住友家が収集してきた美術品を展示する「泉屋博古館東京」が会場となったヨウヘイ オオノの2024-’25年秋冬のショー。金色に輝く木島櫻谷の「四季連作屏風」が並ぶ静謐な空間には、ボタニカルスキンケアブランド「SAIL」との協業で生まれた穏やかな木の香りが充満する。これまでのヨウヘイ オオノとは一線を画する「大人」な会場演出の中、ショーは始まった。
発表されたのは、優美な布の動きが印象的なルックの数々。ショルダーラインから後ろ袖にかけて布が波打つフラノウールのトップと共布のパンツのセットアップ、その特徴的なドレープを引き継いだ光沢地のシャツワンピース、ガウンコートなど。
前衛的なデザインと構築的な造形を特徴とするデザイナー、大野陽平さんの新機軸を見せるようなこうしたアイテムに加え、得意のドレスはアシンメトリーなラインを描き、構築と流麗さの絶妙なバランスを見せていた。
クワイエット・ラグジュアリーやクラシック回帰の流れを単に落とし込んだわけではなく、服には「ラグジュアリー」への心的距離、外側からそれを観察するような視点が込められた。ハンドバッグを持つ腕の動きをそのままドレープに落とし込んだドレスやコートは、そうした視点が服のアイディアに結実していて魅力的に映る。大野さんは、いま、ドレープワークに熱中しているのだという。
また、ピアスやグローブの指先には、河原の石を加工した現代アートのようなアクセサリーが輝いていた。HIDAKA(ヒダカ)とssp.(エスエスピー)との協業で生まれたこれらのアクセサリーも、パールや貴石を用いる高級ジュエリーへのヨウヘイ オオノからの回答で、ラグジュアリーという遠景を象徴するものだ。
アイテム単体では、ヒップラインで切り替わり、後ろ姿がレイヤードのように複雑なルックを描くスカートの余韻が心に残った。
前回、2024年春夏で自らの幼少期の記憶に向き合った大野さんが、今シーズンはまだ見ぬ大人の世界へと視線を移している。敬愛する映画監督のギャスパー・ノエが、新作『VORTEX ヴォルテックス』を大人に向けて撮ったと語る言葉への共鳴も、一つの契機になったという(「装苑ONLINE」で2023年11月に対談)。
そうして挑戦した「大人へ向けたクラシック」には、かつて思い描いていた未来図や現実の生活とラグジュアリーな世界とのギャップ、未だそうした世界が遠くにあること、ファッション産業そのものへの複雑な思いが見え隠れしていた。それは、成長過程で感じる身体の痛みに似ているのかもしれない。美しくもアンバランスなクラシックは、ヨウヘイ オオノが次なるステップへと進むための大切な萌芽なのだろう。そして、ラグジュアリーやクラシックへの「引きの目線」は、この日本に暮らす多くの人々のリアルでもある。
ショー後に行われた囲み取材の場で、ヨウヘイ オオノが2025年開催の大阪・関西万博「住友館」のアテンダントユニフォームのデザインを担当することが発表された。日本から発信する日本ブランドの矜持を持ちながら、ヨウヘイ オオノがファッションの矛盾を抱えたまま成長する姿を追いかけたい。
YOHEI OHNO
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