IHNN(イン)10周年となるショーのバックステージに潜入 ファッションの原点から描く新章

2025.09.01

8月19日(火)草月会館で「IHNN(イン)」が約5年ぶりとなるフィジカルショー2026年春夏コレクションを開催。母国を離れ、日本でブランドを築いてきた韓国出身のデザイナー・印 致聖(イン・チスン)さんにとって、10周年の節目となるショー。装苑オンラインでは、その舞台裏とこれからの展望をお届けする。

photographs:Jun tsuchiya(B.P.B.)

自分が本当に描きたい女性像をショーを通して示す

「僕の描いていたものとは違った方向へ進んでいる気がした」ショーが終わった直後の囲み取材でそう語ったインさん。
「ブランドを続けていくなかで、求められるものを追いかけるうちに、僕の思いと服との間に少しずつズレを感じていました。なので、10周年という節目に自分が本当に描きたい女性像をショーを通して示そうと考えました」

IHNN(イン)
文化ファッション大学院大学を卒業後、2014年にChisung IHNによって設立。繊細さと大胆さを併せ持った新しい感性を創造し、感度の高い女性へ向けたスタイルを提案する。カラーと実験的でユニークな素材を組み合わせ、上質で現代的なコレクションを発表している。

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日常のひとつひとつを愛しむ芯の強い女性に向けて

「日常への招待」をテーマに掲げ、ブランドのリブランディングを兼ねた2026年春夏コレクション。IHNNは今季、新たな女性像を提示した。

「僕の周りにはアートやインテリアが好きな女性が多いのですが、そうした人たちが憧れるようなブランドに戻したいという思いがありました。IHNNの新たに描く女性像は芯の強さを持ち、日々の中にある何気ないことに心を動かされるような感受性の豊かな人です」とインさん。

ショーの裏側をレポート

13:00 ヘアメイク

インさんの思いのもと、準備を進めるバックステージ。ヘアを手がけるのはヘアスタイリストのYu Nagatomoさん。
「インさんからお話をいただき、服や小物、ショー全体の雰囲気に合わせてヘアを考えました。会場の草月会館には水が流れているので、それにリンクさせるようにウェッティな質感と髪の流れを意識しています。顔周りはしっかりと固め、全体的にシックな印象に仕上げました」とYu Nagatomoさん。

メイクを手がけるのはRMK。統括は金子真二さんが務めた。
「フレッシュな雰囲気が良いと提案をいただいていたので、メイクレス風に仕上げています。血色を抑え、透明感を際立たせたクールな肌にツヤ感をしっかり加えました。ただ、全体をナチュラルに仕上げると、どうしても“ほっこり可愛い”に見えてしまいます。芯のある女性像を印象づけるために、アイブロウが効果的ではないかと。ポイント的に眉を際立たせることで強さをプラスし、引き締めるようにしています」と金子さん。

13:30 スタイリングの確認

ヘアメイクのブースの側では、アクセサリーのフィッティングが進められていた。スタイリングを手がけるMarie Higuchiさんと、ネックレスをどの程度背中に流すかバランスを相談する姿も見られた。

フィッターにはインさんの母校でもある文化服装学院から学生も参加。

モデル20名に対し、ルックが33体あるため、早着替えが必要。そのためバックステージの2つのフィッティングルームでは、スタイリストのMarie Higuchiさんを中心に動線、順番、靴などをどう回すか、手際よく進められるよう準備が行われた。

アートは作品の放つ力がすごく強い。作家の心情のようなものがダイレクトに伝わる

新しい女性像、そして今季のコレクションの背景には、インさん自身も好むアートからの強い影響がある。
「アートは作家の想いをダイレクトに映し出し、人に共感や感情を呼び起こします。今回のコレクションでは、その力を受け止められる女性像をアートの要素を小物やプリントで取り入れることで表現しました」とインさん。

今季コレクションでは、韓国の若手アーティストとコラボレーションしたアイテムが象徴的に使われた。花束のようにトルネードしたバッグは、ロエベ クラフト プライズのファイナリストでもある作家キム・ジュンスさんとの作品。さらに、ネックレスはメタル作家のユン・ヨドンさんと制作し、靴とバッグは韓国ブランド「Atelier de LUMEN(アトリエ・ド・ルメン)」とのコラボレーションによるものだ。

「今シーズンは初めて母国・韓国の作家さんやブランドとコラボレーションすることができました。近年、韓国では素敵な作品が増えていて、僕自身のルーツとも重なるのでとても嬉しいです。IHNNは日本の素材や物作りに惹かれてスタートしたブランドですが、今後は日本と韓国、両方の魅力あるクリエイションを融合していきたいです」

14:00 ルート確認

会場は、草月会館1階エントランスに広がる、国際的アーティスト イサム・ノグチによる傑作「天国(花と石と水の広場)」。石の彫刻と石段が織りなす空間の中で、モデルと演出の VISIONS AND PARADOX スタッフは複雑なルートを入念に確認し、3度にわたってリハーサルを重ねた。

韓国のアーティストキム・ジュンスとのコラボレーション。

通しリハーサルがスタート。インさんはバックステージへ移動し、早着替えを見守る。

韓国ブランド「Atelier de LUMEN(アトリエ・ド・ルメン)」とコラボレーションしたバッグと靴。

計2回の通しリハーサルを無事終え、ドアオープン。いよいよ本番へ。

16:30 ドアオープン

客席には今回コラボレーションした韓国人アーティストたちの作品を写したポストカードと、インさんが10周年を迎えられた感謝を綴った手紙が配置された。

17:00 最終調整

各スタッフは最終調整へ。インさんもフィッティングを確認。衿や袖の細やかな部分まで念入りにチェック。

フィナーレに登場するインさんのヘアを最終調整するYu Nagatomoさん。穏やかな場面。

NEXTショーがいよいよスタート。コレクション写真掲載。ショー直後のインさんインタビューも

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