5月19日から渋谷の東急シアターオーブで開催されている、ジャンポール・ゴルチエによるエンタテイメントショー『ファッション・フリーク・ショー』。公演初日に向けてゴルチエ本人も来日しました。実はゴルチエは2000年に、初の展覧会「ジャンポール・ゴルチエの世界」を東京で行った際に、装苑の誌面で篠原ともえさんとの夢の対談が実現したのです!あれから23年、デザイナーとなった篠原さんがゴルチエと再会しました。どのように会話がはずむのでしょう? 時が経った今もチャーミングなゴルチエさんとのトークをここで!
23年ぶりの再会は、『ファッション・フリーク・ショー』が行われている東急シアターオーブで。篠原さん着用しているのは、メジャーのデザインのゴルチエの服。
待ちに待った『ファッション・フリーク・ショー』が日本で
篠原ともえ(以下 篠原) 『ファッション・フリーク・ショー』は2018年にパリにて初公演し、日本からワールドツアーをスタートして15か国巡ります。今のタイミングで日本を選んだのは何か理由がありますか?
ジャンポール・ゴルチエ(以下 ゴルチエ) もともと私にとって日本は特別な国だったんです。ファッションを始めた当初、ピエール・カルダンにいた時に師匠だった方が日本人の女性でした。いろいろ教えていただきました。その後オンワード樫山とも契約をして。デザイナーとして特別なきっかけを作ってくれた国でもあります。『ファッション・フリーク・ショー』の日本公演は絶対に実現させたかったんです。
篠原 日本とのつながりが深かったのですね。アジア初上陸ということもあり、本当に待ち遠しかったです!
『ファッション・フリーク・ショー』より
ゴルチエ 日本はとても大好きですし、世界中にも、才能があって活躍している日本人がたくさんいますね。ファッションに敏感な人も多いです。ファッションの世界で言ったら、日本とフランスは、それぞれ伝統的な文化をきちんと捉えて表現をしています。もしかしたら、今は日本人の若手のクリエイターの方がよりクリエイティブかもしれないですね。
篠原 ゴルチエさんは日本人デザイナーの服も着ていると伺いましたが、もし今の日本人の若手で注目している人がいれば教えてください。
ゴルチエ 歴史的に見て、ファッションの世界に革命的な要素を入れたのは日本人のデザイナーだと言えます。三宅一生、髙田賢三、川久保玲、山本耀司・・・。ですから当然のように若いデザイナーも気になります。パリのお店で服を見ていて、タグから日本人だなと思うことはたくさんあるけれど、ごめんなさい、ブランド名が思い出せない・・・。
篠原 名前をあげられたデザイナーの皆さんは、私もリスペクトする方ばかりです。日本にはモード界やアパレル業界以外にも素晴らしい衣装デザイナーもたくさんいます。
現在のゴルチエのクリエイション
篠原 ゴルチエさんは今はデザイナーを引退されていますが、どういった経緯でそのような決断をされたのでしょうか?
ゴルチエ 私がデザイナーとして引退を決めた時、ブランドはまだ残っているので、毎シーズンごとに若手のデザイナーにジャンポール・ゴルチエ by 〇〇〇〇としたかったんです。
実は1987年、クリスチャン・ラクロワ、クロード・モンタナ、ティエリー・ミュグレーたちが台頭だった時代。ラクロワがジャン・パトゥをやっていて、退任後ジャン・パトゥのデザイナーがいなくなったので、“毎シーズン有名なデザイナーが手掛けたら面白いじゃない?”とジャン・パトゥのアトリエの人に言ったら、“あなたたちは有名すぎて、ギャラが高いからつかえないわよ。無理よ”って。じゃあ自分が引退したときはそうしようと決めたんです。
その一番最初がsacaiの阿部千登勢さんでした。デザイナーを半世紀やってたので、もうそろそろフレッシュな感覚を入れようと思っていたんです。新しい人のウェーブが必要だったんですね。今はプロデューサーという立場でエンタテイメントに力を注いでいます。
篠原 ブランドはゲストデザイナーを迎える形にされたのですね。現場ではデザイナーへ何かアドバイスをするのですか?
ゴルチエ 企画の段階では絶対に口をはさみません。クリエイターの人たちがどのようにジャンポール・ゴルチエを表現するのかが大事なので。そこに私が出ていったら、自由な発想ができないでしょう。ちなみに次回はパコ・ラバンヌのデザイナーです。彼はパコ・ラバンヌで何シーズンもやっていて、パコのスタイルが定着しています。そこにジャンポール・ゴルチエの要素を取り入れて、パコ・ラバンヌ風ジャンポール・ゴルチエをやってほしいですね。
篠原 パコ・ラバンヌと言うと、私は捨てられてしまうオーガンジー素材を四角く小さく切って繋ぎ合わせドレスをデザインしました。他にも残布が出ないよう意識した四角いパターンによる衣装制作をしているのですが、それは長方形の反物を余すことなく構成している着物からヒントを得ていて。少し発想はパコ・ラバンヌに近いかもしれません。次回のジャンポール・ゴルチエにパコ・ラバンヌのエッセンスが展開されるのも楽しみです。
「SHIKAKU」展で展示した、四角い布をつなぎ合わせたドレス。
Photo: Sayuki Inoue
篠原 『ファッション・フリーク・ショー』の記者発表に登壇したときに着た、カヌレのような大きなスカートは、この舞台からインスパイアされて作ったスカートで、これも四角いパターンからできています。
ゴルチエ ビッグスカート!アコーディオンプリーツなのかな?縦の波のようなドレープだね。
左は『ファッション・フリーク・ショー』の記者発表で、篠原さんが着用した四角いパターンで制作したビッグスカート。右は篠原さんによるスカートのスケッチ。
篠原 ゴルチエさんとは23年前に「装苑」の企画を通してお会いしているんです。当時のこと覚えていますか?
ゴルチエ 覚えているよ、あの頃はまだベイビーだった!
篠原 ゴルチエさん初の展覧会「ジャンポール・ゴルチエの世界」という体験型の展示を拝見した時でした。会った瞬間に抱きしめてくれて。その時は、まだデザインを勉強する学生だったんですが、今はデザイナーとしてお仕事させていただいてます!
ゴルチエ え?!こっちが本業になっているの?素晴らしい!
篠原 2000年のこの展覧会は本当に素晴らしかったです。どんな時代にもゴルチエさんのアクションには刺激をいただいています。
ゴルチエ それは嬉しいですね!
2000年12月号の装苑より。上野の森美術館で開催した、ゴルチエ初の体験型展覧会「ジャンポール・ゴルチエの世界」展にて。
デザイナーとして、服に込める思い
ゴルチエ どうしてファッションの世界に入ろうと思ったんですか?
篠原 当時「ファッション通信」というテレビ番組があって、ファッション界やさまざまなモードの世界のデザイナーが紹介されて、その中でゴルチエさんを知り斬新なアイデアに衝撃を受けました。そのようなことにも影響されて。
ゴルチエ それでファッションの勉強を始めたんですか?
篠原 それとコスチュームの制作にも憧れていたんです。10歳のころにバレエを習っていたんですが、舞台の袖で衣装を作っているお針子さんがいて、その姿も当時の私には魅力的に映っていました。
ゴルチエ ダンスをしながら舞台用の衣装にも興味を持ったんですね。舞台衣装は体の動きをよりきれいに見せてあげるから、日常の服とは考え方が違いますね。
『ファッション・フリーク・ショー』より
篠原 ゴルチエさんも今回は舞台衣装を手がけているんですね。
ゴルチエ 舞台衣装とファッションを融合したのが今回の『ファション・フリーク・ショー』です。自分で服を選んで着るのは、自分を素敵に見せるためですよね。自分も気分がいいけれど、人に見せる優越感もあります。自分の表現の仕方は服の選び方によって違ってきますよね。
『ファッション・フリーク・ショー』より
篠原 私も服を作ることと、着て表現することを両立させることがずっと夢でした。
ゴルチエ それはとてもいいと思いますよ。表現の仕方ですが、例えば女優さんが演技で表現する方法もあれば、服の力によって表現するということもあるのです。メッセージの方法の違いですね。
篠原 すごく勇気をいただきました!どちらかを選ばなきゃいけないと迷うときもあったので。
ゴルチエ 両方できますよ!
ルーツからの発想
ニューヨークADC賞のブランドコミュニケーションデザイン部門、シルバーキューブ(銀賞)ファッションデザイン部門でブロンズキューブ(銅賞)を受賞した着物。モノクロのグラデーションはまるで水墨画のよう。
Photo: Sayuki Inoue ©TANNERS’ COUNCIL OF JAPAN
篠原 これは私が制作した着物です。製品化の際切り落とされてしまうエゾ鹿革の切れ端を使って、モノクロームのグラデーションをつけました。
ゴルチエ 美しいですね。霧がかった雲のようです。
篠原 私は祖母が着物のお針子さんで、知らず知らずのうちに影響を受けている部分が多くあると思っています。この着物も祖母より譲り受けたものからインスピレーションを得ているんですが、ゴルチエさんのコルセットのデザインも、おばあさんのクローゼットからコルセットが出てきたことから発想を得たと聞きましたが。
ゴルチエ そうなんです。コルセットも、コーンブラもそこにルーツがあるんです。子供の頃、お人形が欲しかったんですが、男の子なのでお人形は買ってもらえず、テディベアを買ってもらいました。でもそれを人形にしようと、段ボールを切ってとがらせた胸をつけたり、メークをしたり。今回の『ファッション・フリーク・ショー』で登場しますよ。ナナという名前で66歳!
篠原 ルーツも大切にしているゴルチエさんのクリエイション、とても楽しみです。これからもずっと私たちの憧れでいてください!
ゴルチエが手にしているのは、2020年に開催した篠原ともえの「SHIKAKU」展のアートブック。篠原さんが手にしているのは『ファッション・フリーク・ショー』の東京公演のパンフレット。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)
Jean Paul GAULTIER
1952年生れ。フランス生れ。1970年からは10代後半の若さでパリ・オートクチュール界のトップ、ピエール・カルダンのもとでアシスタントとして働き始める。1976年に自身のメゾンを設立し、パリコレに参加。1981年にはオンワード樫山とのライセンス契約を結ぶ。1997年にはオートクチュールブランド「Gaultier Paris」を立ち上げ、パリのオートクチュール部門でも活躍。2003年からメゾン・エルメスの仕事をかけ持つ日々がスタート。2004-05年秋冬より、エルメスのレディースデザイナーを兼任。2020年1月にはオートクチュールから撤退し、引退すると発表。引退後はブランドは閉鎖せずに、ゲストデザイナーを招いてオートクチュールの発表を継続する。
Tomoe Shinohara
1979年生れ。東京都出身。文化女子大学短期大学部服装学科ファッションクリエイティブコース・デザイン専攻卒。1995年ソニーレコードより歌手デビュー。歌手・ナレーター・俳優活動を経て、現在は衣装デザイナーとしても創作活動を続け、松任谷由実コンサートツアー、嵐ドームコンサートなど、アーティストのステージ・ジャケット・番組衣装を手がける。2020年、夫でアートディレクターの池澤樹とクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。 2022年、デザイン・ディレクションを手掛けた革の着物作品が、国際的な広告賞であるニューヨークADC賞のブランドコミュニケーションデザイン部門、シルバーキューブ(銀賞)ファッションデザイン部門でブロンズキューブ(銅賞)を受賞。
WEB:www.tomoeshinohara.net
Instagram:@tomoe_shinohara
ジャンポール・ゴルチエ『ファッション・フリーク・ショー』
東京公演 2023年5月19日(金)~6月4日(日)
会場:東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)
大阪公演 2023年6月7日(水)~6月11日(日)
会場:フェスティバルホール
WEB:https://fashionfreakshow.jp