今年度の「LVMHプライズ(LVMH Prize for Young Fashion Designers)」の受賞者が発表され、日本から参加した「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」のデザイナー大月壮士さんが、みごとグランプリに輝いた。
優勝賞金は40万ユーロ(約6,900万円)。このほか、LVMHのチームによる1年間のメンターシップが提供される。
グランプリを受賞した日本人としては、2018年の「ダブレット(DOUBLET)」井野将之さん、2023年の「セッチュウ(SETCHU)」桑田悟史さんに続く、3人目の快挙。

授賞式にて。左から、クリスチャン・ディオール・クチュール会長兼CEOのデルフィーヌ・アルノーさん、大月さん、プレゼンターを務めた俳優のディーピカ・パドゥコーネさん。受賞後、大月さんは「名前を呼ばれたのは本当に自分かなって、疑いました」と、驚きの気持ちをコメント。
1990年千葉県生まれの大月壮士さんは、文化服装学院メンズデザインコースを卒業し、2015年に自身のブランドを設立。翌年、早くも同プライズのショートリストにノミネートされたが、ファイナリストに進めなかった経験がある。
約10年を経て、学生時代に作っていたサラリーマンスーツのスタイルにもう一度トライしたいと思いリブランディング。日本人の精神性をくむスーツのコレクションがパリでも高く評価された。

「ソウシオオツキ」のコレクションより。
審査員は「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」、「ディオール(DIOR)」、「ケンゾー(KENZO)」など、LVMHが傘下に収めるブランドのアーティスティックディレクターやグループの経営陣たち。大月さんは彼らを前にしたプレゼンテーションを「無我夢中だったからあまり記憶がなくて、緊張しましたね」と振り返る。

ファイナリスの作品を着たモデルたち。
「通訳を入れましたが、できるだけ自分の言葉で伝えられるように、話す内容を覚えてきました。ジョナサン・アンダーソンさんはセールス方法についてなど、ビジネス的な質問をたくさんしてくださいました。クリエイティブ面の説明は好評だったのではないかと、自分では感じています。
日本のブランドとして、日本のテーラーを大事にしたいという思いがあります。ジャパニーズ・トラディションと銘打っていますが、西洋の服飾文化やトラディショナルの文脈にまで影響を及ぼしたいと、そのようなことを話しました。
日本のサラリーマンについては理解されにくいので、写真を入れたブックも用意しました。その後、ニコラ・ジェスキエールさんと話した際に、ちゃんと伝わったかどうかを伺ったところ、すごくクリアにわかったと言ってもらえました」

審査員たちも勢ぞろい。
一方で「ケンゾー」のアーティスティックディレクターのNIGOさんは、彼の受賞理由を次のように話す。
「彼がグランプリになるような気がしていました。やっぱりレベルが高かったし、日本人らしさがあって、審査員たちのあいだでも評判だったので。プレゼンテーションでは、すごくがんばっていて気持ちが伝わってきましたし、謙虚なところも感じられてよかったです。デザイン面では、ディテールと現実的なところが評価されたんじゃないかな」

NIGOさん(左)と大月さん。二人はともに文化服装学院の卒業生。
カール・ラガーフェルド賞はイギリス人のスティーヴ・オ・スミス(Steve O Smith)さんが受賞。セントラル・セント・マーチンズ出身、ロンドンを拠点に活動するスティーヴさんは、自身の名前を冠したブランドを2017年に設立。筆とブラックインクで描くドレスのデザイン画から発展させ、ドローイングの線をアップリケにするというユニークな手法でコレクションを制作している。


写真左:スティーヴさん(左)とプレゼンターを務めた俳優のアンナ・サワイさん。右:「スティーヴ・オ・スミス」のコレクションより。
昨年新設されたサヴォアフェール賞は、同じくセントラル・セント・マーチンズ出身、ロンドンベースのイギリス人、トリシェジュ・ドゥマイ(Torishéju Dumi)さんが獲得。2023年に自身のブランド「トリシェジュ(TORISHÉJU)」を立ち上げたデザイナーは、ナイジェリアとブラジルのルーツに加え、19世紀の衣装やカトリックの宗教的意匠からインスピレーションを得ている。


写真左:喜びの涙の中でスピーチをするトリシェジュさん。右:「トリシェジュ」のコレクションより。
カール・ラガーフェルド賞とサヴォアフェール賞の受賞者には、それぞれ賞金20万ユーロ(約3,450万円)と1年間のメンターシップが約束された。

会場となったパリの「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」。
Photographs & Text:B.P.B. Paris