映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
ヤン・レノレ監督のインタビュー

2023.09.22

2018年パリを皮切りに公開された、ファッションデザイナー、ジャンポール・ゴルチエの半生を描いたミュージカル『ファッション・フリーク・ショー』。日本でも今年の春に東京と大阪で開催され、大きな話題を呼んだ。今回の映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』は、そのミュージカルの裏側を追いかけたドキュメンタリー作品。ミュージカルでは見ることのできなかったインサイドストーリーや、ゴルチエ自身の横顔がたっぷりと盛り込まれたものに。映画が完成されるまでのさまざまなエピソードをヤン・レノレ監督に伺った。

〈ストーリー〉
奇想天外&ファンタスティックなデザインで有名なクチュリエ、ジャンポール・ゴルチエ。ファッションシーンで旋風を巻き起こしてきた彼が今回挑むのは、ミュージカル『ファッション・フリーク・ショー』だ。自身のコレクションと2足の草鞋を履いて創り上げるショーの舞台裏はトラブルの連続だった。
 衣装合わせ、初のリハーサル、ダンサーの故障、演出のいざこざなどアクシデントに見舞われるゴルチエとそのチーム。制作が進むに連れて明かされるゴルチエの真実。愛するテディベアや親愛なるマリーおばあちゃん、唯一無二の恋人フランシス、1976年初のファッションショーの評価……本当のゴルチエが紐解かれる。マドンナ、ロッシ・デ・パルマ、カトリーヌ・ドヌーヴらゴルチエのミューズもカメオ出演。ファッション界の女帝アナ・ウィンターもなんと登場!
 1970、80年代を彩ったヒットナンバー、豪華絢爛なオートクチュール、トップデザイナーが見せる仕事へのこだわりが詰まった制作秘話をドキュメント。果たして無事初日を迎えられるのか!?

―『ファッション・フリーク・ショー』の舞台裏をドキュメンタリー映画にするというアイディアはどなたからの発案ですか?

まず企画の前段階で、ゴルチエから私に会いたいと連絡がありました。私の前作がエマニュエル・マクロンのドキュメンタリー作品だったのですが、それを見て会いたいと思ってくれたようです。実際会って話をする中で、今回の『ファッション・フリーク・ショー』の裏側のドキュメンタリー映画を作るという流れになりました。

―それまでゴルチエとは面識はありましたか?

有名人なのでもちろん知ってはいました。私が考えていたのは、ジャンポール・ゴルチエというアーティストのポートレートを、ショーを通して撮ることでしたが、彼はショーで表現された自分の人生と、それを作り上げていく過程の裏側のドキュメンタリーを望んだのです。人生を語るというのを舞台の上でやりたかったのですね。そこから二つのプロジェクトが平行するように組み立てられたのです。

―2018年パリをスタートした舞台でしたが、映画の撮影はどのあたりからスタートしたのですか?

2018年のパリの、その1年ほど前からです。ショーに起用するダンサーのキャスティング。アトリエではショーのための服を作る。カトリーヌ・ドヌーブやマドンナなどのアーティストの撮影。それらを同時に始めました。

―カメラを通して見たゴルチエはどのような人でしたか?

この映画を通して彼の内面に入れたと思います。彼はとてもオープンに見えますが、意外とシークレットな部分も多い人。すごくラフに見せているけど、彼の内面に入り込むのはとても大変なことでした。彼はショーを通じて人生を語っているのですが、私に対してどのように人生を語ってくれるかが課題でした。その一つの方法として、彼にマイクをつけて誰もいない部屋で2人だけで話をしたのです。そしてその声を録音したんです。その声は映画の中でも使っています。それによって彼に近づけたように思います。

―完成した映画を最初に見た時のゴルチエの感想はどのようなものでしたか?

ゴルチエが最初に映画を見たとき、ずっと映画を見ながらノートにメモを取っていたんです。“もしかしたら全く気に入ってないのでは・・・”とずっとひやひやしながら映画が終わるのを待っていました。後でわかったのですが、実際にノートに書いていたのは誉め言葉と、いろんなアイディアでした。この映画を見ることで新しいアイディアが浮かんでいたようです。ゴルチエは、何を見てもどんな経験をしてもそこからインスピレーションを得る人です。それがそのまま映画に反映されている感じがします。

―舞台は演劇、ミュージカル、映像、ファッションショーと立体的に構成されてとても魅力的でしたが、それを映画としてまとめる難しさと魅力はどのようなところにありましたか?

違った要素を同時に存在させるということは、確かに難しいことでした。普段一緒にやらないような人たちが一緒に舞台に立つ。ダンサーがダンス用に作られたものじゃない服や靴で踊る。本来は舞台用ではない照明を使う。装置もダンス用につくられたものではないなど、そんな中での6カ月間のリハーサルはカオスでした。でもそんな中で、出演する人々が不可能を可能にする、本来一緒にできないものを一緒にするという素晴らしい場面をとらえることが出来たのです。緊張感が漂うピリピリした瞬間がたくさんあったのですが、ジャンポール・ゴルチエの情熱と力によって、一つの作品にまとまりました。そのすべてを俯瞰で捉えたことで、映画も立体的な見え方になったのだと思います。

―『ファッション・フリーク・ショー』の舞台を見た人はもちろん、見ていない人も楽しめる作品でした。そしてまたあらためて舞台も見たくなりました。その連動性はどのように考えていましたか?

気をつけたのは、リズミカルなモンタージュをしてショーの魅力を見せながらも、あまり見せすぎないこと。ショーを見た気分になるのではなく、ショーを見に行きたくなるような作りを心がけました。同時に美しい衣装などは、客席で見ているよりも近づけるので、映像ならではのいい点を盛り込みながら。舞台は生き物なので、今度見るときはドキュメンタリー映画で見たものとは違った表現をしている部分があるかもしれませんね。

『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
9月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、シネマカリテほか全国公開
監督:ヤン・レノレ
出演:ジャンポール・ゴルチエ、マドンナ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ロッシ・デ・パルマ、ナイル・ロジャース、マリオン・コティヤール
配給:キノフィルムズ
© CANAL+ / CAPA 2018


ヤン・レノレ(Yann L’Henoret)
フランス、コート・ダルモール県プレスタン=レ=グレーヴ出身。1998年にキャリアをスタート。フランスの柔道家テディ・リネールのリオ五輪に向けたトレーニングを3年間かけて撮影。また2017年には選挙中のエマニュエル・マクロンを描いた話題のドキュメンタリー『Emmanuel Macron: Behind the Rise(原題)』を監督、Netflixで配信された。

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