——役者のお仕事と重なる部分があったんですね。クランクイン前には3ヶ月間、絵の勉強をされたそうですが、そのご経験から得たものも教えてください。
桜田:先ほどお話しした「描く人によって個性が出る」という部分を改めて感じられたのは、絵の合同練習の時でした。ペアになった人の似顔絵を描くという練習で、すごくそのことに納得がいったというか。人それぞれに感じ方も、吸収するところも違ったんですよね。正解がないからこそ、表現はすごく楽しいんだなとその時に思いました。
それから、絵を教えていただいた川田龍さんにおっしゃっていただいたのが、「明暗がはっきりしてくると波に乗りやすいタイプですね」ということ。私は決して絵が上手いわけではないのですが、確かに自分の中で明暗が見えると、そこから一気に集中できるような感覚があって、なるほど!と思いました。その感覚がつかめるまでは、うーん、うーんって悩みながら描いていました(笑)。
——森まる先輩の絵を描くときの所作として気をつけていた点や、「森先輩ならではだな」という動き、姿勢、絵筆の持ち方などで意識されていたことはありますか?
桜田:絵筆の持ち方は結構ベーシックなのですが、特徴といえば、あまり体がぶれないことです。対象物やキャンバスに対等に、まっすぐ向き合って見ること。絵画練習の際に、客観的に見るのはとても大事なことだと教えていただいたんです。その時、人によっては「うーん」と考えながら、色んな角度でキャンバスやものを見るのですが、まるちゃんは、どちらかというと直感型なんですよね。こうしてああしてって色々眺めて考えながら描くというよりかは、自分が持っている知識を感覚的に落とし込める子だなと思っていたので、すーっと絵を見ることを意識していました。
——そのお話に照らしていただくと、桜田さんご自身は表現する上で「直感型」なのか、「いろんな角度から客観的に見て考えながら行う」なのか、どちらだと思われますか?
桜田:「直感」に近いと思いますが、客観的に見る冷静さは持っているなとも思うので、どちらでもないかもしれません。作品の色や、時と場合によって変わります。
真剣に向き合っているからこそ、人の心を動かせる。
——森先輩は、普段はとても穏やかですが、絵を描く時に表情がグッと変わりますよね。目の中の光が変わるといいますか。
桜田:原作を読んだ時、まるちゃんは普段、おっとり・ふわふわしていて、人よりも動きがワンテンポもツーテンポも遅れるような子なのに、絵に向き合った時の描写に、私はすごく圧倒されたんです。ここまで真剣に絵と向き合っているからこそ、人の心を動かす言葉を持っているし、(心を)動かせる絵を描ける。それは、まるちゃんの一つの魅力なので、絵に向かう時の視線や表情の切り替えは、普段とは全く別のものがいいな、それを形にして皆さんに届けられたらいいなと思いながら演じていました。
——先ほど、劇中でまる先輩が描いた『天使の絵』の実物を拝見しました。映画の中で見て想像していたよりもずっと美しく、思わず見入ってしまいました。
桜田:そうなんですよね! 穏やかな絵なのですが、迫力があって。ふわっと優しい気持ちになるというよりも、実際に見ると、すっとその世界に入り込むような感覚がある絵ですよね。こんな絵が描けるなんて、まるちゃんは自分の心の動きにすごく素直なんだろうなと思いました。
——『天使の絵』は、まる先輩の高校時代の絵ですが、大学に入学してからの絵は、作風に統一感がありながらさらに力強さが増していて、美大に入ってからの彼女の変化を想像させられるものでした。
桜田:現場では、その絵にも圧倒されました。大学生のまるちゃんはこんな風になっているんだ!って。高校生ならではの感じ方が出ている『天使の絵』も、もちろんすごく素敵なのですが、きっと大学に入っていろんな絵や考えに触れて、表現方法が変わったんだなと。それでも、まるちゃんが持っている本質は変わらないということも感じられて、初めて見た時は息を飲みました。きっと、大学でいろんな刺激を受けたんだなって思います。
——絵画制作というと、一人で黙々とやるというものというイメージがあったのですが、高校の美術部のシーンは和気あいあいとしていて青春の賑やかさがありました。部室での場面で、印象に残っていることはありますか?
桜田:撮影はあっという間に終わってしまったのですが、あの場面には合同練習でのみんなの空気感がそのまま出ているんじゃないかなと思います。
それから、美術室の机は実際に学校で使われていたものなんです。マッキーペンで落書きされていたり、彫刻刀で彫られていたりするし、使用感もあって。装飾として用意されたものではなく、すでにそこにあったものという印象を受けて、場所にすぐ馴染むことができました。とてもありがたかったです。そうした細かな部分も、スタッフさんがすごく考えて作ってくださっていました。
映画『ブルーピリオド』より。美術室のシーン
——今言ってくださったような美術含め、映像や音、人間ドラマと『ブルーピリオド』は見どころが多い映画なので、見る人によって着目するポイントも変わりそうですよね。桜田さんが、ここを見てほしい!と思うポイントを教えていただけますか?
桜田:私は、何かに情熱を注いでいる人ほど輝いている人はいない、ということをこの映画を通じて改めて感じたので、見ていただきたいのは「熱量」です。決してスポーツではないのですが、スポーツをしているかのような熱量がこの映画にはあると思います。一人一人が情熱的に絵に向き合っている姿に共感を覚えたり、ハッとさせられたり、かっこいいなと思っていただけたら、この映画にとってはそれが救いになるんじゃないかな。あとは、いろんな方が出てくるので、自分の推しを見つけてほしいなって思います!
映画『ブルーピリオド』
ソツなく器用に生きてきた高校生・矢口八虎は、苦手な美術の授業の課題「私の好きな風景」に困っていた。悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いた時、初めて本当の自分をさらけ出せたような気持ちに。そのことをきっかけに、八虎は美術に興味を持ちはじめ、どんどんのめりこんでいく。ついに国内最難関の美術大学への受験を決意するが、立ちはだかるのは才能あふれるライバル達に、正解のない「アート」という大きな壁!苦悩と挫折を味わいながらも、八虎は美術の険しい道を進んでいく。
監督:萩原健太郎
出演:眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより
2024年8月9日(金)より全国公開。ワーナー・ブラザース映画配給。
©️山口つばさ/講談社 ©︎2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会
Hiyori Sakurada
2002年生まれ、千葉県出身。幼少期から芸能活動をスタートさせ、近年の出演作に、映画『咲 – Saki – 阿知賀編 episode of side-A』『祈りの幕が下りる時』『ホットギミック ガールミーツボーイ』『おそ松さん』『交換ウソ日記』、ダブル主演映画『バジーノイズ』、ドラマ「silent」「あの子の子ども」(フジテレビ系火曜よる11時放送中)など。
桜田さん着用:ブラウス¥35,200 ソブ、ワンピース¥64,900 ダブルスタンダードクロージング (フィルム TEL03-5413-4141)