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極彩色から光彩色へ。
アール・デコ建築に寄り添う「蜷川実花 瞬く光の庭」展

東京都庭園美術館 「蜷川実花 瞬く光の庭」展 会場風景

蜷川実花さんといえばダークなビビッドカラーとコケティッシュな世界観、というイメージを持っている人も多いのではないか。そんなイメージを覆すような、未来に対する希望に満ちた新作の展覧会「蜷川実花 瞬く光の庭」が東京都庭園美術館にて開幕。コロナ禍を経て、これまでの作品とは異なるアプローチで制作された、光溢れる花々の写真世界を体感することができる展示となっている。

東京都庭園美術館 「蜷川実花 瞬く光の庭」展 会場風景

日々変わる自然と、刹那的な美しさをとじ込めた写真と

本展覧会の会場となった東京都庭園美術館は、当時のフランスで流行していたアール・デコ様式を元に設計された、幾何学的な装飾モチーフと窓からの借景が美しい建築。東京都庭園美術館で展覧会を行うにあたって、蜷川さんは「場に寄り添う」ということを大切にしたという。会場の良さをそのまま活かしながら、カーテンを少し開けて展示をするなど、作品の展示を通して庭園のさまざまな表情を引き出す試みもされている。作品の中の光と窓から差し込む光が融合することで生まれる唯一無二のきらめきを鑑賞することができる。

東京都庭園美術館 「蜷川実花 瞬く光の庭」展 会場風景

2階の妃殿下居間に展示されている作品は、大雪の翌日に妃殿下居間の窓から見える松を撮影したもの。「今、ここ」にある窓の外の松を背景に、蜷川実花さんの視点で切り取られた雪を纏った刹那的な松の美しさを味わうことができる贅沢な空間となっている。

東京都庭園美術館 「蜷川実花 瞬く光の庭」展 会場風景

東京都庭園美術館 「蜷川実花 瞬く光の庭」展 会場風景

蜷川実花色に染められた庭園美術館は、それぞれの部屋ごとに新たな魅力が引き出されている。部屋ごとに異なる照明の意匠と作品の組み合わせにも注目して鑑賞してみるのもおすすめ。また、丸みを帯びたディテールが印象的な第一浴室はピンクのネオンで照らされ、アイコニックな蜷川さんらしさが感じられる空間となっているのでファンの方は必見。

東京都庭園美術館 「蜷川実花 瞬く光の庭」展 会場風景

写真と真摯に向き合った1年。そしてそこから生まれた表現の変化

この作品を制作していた1年は、写真が変わる瞬間を体感した1年だったという。コロナ禍で不安定な社会情勢の中、自分の気持ちを確かめるように写真を撮り続けていたという蜷川さん。心が動いたときにしかシャッターを押さないと決めているにも関わらず、撮った写真の枚数は4万枚にものぼり、自身が「感覚おばけ」のような状態だったのだそう。あまりにも儚くて消えてしまいそうな一瞬のきらめきを捉えることで、こうであってほしい未来に対する願いのようなものが込められている。

東京都庭園美術館 「蜷川実花 瞬く光の庭」展 会場風景

今までの「極彩色」の表現から、光に包まれた「光彩色」の表現への変化は、蜷川さんのまなざしが、フィクションの世界の儚さから「現実と未来」が持つ儚さへ移り変わっていく様を体現しているといえる。「現実と未来」の形が定まらない不確かさと無限に広がる希望の光を捉えた作品は、鑑賞者である私たちのそれぞれの体験や感情と結びつき、揺れ動く心を光で包み込んでくれる。

東京都庭園美術館 「蜷川実花 瞬く光の庭」展 会場風景

新館の映像展示は、大きな半透明のスクリーンを通して映像がレイヤー状に重なって見え、蝶に導かれながら四季の花々を旅するような没入感を体験できる。夢と現実の区別がつかなくなるような、まさに「胡蝶の夢」に迷い込んだような錯覚を覚えるはず。「Butterfly Effect」という言葉もあるように、多様な未来の可能性の象徴でもある蝶と、日常の中で撮影された花々の捉えどころのない美しさは、「現実と未来」の儚さに目を向けている今の蜷川さんの表現を象徴するような映像作品といえるのではないか。ぜひ会場に足を運んで、その空間を体感してみてほしい。


蜷川実花 「瞬く光の庭」
会期:開催中〜2022年9月4日(日)
場所:東京都庭園美術館 本館+新館
展覧会特設サイト:www.mikaninagawa-flickeringlight.com

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