『ファッション・リイマジン』Mother Of Pearlのエイミー・パウニーに尋ねた、真のサステナブルファッション実現のために必要なことは?篠原ともえさんのコメントも。

篠原ともえさんをゲストに迎えたトークショー&文化学園の学生を対象にした特別試写会も開催!

(左)余り生地が出ないように、、四角いパターンから作り上げたというパンツとブラウスを着用した篠原ともえさん。(右)篠原さんが高校生活を過ごした八王子で開催中の「八王子芸術祭 Journey – 自然に潜む美しさを探る旅」のために、「持ち運べるアート」として間伐材から制作したバッグを手にした向千鶴さん。

映画『ファッション・リイマジン』の公開に先駆け、特別試写会+トークショーが9月14日(木)、文化学園大学にて開催された。トークショーでは、文化女子大学短期大学部(現・文化学園大学)卒業生であり、デザイナー/アーティストの篠原ともえさんと、WWDJAPAN編集統括サステナビリティ・ディレクターの向 千鶴さんが登壇。映画の魅力とともに学生たちに向けた熱いメッセージも語られた、トークショーの様子をお届けします!

映画を見ての感想

篠原ともえ(以下、篠原):主役のエイミー・パウニーが本当に徹底してサステナブルに向き合っていて、信念を貫き通すことでファッション業界だけでなく、社会までもが変っていく様が痛快であり、私自身も創作と向き合う時間をいただいた映画でした。

向 千鶴(以下、向):私は30年ほどファッション業界にいて、4、5年前からサステナビリティという考え方を取り入れてファッションをより広めていくという課題をもって仕事をしていますが、この映画にはまさにそのテーマが詰まっていて、尚且つ一種のロードムービーを見ているような、清々しい気持ちになる映画でした。

映画の軸となっている“サステナビリティ”について

:ファッション業界がサステナブルを声高に言い始めたのは2018年~’19年にフランスで政治が大きく動いた時からなのですが、本作のエイミ―が動き始めたのは2017年でとても早いんです。だから最初は変わり者と周りに思われたと思いますが、みんながやっていることをやるのではなく、誰もやっていないことをやろうとしている。サステナブルに対するアクションの早さは、この映画のポイントでもあると思います。

篠原:私がサステナブルを考えるようになったのは、2019年のWWDで向さんが書いた「制約は創造の源 サステナビリティこそクリエイティブだ」というコラムに衝撃を受けてからなんです。当時は自分の中にアイデアソースがたくさんあって、どこを目指すべきか分からなかったのですが、そのコラムでは「サステナブルという困難な問題に向き合うデザイナーたちが楽しそうにモノづくりをしていて、SDGsの未来は明るいと思った。」ということが書かれていて、それを読んでから自分のクリエイションにもそうしたアクションを入れることを意識し始めました。そこから出来なくても課題に向き合って作る、わくわくした、挑戦するデザイナーになりたいと思うようになったんです。困難なことでも、自分の信念を突き詰めて作るとやっぱり人に響いていくと思います。

自分自身のルーツ、素材のルーツを探る

篠原:作中で素材のルーツを追い求めるシーンは、私もゼロからものづくりをするプロセスの大変さを痛感していたので、特に印象的で、わかる~!って思ったんですよね。あと故郷で、自分のルーツをたどるシーンもアーティストとして凄く共感しました。エイミーもそうですが、私も自然の中で育ったので、常に自分の中には自然があります。作品には自分の人生が現れるものだと思うし、この映画を見たら皆さんもきっと自分のルーツと向き合う時間があるんじゃないかな。私も自分のルーツを探して今があり、それが新たなものづくりへの背中を押してくれているので、皆さんもぜひこの映画で自分の創作のルーツを見つけ出してほしいと思います!

:今のデザイナーや物を作る人にとって大切な2つの要素は、自分自身のルーツと、ものを作るときに使う素材のルーツであり、まさにこの映画はそれらを主題にしています。クリエイターの力というのは、自分のルーツを元に自から世に発信して何かを届けることと共に、それを受け取る人にとても大きな勇気を与えることができるものだと思います。
そして、今、物を作る人たちはコットンやウール、ポリエステルが生まれた場所、牧場や畑に行ったことがない人が圧倒的に多いと思いますが、その場所まで行って初めて体感することってすごく大事で、自分と素材のルーツの両方に向き合うことの大切さがこの映画からきっと感じられるはずです。

映画を通して、文化学園の学生に向けたメッセージ

篠原:この映画を見たらきっと心に残るシーンがあると思います。その残ったシーンが皆さんがこれから挑戦したいこと、気になること、何か自分で形にしたいことに繋がり、答えになっていくんじゃないかと思います。文化は自分たちの自発的なアイディアを受け止めてくれる学校だと思うので、ぜひ皆さんも新しいアイディアを怖がらずに挑戦してクリエイティブに放っていただきたいと思います!

:今まで洋服を学ぶとは、生地から売り場に届くまでがファッションをデザインすることだったと思いますが、これからは届けたその後をどうするのか、もしくはその前に戻って産地の問題とどう向き合うのか、その全部が皆さんのデザインの対象だと思います。そこには限りない可能性があり、その循環をデザインするという今までになかった概念が、今、皆さんの前に広がっています。その循環はクリエイター無しには成しえないものですので、皆さんの可能性は莫大だということをお伝えしたいです。

さらに、文化学園大学ファッション社会学科の学生指導によるワークショップも体験!

(文化学園大学服装学部)ファッション社会学科では、ファッションにおける循環型社会をめざす提案の一つとして、リユース/リサイクルに適さない(廃棄せざるを得ない)服を活用するための研究・教育活動を行なっています。6月に千葉県・木更津にオープンした「KISARAZU CONCEPT STORE」内には、近畿大学バイオコークス研究所と文化学園大学の共同研究を公開・展示するスペース(ファクトリーラボ)が併設され、衣類から次世代再生可能エネルギー「Ethical Zamp(エシカルザンプ®)」を創る取組みを紹介しています。

今回は、サステナブルな映画にちなんで、そこで行っているワークショップを体験。服作りで出た残布を圧縮機でプレスすることにより、捨てられるはずだった残布が新しいアイテムに生まれ変わりました。体験後には、学生がプレゼントした「Ethical Zamp(エシカルザンプ®)」のイヤリングをつけて記念撮影を行いました。篠原さんは「私もこのアイデアで何かつくりたい!色々なアイデアが降ってきました!」と嬉しそうにコメント。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)


篠原ともえ
デザイナー/アーティスト
1979年生れ。東京都出身。
文化女子大学短期大学部服装学科ファッションクリエイティブコース・デザイン専攻卒。
1995年ソニーレコードより歌手デビュー。歌手・ナレーター・俳優活動を経て、現在は衣装デザイナーとしても創作活動を続け、松任谷由実コンサートツアー、嵐ドームコンサートなど、アーティストのステージ・ジャケット・番組衣装を手がける。
2020年、夫でアートディレクターの池澤樹とクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。
2022年、デザイン・ディレクションを手掛けた革きものが、国際的な広告賞であるニューヨークADC賞のブランドコミュニケーションデザイン部門、シルバーキューブ(銀賞)ファッションデザイン部門でブロンズキューブ(銅賞)を、また、東京ADCを受賞。

向 千鶴
執行役員「WWDJAPAN」編集統括兼サステナビリティ・ディレクター
横浜市出身。東京女子大学卒業後、エドウインに入社。営業部で4年半、営業職を務める。日本繊維新聞社記者を経て2000年にINFASパブリケーションズ入社。記者として主にデザイナーズブランドの取材を担当。「ファッションニュース」編集長、「WWDジャパン」編集長などを経て21年4月から現職。「毎日ファッション大賞」選考委員、「インターナショナル・ウールマーク・プライズ2020」のアドバイザリー・カウンシルも務める。

1 2 3 4

RELATED POST

篠原ともえさんの1990年代の衣装がロンドンの「CUTE」展で初展示
偏愛映画館 VOL.46『ボーはおそれている』
パリでパオロ・ロベルシ展が開催写真で詩う、ファッション・フォトグラファーの50年の...
奥平大兼のジャケットマスターへの道!vol.3 縫製編
窪塚愛流×蒔田彩珠 特別すぎる7日間を描く『ハピネス』を演じて得た初めての感覚。ロ...