと濁りのある暗い色彩が多いと思うのですが、そうではなく明るい鮮やかな色合いにしたくて。ただ、その分、影はちゃんと暗くしなければならないのと、私の映画は全部そうなのですがーーすべて逆光で撮るんです。そのほうが光がきれいに見えるんですよね。あとは、晴明が青色、博雅がターコイズブルー、というようにキャラクターに対して色も決めてしまいます。すると空間がその色調になっていく。

山﨑:今回、セットもすごく豪華でした。特に、徽子(よしこ)女王の部屋の地面に花が散らばっていたり、博雅の烏帽子(えぼし)にも花が挿してあったりと、色使いが衣装を含め素敵だなと思っていました。

佐藤:そこが本当に大変でした。特に、今言ってもらった徽子の部屋の庭には苦労しました。どうしてもCGっぽくなってしまうのを、最終的に光を動かすことで解決して。チラチラ光を動かすとリアルになる、ということを発見するまでが大変でしたね。

獏さんが書いた原作の中に、平安中期は「闇が闇であった時代」というような記述があるんです。それで思い出したのが、若い頃に旅行した、マレーシアのプランテーションの景色。そこには一切の光がなくて、唯一、懐中電灯を照らすことで地面の場所がわかるのですが、その電気をパッと別の場所に動かすと、あまりにも暗いから平衡感覚がなくなって、どこが地面だかわからなくなってしまう。そんな深い闇から見える空には、黒板消しを叩いて粉が舞った時のように星が瞬いていました。それはもう、天の川も星座もわからないほどの細かな星で。

山﨑:すごい。

佐藤:平安時代の夜空も、きっとそうだったんじゃないかなと思うんです。いや、もっともっとすごい星空だったかもしれないね。だから今回、空もまるで宇宙的に星が見えるようにしました。

佐藤:当時の人々は目に見えないものを恐れていたと思うのですが、それは現代の人たちも同じですよね。フェイクニュースも、ウイルスもそう。目に見えないものを恐れるということは実は今も続いていて、その恐怖心を利用して、人を操ることもできてしまう。それがいわゆる呪い、「呪(しゅ)」なのですが、呪は祓(はら)うことができます。この映画では、そうした呪を祓うにはどうしたらいい?ということを言っているので、それを皆さんが見つけてくださったら嬉しいです。見えない「呪」を祓う方法を覚えてほしいです。

山﨑: 本当にそうですね。もともと自分も、目には見えないものに興味があったのですが、それはワクワクする一方で、不安にもなるものです。そういう人が持つ気持ちは、さっき監督が言ったように昔も今も一緒なんじゃないかな。もしもそれでネガティブな方向にいってしまうのなら、晴明のように、事実を見て、その気持ちを祓い除けてもらえたらと思います。


『陰陽師0』
舞台は、呪いや祟りから都を守る陰陽師の学校であり省庁、《陰陽寮》が政治の中心だった平安時代中期。呪術の天才と呼ばれる若き安倍晴明(山﨑賢人)は陰陽師を目指す学生とは真逆で、陰陽師になる意欲や興味が全くない人嫌いの変わり者。ある日晴明は、貴族の源博雅(染谷将太)から皇族の徽子女王(奈緒)を襲う怪奇現象の解決を頼まれる。衝突しながらも共に真相を追うが、ある学生の変死をきっかけに、平安京をも巻き込む凶悪な陰謀と呪いが動き出す。日本を代表する衣裳家の伊藤佐智子さんが手がけた衣装をはじめ、セットとVFXが融合する映像美、映画独自に作り上げられた呪文や印など、見どころがたっぷり。
脚本・監督:佐藤嗣麻子
出演:山﨑賢人、染谷将太、奈緒、安藤政信、村上虹郎、板垣李光人、國村隼/北村一輝、小林薫
2024年4月19日(金)より全国公開。ワーナー・ブラザース映画配給。
©2024映画「陰陽師0」製作委員会

Shimako Sato
1964年生まれ、岩手県出身。ロンドン・インターナショナル・フィルム・スクールにて映画制作を学ぶ。監督作に、映画『ヴァージニア』『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』『アンフェア the answer』『アンフェア the end』など。ドラマ「独身貴族」「ハイエナ」などの脚本執筆も手がける。

Kento Yamazaki
1994年生まれ、東京都出身。近年の主な主演作品に映画『キングダム』シリーズ、『ゴールデンカムイ』、Netflixドラマ「今際の国のアリス」シリーズなどがある。待機作に、映画『キングダム 大将軍の帰還』、連続ドラマW「ゴールデンカムイ 北海道刺青囚人争奪編」。Netflixドラマ「今際の国のアリス」シーズン3の制作も決定している。

山﨑さん着用
ジャケット¥462,000、シャツ¥341,000、パンツ¥231,000、ブーツ¥209,000、ベルト¥97,900 サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン クライアントサービス) / ウォッチ¥4,356,000 LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ(LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン株式会社 ウブロ) / そのほかスタイリスト私物

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