宮沢氷魚が明かす、映画『エゴイスト』での
贅沢な時間のこと、キャリアへの想い

作品を観終えてエンドロールが始まったときに「やってよかったな。このメンバーで作品を作れてよかった」と思えるんです。

――宮沢さんは俳優デビューから5・6年で今泉力哉監督(『his』)や大友啓史監督(『レジェンド&バタフライ』)など、個性が明確な監督たちの現場を経験されてきました。どのようにご自身の“色”を出してきたのでしょう?

 僕は器用なタイプではないので、ある程度準備していかないと現場でパッと演技をすることは難しいと思っています。それは「芝居を作っていく」とは別の話で、現場の居方を準備していきたいということですね。「監督や現場で求められているものをどうやったら提供できるだろう」と頭の片隅で常に考えています。最初はそのミッションをこなすだけでいっぱいいっぱいだったのですが、ここ2年くらいでようやく他のキャストの皆さんやスタッフの皆さんとセッションをできる余裕が生まれてきました。

 だからこそ松永監督のようにその場で生まれたことを大事にしていく演出や、大友監督のように1日1シーンしか撮らない贅沢な現場を主体的に楽しめたのだと思います。これまでも「自分の思ったことややりたいことをやってもいいんだ」と頭ではわかっていたのですが、台本に書かれたことや演出された通りに演じるので精一杯で、正直、行動に移す勇気がありませんでした。

 でも最近、監督と意見が食い違うときには「僕はこうだと思います」と言えるようになって、監督側も「とりあえずやってみて」と委ねてくれる機会が増えてきました。『レジェンド&バタフライ』では明智光秀を演じましたが、大友監督は「好きにやっちゃっていいよ」と任せてくれたんです。歴史上の偉大な人物だからと委縮してしまいそうになる自分の背中を押してくれました。

――2023年は1月に『レジェンド&バタフライ』、2月に『エゴイスト』と振り幅の大きさを見せる年になりそうですね(※インタビューは2022年11月に実施)。

 ありがたいことに、まだ発表されていないものも含めて2022年は本当に忙しくさせていただきました。2021年の11月から2022年の8月まで、『ちむどんどん』で同じメンバーと同じスタジオとほぼ1年間1人の役と向き合う経験をできたことが大きかったです。2023年はまだ違うベクトルに向かうので、皆さんがどういう風に見てくれるのかすごく興味があります。

――それもまた「余裕が生まれてきた」といえますよね。

 そうですね。反応を楽しめるようになってきました。いままではどちらかといえば柔らかくてアンニュイな雰囲気を持った、ある種自分に近い人物を演じることが多かったんです。その一つ一つが僕には貴重な経験でしたが、全く違う方向性の作品が公開されて「この役者はこんな顔もできるんだ、こういう芝居もできるんだ」と思ってもらえるかもしれませんし、僕自身ももう一段階上に行ける時期に入ってきた感覚があります。驚いてもらえたら嬉しいですね。

――お話を伺って、宮沢さんは俯瞰で現場を見ていらっしゃるように感じました。お好きな映画が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だと伺ったのですが、例えば映画をご覧になる際にスタッフワークにも注目されているのでしょうか。

 この仕事を始めてからはその意識がすごく強くなりました。それまでは映画を観終えた後「ここで劇場を出たら作った方々に失礼だ」というくらいの気持ちでぼうっとエンドロールを眺めていたのですが、いまでは、別の作品でお世話になった方を見かける機会も増えて、じっくり眺めるようになりましたね。役者さん、スタッフさん、制作会社の方々……これだけたくさんの人が1本の映画を作るために関わっているんだと改めて気づかされます。

 そして、俳優歴を重ねていくと自分の名前の位置がどんどん上の方になっていくんですよ。『エゴイスト』だと「鈴木亮平」の次に「宮沢氷魚」ですし、それだけの責任感が僕たちにはあるんだと痛感しています。僕たちだけではもちろんできないし、後に続く何十人・何百人の方々の力のお陰で表に出られるありがたみを、より感じるようになりました。

 そのぶん1本1本に体力を使うし精神も削るので大変ですが、作品を観終えてエンドロールが始まったときに「やってよかったな。このメンバーで作品を作れてよかった」と思えるんです。これまでに出た作品で「出なきゃよかった」と思った作品は一つもないし、これからもそうでありたいと思っています。

Hio Miyazawa ●1994年生まれ、サンフランシスコ出身。2017年にテレビドラマ「コウノドリ」第2シリーズで俳優デビュー。その後、ドラマ『偽装不倫』(’19年)、NHK連続テレビ小説「エール」(’20年)、映画『グッバイ・クルエル・ワールド』『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』(声の出演)NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(すべて’22年)、『レジェンド&バタフライ』(’23年)など多くの映像作品で存在感を放ち、『豊穣の海』、『ピサロ』などの舞台でも活躍。初主演映画『his』(’20年)では、数々の新人賞を受賞。映画『騙し絵の牙』(’21年)で、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。2023年6月には、舞台『パラサイト』に出演予定。

宮沢氷魚さん着用:ニット¥181,500、中に着たシャツ¥95,700、パンツ¥198,000、靴¥154,000 すべてフェラガモ(フェラガモ・ジャパン TEL:0120-202-170)

映画『エゴイスト』
WEB : https://egoist-movie.com/

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