現在公開中の映画『青春18×2 君へと続く道』は、台湾を舞台に、高校生のジミー(シュー・グァンハン)と日本から来たバックパッカーのアミ(清原果耶)が共に過ごしたかけがえのない時間と、36歳になったジミーが、アミへの思いを胸に日本を旅する時間を描く。『余命10年』、『新聞記者』、『ヤクザと家族 The Family』、『ヴィレッジ』などの藤井道人監督が、大切な記憶と旅の物語を繊細に映し出し好評を博している。
劇中、物語を鮮やかに彩るのは、清原果耶さん演じる絵本作家志望のアミが描く絵。この大切な絵を描いたのは、絵本作家のよしだるみさんだ。総合芸術である映画で、「登場人物が描く絵」という重要なパートを担ったよしださんに、その体験についてたっぷり教えていただきました。映画と絵本、二つのクリエイションが混ざり合う、得難い創作の裏側とは?
interview & text : SYO
『青春18×2 君へと続く道』で、よしださんが手がけた壁画。
——はじめに藤井監督からどのようなオファーがあったのでしょうか。
よしだ:弟から連絡が来たときには、わあ、嬉しいな。どんな絵がいるのかなあ、くらいに思っていました。(※編集部注 よしださんは、藤井道人監督の実姉)ただ、最初は一枚台湾の絵を描くというお話だったのが、だんだん枚数が増え、どんどん大きなお話になっていき、これはちょっと無理かもしれない……と青ざめました。監督からの依頼は「エモーショナルな絵を!」。そして「アミが見た景色をアミになって描いてほしい」というのが製作陣の皆さまからのメッセージでした。私は器用ではないので他の人になることは難しいし、映画の世界は初めてです。日程もタイトで、皆さんに迷惑をかけたら大変なことになるし、お断りした方がいいのではないかしらと迷ったけれど、映画の世界のプロの人たちが、きっと私の中にアミのかけらを見つけて、できるだろうと思って下さったのだろうから信じてみよう、とお受けしました。
『青春18×2 君へと続く道』より、清原果耶さん演じるアミ。
——アミと共通点を感じられるところはございましたか?
よしだ:シナリオを読んでみたら、アミとは共通点がたくさんありました。アミがしていたように、スケッチノートを持ち歩いて見たものや感じたことを描いたり、出会った人に絵を見せたりプレゼントしたりすることは、私も小さな頃からしていました。また、旅先で初めて会った親切な人に助けてもらったり、仲良くなったりしたこともあります。アミは雪でいっぱいの故郷の部屋でひとり絵を描いていたところから、台湾の楽園のような温かさのなかで人の優しさに触れて嬉しかっただろうな、友達ができて楽しかっただろうな……と、すんなり自然に思い、取り組むことができました。
よしださんが描いたアミのスケッチブック。
——では、一番難しかったことはなんでしょうか?
よしだ:一番難しかったのは、撮影される前の光景を、これから監督が撮りそうな絵を想像して描くことでした。でも、こうかなあ、とアイディアスケッチを監督に送るとどれもとても気に入ってくれて、嬉しかったです。私たち姉弟は仲がいい方だと思うけれど、お互いに早くからやりたいことがありそれぞれとても忙しくしていたので、全然、途中のことを知りません。でも、今までになく連絡をしあって、まだ無いパズルのピースを作ってゆき、一つの作品を生み出す機会をいただきました。弟のお仕事を間近で見られて面白かったし、凄いなあと思えて幸せでした。
台南での壁画の制作風景。
——壁画について、使用された画材や制作中のエピソード、込められた思いなどをお教えください。
よしだ:今回の作品は、実は色んな画材を使っています。絵葉書と、最後のランタンの絵を含む絵本の絵は水彩絵の具と色鉛筆。似顔絵は色鉛筆、アミの日本のお部屋の絵はクレヨン、そして壁画はペンキと油絵の具で描きました。ペンキを使うのは初めてでしたし、とても日差しの強いロケ地の雲林では、作ったペンキが数時間で固まってしまいます。毎日色の調合からし直すのは大変でしたが、アミもそうだっただろうなあと思いながら作っていました。
2週間で3枚の壁画を描くのは思っていた以上に大変でしたが、描いている最中、カラオケ屋さんのお客様やオーナーが差し入れをくださったり、台湾の美術監督の姚くんはじめ美術チームの皆と仲良くなったのが一番嬉しかったです。言葉を教えてもらったり、ご馳走になったり、たくさん助けてもらって今も幸せな交流が続いています。真夜中すぎまで絵を描いたり、嵐の日があったりで大変だったけれど、終わらない夏休みみたいに夢中でした。彼らがいなかったら、壁画は完成しませんでした。感謝でいっぱいです。
壁画の中の犬も猫も街並みも光も、台南で見た景色、見せてもらった光景を描きました。「青春の色は、日本では青だけど、台湾ではオレンジなんだって」そんな監督の言葉を元に、いいなと思うものをコトコト足していきました。海にも一人で行きました。正確には、道を尋ねた台南のお店の方に、バイクで連れて行っていただいたのです。壁画の中央の海の絵のことですが、アミの目には仲良しの5人が映っていたはずで、最初はアミを描いていなかったのだけど、もし私がアミなら一人日本に帰るのはやっぱりとても寂しくて、皆がこれからも過ごすカラオケ神戸の壁に自分のかけらを残したいだろうなと思ったので、ジミーの隣に描きいれました。
私には誰も、映像のリンクのことなどをおっしゃらずに、全てアミの絵として受け止めてくださり、私も夢中で描いてきました。でも後で完成した映画を見たとき、ぴったりにリンクしていて、やっぱりあれで良かったんだと感激しました。
『青春18×2 君へと続く道』より
——先ほどお話に少しあがったランタンの絵も忘れがたいものです。この絵についても教えていただけますか?
よしだ:監督の依頼は、「屋台の間をバイクで走っていく、それでランタンが飛んでて、あとは姉さんのフィーリングでお願いします!」(ひどい……)でも、屋台の光がキラキラ綺麗だったな、美味しいものを隣り合って一緒に食べるのっていいな。生きてる人も、そうでない人も、もしかしたらこの瞬間一緒にいるのかもしれないな。ジミーのバイクの後ろに乗ったとき、ずっとこのまま走っていけたらいいなって思っただろうな。ランタンも夢みたいに綺麗だったなって、描いたかな。そんなことを考えながら描きました。
——アミの部屋や絵本、その他の部分はどのように作られたのでしょうか?
よしだ:アミの部屋の絵は、以前に描いて手放していたものをお客様にお借りして飾らせていただきました。懐かしい絵に再会できたことも、この映画を通じて知り合って大好きになった日本の美術監督の宮守さんに飾ってもらえたことも、本当に嬉しかったです。ちなみにアミの部屋はびっくりするほど私の部屋と一緒でした!
また、絵の道具の袋や薬入れなどのアミの小物は、キルト作家の母が作ったもので、実際にいつも使っているものです。アミのお部屋のセットの中で、実際に色鉛筆を並べて絵本の絵の続きを描いていました。絵本の絵は食べて美味しいと思ったものや、綺麗だなと思ったことなどを頑張って全ページ描いたので、どこかでご覧いただける機会があったらいいな、と願っています。
『青春18×2 君へと続く道』の撮影中。中央が藤井監督とよしださん。
——初めての映画の世界のお仕事はいかがでしたか?どのようなご感想を持たれましたでしょうか。
よしだ:映画のお仕事で最初に驚いたことは、なんて多くの人がいるんだろうということ。それから、監督も役者さんもスタッフさんも全員がそれぞれの持ち場で、それぞれのやり方で全力で取り組んでいるのを見られたのはとても素晴らしいことでした。
思い出すことはたくさんあります。通訳の皆さんが、言葉の違う私たちの間をつないで細やかに対応し続けてくだったこと、プロデューサーの浩子さんとジェニーさん二人が毎日必ず全ての現場にきて、姉妹みたいに似ている優しさと強さで皆を支え続けてくれたこと。日台の美術監督の二人の凄さと格好良さ。俳優さんたちの真剣さ、そして大好きな美術チームのみんなのこと。まるで答え合わせみたいに色んなできごとが重なって、本当に素晴らしい経験をさせていただきました。
絵本と映画はやっぱり似ているところがあるんだなと感じたり、同じ時代を生きる作家として恥ずかしくないように頑張ろうと思いました。
『青春18×2 君へと続く道』より。壁画の完成シーン。
——清原さんとは何かお話をされたのでしょうか。壁画のシーンや、病室で絵本を描くシーンでの印象的なエピソードがありましたら教えていただけますでしょうか。
よしだ:最初にお会いしたのが、病室でのシーンでした。本当に具合が悪いんじゃないかしら、大丈夫かしらと心配していたら、弟に笑われました。可愛くて、演技が素晴らしくて、集中力があって、かっこいい女の人だなあとファンになってしまいました。果耶さんは台南の暑い日差しの下でも緊張する病室でも、何度も熱心に、どうやったら自然に絵を描いているように見えるか取り組んでいらっしゃっていました。絵を好きだと褒めていただいて、とても嬉しかったです!
——この映画が、どんなふうに観客のみなさまに伝わるといいなと思われますでしょうか?
よしだ:最近、人は色々なことを経験するために生きているのかなと思っています。身体があるうちは縁がある人たちと過ごす時間を大切にしていきたいと思うし、出会いを大切にしたいです。映画を見てくださった方が、いつもの暮らしの中でも旅先でも、邂逅を楽しむきっかけになったらいいなあと願います。
たくさんの人に愛される映画になりますように。
『青春18×2 君へと続く道』より。よしださんが手がけたスケッチブックの絵。
Rumi Yoshida
1983年東京生まれ。青山学院女子短期大学芸術学科卒業。画家、絵本作家(作家名よしだるみ)として活動しながら中国武術の講師も務める。新刊『ロバのおはなし』(国土社)『おすよおすよ』(edition.f)をはじめ、主な絵本作品は『ぼくのそりすべり』(福音館書店)『いつかはぼくも』をはじめとする『よしだるみの動物家族絵本』(国土社)ほか多数。エッセイ『ルルオンザルーフ』(edition.f)を執筆するなど、活動の場を広げている。監督藤井道人は実弟。京都市在住。
Instagram:@rumi__yoshida__
『青春18×2 君へと続く道』
始まりは18年前の台湾。カラオケ店でバイトする高校生・ジミーは、日本から来たバックパッカー・アミと出会う。天真爛漫な彼女と過ごすうち、恋心を抱いていくジミー。しかし、突然アミが帰国することに。意気消沈するジミーに、アミはある約束を提案する。時が経ち、現在。人生につまずき故郷に戻ってきたジミーは、かつてアミから届いた絵ハガキを手に取る。初恋の記憶がよみがえり、あの日の約束を果たそうと彼女が生まれ育った日本への旅を決意。東京から鎌倉・長野・新潟・そしてアミの故郷・福島へ。一期一会の旅の中、最後にジミーは18年越しにアミの思いを知ることになる。
監督・脚本:藤井道人
出演:シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳
全国公開中。配給:ハピネットファントム・スタジオ
©️2024「青春 18×2」Film Partners
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