ユイマ ナカザトは、氷の鎧がイメージソースに。
2025-’26年秋冬オートクチュールウィークより

2025-’26年秋冬オートクチュールウィークが7月7日から4日間の日程で開催。
今シーズンの必見のショーや気になるトピックスをご紹介します。

ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)のテーマは「GLACIER(氷河)」。

今シーズン、デザイナーの中里唯馬は、衣服の起源を探るために、コンテンポラリーダンサーでアーティストのイヴゲニー・ガニエフ(Evgeny Ganeev)とともに、フィンランド最北の地・ラップランド地方を訪れた。極寒の中で裸のガニエフを撮影し、人間の身体の脆弱さを直視することで、衣服が人類の進化に果たした役割や「人間とは何か」という根源的な問いに思い至ったという。

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ショーでは、ガニエフのダンスとともに、床に敷いた白い生地にデザイナー自身が黒インクで模様を描くパフォーマンスを展開。これは、氷の鎧が溶けて衣服の一部となり、戦うための装備ではなく、装飾的な存在へと変化していく様子をイメージしたもの。

中里は近年、無数のセラミックピースを組み合わせた“割れる鎧”(戦えない鎧)のドレスを制作してきた。壊れやすい陶器は、フィンランドの氷の儚さと重なる。加えて、今回は、陶器のマスクを制作。顔認証やAI画像生成などが広がる現代において、顔を曝け出すことを無防備に感じ、隠すという行為に強いプロテクトの意味を込めたのだ。

さらに、金属チェーンをモヘアの糸で編み合わせたニットも印象的だった。
「手編みという行為は、長らく女性のジェンダーロールと結び付けられてきたが、転じて、近年は公の場で編み物をすることがレジスタンスの象徴ともなっている。金属は鎧などにも使用される強さを象徴する素材であるが、繊細な糸で時間をかけてゆっくりと手編みをするという行為を通して、この世界の情勢への静かなる抵抗を表したかった」と、中里。

目を引いたプリントに使われたのは、ラップランドで撮影したダンサーの写真など。人類と衣服の関係に想いを馳せたコレクションは、緻密な技巧と豊かな表現力が際立っていた。

Photo : Gio Staiano / Courtesy of YUIMA NAKAZATO
Text : B.P.B. Paris

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