アイナ・ジ・エンドさんへのインタビューで、『劇場版モノノ怪 唐傘』の主題歌である新曲「Love Sick」と、表現者としての現在地を解き明かす。
『劇場版モノノ怪 唐傘』は、2007年にテレビアニメとして放送されて以来、根強い人気を誇るアニメシリーズ『モノノ怪』の新作。モノノ怪が引き起こす怪異が人々に襲いかかる時、謎の男「薬売り」が忽然と姿を現す——というミステリアスなストーリーと、スタイリッシュなキャラクターデザイン、斬新なCG使いで人気を博してきた同シリーズが、この夏、絢爛豪華な大奥を舞台とした劇場映画として新生する。大奥を舞台としながら、個としての生きづらさやシスターフッドを描く現代的な本作の主題歌「Love Sick」を歌うのは、アイナ・ジ・エンドさん。TK(凛として時雨)との二度目の協業で『モノノ怪』シリーズに新たな色彩を加えたアイナさんに、『劇場版モノノ怪 唐傘』についてや「Love Sick」に込めた思い、さらに表現者としての現在地を尋ねました。
photographs : Jun Tsuchiya / hair & make up : KATO (TRON) / styling : Ai Suganuma (TRON) / interview & text : Yuka Ishizumi
『劇場版モノノ怪 唐傘』より
女の子2人がお互いを大切に思っているところにとても共鳴した。
――「Red:birthmark」以来、二度目のTK(凛として時雨)さんとのタッグですね。『劇場版モノノ怪 唐傘』の主題歌が決まった段階で、またTKさんと組みたいと思われたんですか?
アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ):実は自分自身も書きたい気持ちがあったので、結構、悩んだんです。チームでいろいろ話し合って、それこそたくさんのアイディアが出たのですが、TKさんにプロデュースしていただいた「Red:birthmark」が本当に良かったので、『劇場版モノノ怪 唐傘』くらい面白い作品は、もう一回TKさんに作っていただくほうがいいのかもな、という気持ちになりました。他の方にお願いすることは考えられませんでしたね。
――ということは主題歌を作るとしたら、エッジの効いたイメージがアイナさんの中にあったと?
アイナ:はい。この映画の奇妙ながらも気品を感じられるような色彩感覚は、自分の中にはまったくないもので。それなのに生活感もあるっていう、不思議な色合いを感じたんです。そこに音楽を絡めるってめっちゃムズくない?って(笑)。TKさんの楽曲のエキセントリックさは、いい意味で本当に唯一無二だと思うので、合うんじゃないかなという期待がありました。
『劇場版モノノ怪 唐傘』より
――アイナさんは色彩の印象が強かったんですね。
アイナ:そうですね。大奥のシーンで、壁に描いてある猿の絵とかがめちゃめちゃよくて。実際、こんな旅館があるとしたら、いくら払ってでも泊まりたい!って思うくらい、いい絵。それが周りの色味とぶつかり合ってはいるんですけど、決して打ち消しあってはいないという絶妙なコンビネーションで、最高だなって感じていました。
――登場人物やストーリーで共感した部分はありましたか?
アイナ:アサとカメの2人が布団を並べて敷いて、「絶対朝まで手、離さないでね」ってカメが言うシーンが好きでした。女の子2人の場面にとても親近感が湧きました。
アサ
『劇場版モノノ怪 唐傘』より
カメ
『劇場版モノノ怪 唐傘』より
――大奥の物語ではあるけれど、シスターフッド的な側面もありましたよね。
アイナ:物語は非現実的でありながら、何かを捨てることで何かがやってくるという話でもあって、それは経験したことのある生身の人生観だったんです。非現実的なのに親近感もある物語で、不思議な感覚だったんですよね。アサとカメのおかげで、より、この世界を身近に感じられたんです。女の子2人がお互いを大切に思っているところにとても共鳴したので、2人の存在はすごく大切ですね。
女の人の情念みたいなものは描きたいよねっていう話し合いを2人でしました。
――TKさんとの制作プロセスはどのようなものだったのでしょうか?
アイナ:TKさんがまず作ってくださったデモには、初め、歌詞が入っていなかったんです。ラララ〜ってメロディを歌うデモが届いて、それが面白くて。さらっと聴き流せないメロディがたくさん散りばめられているのがモノノ怪っぽくて、ぴったりだと思いました。
――「Red:birthmark」はアイナさんの歌が引っ張っている感じがありましたが、今回はテンポも早いし、展開もどんどん変わる曲ですよね。
アイナ:展開、超変わりますよね!私もびっくりしました(笑)。
――しかも、TKさんのメロディや言語感覚は歌うのが難しそうです。
アイナ:TKさんの楽曲には、いい意味でつかみどころがないイメージがあるんです。ですが、「Love Sick」はサビがキャッチーだったり、その中でもわかりやすさがある楽曲だなと思うので、いい化学反応が生まれているんじゃないかな。『モノノ怪』という作品が、新しい相乗効果を生んでくれたように感じて、嬉しかったです。新しい気づきがいっぱいありました。
『劇場版モノノ怪 唐傘』より
――具体的にどういうキーワードを歌詞に落とし込んでいきたいという話はされましたか?
アイナ:例えば、“ぬかるみ色の井戸”とか、“妖”っていう漢字なんて、正面からモノノ怪ですっていう単語ですよね。TKさんが、モノノ怪をちゃんと理解した上で和を入れていこうという思いを込めて歌詞を書いてくださっています。その中でも、女の人の情念みたいなものは描きたいよねっていう話し合いを2人でしましたね。だから“抱きしめて”とか“あなただけ”とか、相手が見えるような言葉や、誰かと共有しているような世界を描く歌詞を書きたいというのはTKさんと意見が一致していて、そこを突き詰めていった感覚があります。
――「Love Sick」を聴くことによって、アニメのストーリーが言おうとしてることが補完的に理解できたんですよ。
アイナ:ああ!すごい(拍手)。TKさんに報告しますね。ありがたいです。
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