衣装の分野で活躍する文化服装学院の卒業生に聞いた!
衣装をクリエイトする人になるには?

2023.08.14

衣装は着る人を輝かせ、見る人の心を動かす。そんな衣装を作る人になるにはどうしたらいいの? あの人はどうやって衣装のクリエイションにたどり着いたの? 衣装の分野を志すあなたへのヒントに、衣装の現場で活躍する先輩に話を聞きました。

『装苑』2021年9月号掲載

 ご紹介している方々 
尾内貴美香さん(ALCATROCK)
王 麒さん(オサレカンパニー)
相澤 樹(スタイリスト)
半澤慶樹(PERMINUTE)

衣装デザイナーとして、衣装を極める。

デザインワークは集中するために自宅ですることが多い。ここはアトリエスタッフが作業をしたり、尾内さんもトルソーチェックや最終の確認などを行っている場所。

尾内貴美香(ALCATROCK)
服装科/2007年卒業

【作品リスト】
乃木坂46(2012年〜)、欅坂46(2015〜’20年)、スーパーライブ「美少女戦士セーラームーン」(2019年)ほか多数

「早く縫う、綺麗に縫う、学校で学んだ基礎技術が何よりも武器になる」

 乃木坂46の多くの衣装をデビュー時から今も、また欅坂46の大半の衣装を手がけ、〝坂道〟のイメージを担ってきた尾内貴美香さん。

 元々古着が好きで、ある日、遊び半分で卸屋さんに行ったことから古着屋さんを始めました。まだ文化の1年生だったので、学校が終わるとすぐお店で働いて、課題は朝までにやる毎日でしたが、とにかく服が好きなので、働いているというより好きなことをしている感覚で、それは今も変わっていません。お店では私が古着を修繕したり、リメイクしていましたが、スタイリストさんの依頼でお直しをしたのがスタートですね。そのうち女優さんのスタイリングや衣装作りを頼まれるようになり、せっかくなら自分でやってみようと、気づいたら今みたいになっていました。 

 最初に、乃木坂46の衣装のお話をいただいた時は、私はアイドルに詳しくなかったし、向いてないと思いましたが、アイドルというのはどんな衣装を着ているのかと、見られるものを全部見たんです。同じでは私がやる意味がないし、同じ路線で勝てるとは思わないので、別のベクトルでどうにかならないかなって。その時に、女性が着てみたい服なら作れるかも、と考えました。それで以前とは少し差別化も図れたと思いますし、元々アイドルに詳しくなかったというのが逆に功を奏しました。

尾内さんが衣装デザインをするのに絶対にないと困るというアイデアノート。仕事を始めた時から持ち歩きはじめ、思いついたことやデザインのこと、打ち合わせの内容などを記す。普通のスジュール帳だがフリースペースが多くて、自由に書けるところが気に入っているそう。尾内さんの脳内がここに詰まっている。

デザインワークの際に使っているカラーペン。

 制作させていただく衣装は、まずは洋服として自信を持って着ていただけるものでなければいけないなと思っています。女子特有の感覚かもしれないですが、私も今日の服はイケてないかもと少しでも思うと家に帰りたくなるタイプですし、今日は可愛い格好だと思うと、いつもより自信を持って過ごせる気がします。なので、気に入った衣装ならいつもより素敵な顔になるし、自信のある立ち居振る舞いになるはずだと思っています。

 私は在学中に仕事を始めたので、課題をこなす時間がないぶん、手を動かすのがかなり早くなりました。また、綺麗に縫えていなければ先生から突き返されるという学校での経験が今に生きています。外側だけ見られる服を作れればいいではなく、何秒でどれぐらい縫えるとか、早くはないけど綺麗に縫えるとか。そういうことも仕事につながるんですよ。

尾内さんのこだわりの本棚。「アイデアの引き出しを常に増やしていたい」と話す尾内さんの一番のインスピレーション源はファッション誌。発売日には買いに走る。切り抜いてカテゴリーで分け、見たいものが瞬時に見られるように整理。

 衣装の仕事は、決して華やかなものではありません。今までの最速だと、48時間で30着作ったことも。その時はスタッフも2、3人で、皆で必死に縫い上げました。ひどい時にはデザインから縫い上げまでたった3日とか(笑)。私だけならいくらでも無理しますが、よくスタッフたちもやってきてくれてるなって。みんな本当に服が好きで、着てくださる方のことが好きじゃないとできないことです。

Kimika Onai
1986年生まれ、東京都出身。2007年、文化服装学院卒業。在学中から古着の買い付けや卸を始め、現在は東京・代官山にあるヴィンテージショップ「アルカトロック」を営みながら、アトリエスタッフを率いて衣装デザイナー、スタイリストとして活躍する。

【衣装デザイナーになる!とは?】
衣装デザインに特化したデザイナー。オートクチュールのように、その人だけのための、その作品、その1曲、その役のためのデザインを担う。見る人を魅了するだけでなく、着る人のパフォーマンスを最大限に引き出すための、機能性や仕様も求められる。

衣装デザイナーとして活躍している卒業生は◆生澤美子 ◆渡邊礼子 ◆古田七瀬 ◆尾内貴美香(ALCATROCK) ◆竹内遥香 ◆成田あやの etc.……

衣装制作会社の一員として衣装を作る。

王 麒(オサレカンパニー)
アパレル技術科/2018年卒業

【作品リスト】
AKB48=LOVE, ≠ME、芹澤 優宮脇咲良 卒業コンサート(2021年)、田中みな実&弘中綾香「あざとくて何が悪いの?」、アイドル衣装(2020年)ほか多数

「衣装の魅力の王道は、僕が得意とするフリル。細かくて正確な美しいフリルは、絶対に最高の状態に仕上げる」

 アイドルや2.5次元の舞台衣装制作が専門のオサレカンパニーで技術を担う王さん。

 アジア一のファッション学校で学んでデザイナーになりたい!と文化に入りました。ファッション工科基礎科でパターンの重要性を感じて2年はアパレル技術科へ。いざ就活の時、以前は隠していたけど実は可愛い洋服が大好きで、中国でも有名な渡辺麻友さんをきっかけにAKB48の衣装をよく見るようになり、憧れてオサレカンパニーを受けました。

 オサレカンパニーは、それぞれの得意なスキルを生かして不得手を補い合うチームプレー。衣装専門なので、何かひとつでも得意なものがあって、それが求められれば働くことができるかもしれません。私の仕事は、デザイン画をパターンに起こし、トワルを組み、デザイナーにチェックしてもらって縫製。フィッティングをして、必要があれば直し、納品まで行います。中でもフリルや立体の奥行きを出す技術力を評価してもらっているので、そうした仕事が多いです。

道具は学生時代のものを今も愛用。細やかな装飾を得意としている。「1mm以下の幅で切ることもあるので感覚が重要。細かい作業ほどロータリーカッターは使わず、手になじんだはさみが一番。このはさみなしでは衣装を作れません!」と王さん。

 アイドル衣装の王道でもあるフリルの装飾などは最後の最後までやりきりたいので、宮脇咲良さんのHKT48卒業ドレスのフリルは本番3時間前まで粘って縫わせてもらいました。入社3か月でいきなり田野優花さんのAKB48卒業ドレスを任せられた時は正直ビビりましたが、先輩たちの助けもあって完成。ステージで衣装を見た時の感動は絶対に忘れません。これからもたくさんの〝かわいい〟を作り続けていきます。

Wang Qi
1989年生まれ、中国・無錫出身。大学を卒業後、日本へ留学。日本語を学ぶ。2015年、文化服装学院ファッション工科基礎科に入学し、翌年からアパレル技術科へ。’18年に卒業し、オサレカンパニー入社。

【衣装制作会社に入る!とは?】
衣装制作を専門とする企業の一員として、衣装のクリエイションを担う。チームで衣装制作を行うため、制作工程で役割を分担することも多く、得意なスキルを生かすチャンスもある。音楽や映画などの衣装のほか、最近ではアニメーションやゲームキャラクターの衣装デザインも増えている。

衣装制作会社で活躍する卒業生は ◆岡田敦之(松竹衣裳) ◆篠崎和佳子(松竹衣裳) ◆峰岸理恵(松竹衣裳) ◆佐々木ひかる(松竹衣裳) ◆甲斐彩香(松竹衣裳) ◆王 麒(オサレカンパニー) ◆田代 舞(オサレカンパニー) ◆久慈 菫(オサレカンパニー) ◆大塚明日香(ALCATROCK) ◆加藤なお(ALCATROCK) ◆熊坂有紗(ALCATROCK) ◆今村 睦(ALCATROCK) ◆大内和奏(ALCATROCK) ◆田中 凛(ALCATROCK) etc.……

スタイリストとして衣装をディレクションする。

世界各地から持ち帰った好きなものにあふれるアトリエ。ここで衣装のイメージを膨らませ、デザイン画を描いている。

相澤 樹(スタイリスト)
スタイリスト科(現・ファッション流通科スタイリストコース)/2003年卒業

【作品リスト】
渡辺直美LiSA日向坂46
ほか多数

「東京は、物もサブカルチャーも凝縮された街。ここで手と足を動かし続けて吸収したものすべてが、衣装へとつながる」

 テレビ、雑誌、広告、MV、アニメに至るまで、幅広いジャンルで衣装のディレクションを手がけているスタイリストの相澤樹さん。

 高校の頃、作った服をフリマで売っていたらバンドマンに衣装を作って!と頼まれて。それが初めての衣装制作です。当時から足りないものは作っちゃおう!精神。文化ではスタイリスト科に、同時にオープンカレッジで立体裁断とパターンの基礎を学び、今でも欲しいものがなければ自分で作っています。

「クライアントにイメージを明確に伝えるために、デザイン画は分かりやすいほどいいんです」という相澤さん。

 私はスタイリストなので、いろんな所を見て情報をインプットしますが、特に古着屋さんでは色々チェックします。今っぽくしたらどうなるか、トレンドを混ぜたら面白そうなんて考えるのは、スタイリストだからこそのやり方かもしれませんね。スタイリストが衣装のディレクションをお願いされる時には、洋服のこと以上のものを求められていると思います。作品への理解やカルチャーの知識、その人にしかない感性や視点、ムードや世界観をつくったり、コミュニケーション能力や時に人を動かす力かもしれません。だから、洋服以外にも、好きなことはなんでもやったほうがいいと思います。

LiSAさんのLIVE衣装とデザイン画

私は好きなことが本当に多くて、漫画が好きで、映画も音楽も、そして美術館も大好きなので、365日外に出ない日はありません。今はネットで調べればなんでも出てくるけど、実際に人と話したり目で見て感じたことがイメージソースになり、衣装制作にとても生かされていますね。

Miki Aizawa
スタイリスト科(現・ファッション流通科スタイリストコース)/2003年卒業
雑誌でのスタイリングをはじめアーティストの CD ジャケットや MV、広告、TVCM などで活躍するかたわら、衣装デザイン、エディトリアルディレクション、アニメ衣装の監修、空間プロデュースなど多方面でも活動中。2021 年に東京で開催されたパラリンピック閉会式では衣装ディレクターとして参加。

【衣装もできるスタイリストになる!とは?】
服をコーディネートするだけでなく、元来の意味のようにスタイルを作ることができたり、スタイルを演出することができるようなスタイリスト。衣装デザインだけでなく、世界観をつくったり、新たな視点や価値を与えるような衣装を含めたディレクションを求められることが多い。

衣装も手がけているスタイリストの卒業生は ◆飯嶋久美子 ◆相澤 樹 ◆山口壮大 ◆酒井タケル ◆佐野夏水 etc.……

ファッションデザインの先に生まれた衣装の仕事。

半澤慶樹(PERMINUTE)
ファッション高度専門士科/2016年卒業

【作品リスト】
渋谷パルコ広告ビジュアル(2018年)、舞台『プレイハウス』(2019年、根本宗子演出)
 ほか多数

「僕の作った服を見て、この服はどんな人が作ってるの?と興味を持ってもらったのが、衣装デザインの仕事の始まりでした」

 独創的なフォルムに美しいドレープが注目される〝パーミニット〟を手がける半澤さんはコレクションを展開しているデザイナー。

 自分に衣装の仕事が来るなんて思いもしませんでした。ブランドの存在が知られてきて、この服はどんな人が作ってるの?という興味から誘われたのが、渋谷パルコの広告のコンペ。それが衣装の仕事の始まりです。

 リサーチをして、自分でパターンを引いてと、どんな衣装もコレクションピースと同じように作っていますが、その人が綺麗に見えるシェイプだけを追求できるので、デザイン画だけでは表現しきれない美しさを入れられますね。これは面白い!と思ったものを自分のコレクションに生かすこともあります。

根本宗子さん演出の舞台『プレイハウス』で手がけたGANG PARADEの衣装(左)。苦手だったビスチェをリクエストされ、ある種のチャレンジに。それが自身のブランド、パーミニットの2019SSコレクション(右)へとつながった。

 例えば根本宗子さんの舞台では、通気性、早替えの仕掛け、長期公演での耐久性など舞台でどう機能するかが問われ、今までとはまったく別の衣服を作っているような感覚でしたが、破れず、洗えて、染められる生地選びに苦心しながら、もっと突き詰めたくなってオリジナルの生地を作るきっかけになりました。

持ち味でもあるドレープをより美しく出すために、ボディに近いところはニッケルのシルクピンを使用。ニッケル(右)と、その超極細(左)を使い分けるのがこだわり。

 デザイナーで衣装を手がける人はたくさんいますが、量産される服ではなく、素材やデザインにこだわった深い服を作り、その特性や可能性に目をとめてもらえるか。あとは柔軟性でしょうか。一人では挑まないことにトライする機会にもなり、コミュニケーションから新しいものが生まれるのも面白いので、これからも作っていきたいです。

Yoshiki Hanzawa
1992年生まれ、福島県出身。2016年、文化服装学院、ここのがっこう卒業。同年、H&M DESIGN AWARDのショートリストにノミネートされる。’17SSより自身のブランド〝パーミニット〟スタート。

【ファッションデザインの先に衣装を作る!とは?】
ファッションブランドを設立し、コレクションを発表するファッションデザイナー。コレクションの創造力やデザイン性、独創性などそのクリエイティビティが認められたり、評価されると、そのブランドの世界観やデザイナーの得意とする技術やセンスを求めるクライアントから衣装の仕事を依頼されるようになる。

衣装デザインもするファッションデザイナーの卒業生は ◆コシノジュンコ(ジュンココシノ) ◆津森千里(ツモリチサト) ◆廣川玉枝(ソマルタ) ◆熊切秀典(ビューティフルピープル) ◆岩谷俊和(ドレスキャンプ)  ◆半澤慶樹(パーミニット) ◆東 佳苗(縷縷夢兎) etc.……

photographs: Norifumi Fukuda (B.P.B.)

お問い合わせ「文化服装学院 入学相談係」
TEL:03-3299-2222
WEB:http://bunka-fc.ac.jp


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