–文化出版局パリ支局より、イベントや展覧会、ショップなど、パリで日々見つけたものを発信。

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四季折々、時間と共に光が移動する館内。「朝から夜まで、光が移動していく間に、内部の空間は変化していきます。本来、建築というのは生き物なんですよ」と安藤忠雄。


外出制限が徐々に解除されているフランスでは、5月19日から美術館が再開。興味を惹かれる展覧会が目白押しですが、そんな中、最も注目を集めているのがパリの中心に誕生した現代アートの美術館「ブルス・ド・コメルス – ピノー・コレクション(Bourse de Commerce – Pinault Collection)」です。

ここで展示されるのは、グッチ、バレンシアガ、サンローランなど、ラグジュアリーブランドを傘下に収めるケリング・グループの創業者、フランソワ・ピノー氏(François Pinault)のコレクション。美術コレクターとしても知られるピノー氏が、50年以上にわたって蒐集したアート作品は一万点を超えるそう。

また、美術館となった建物「ブルス・ド・コメルス」の改装を手がけたのは安藤忠雄氏。歴史的建造物であるここは1766年に穀物取引場として建てられ、古代建築から着想された円形のデザインが特徴的です。南のファサードにはカトリーヌ・ド・メディシスの宮殿の名残である16世紀の塔があり、内部を飾る天井画とガラスのドームが壮観。

安藤氏はこの建物の中に、サークル状の建造物を作るというアイデアに思い至りました。館内中央には、高さ9m、直径29mのコンクリートの壁がそびえます。

美術館による安藤忠夫のインタビュー動画。自身が若い頃に影響を受けた抽象画家で実業家の吉原治良と、哲学者の西田幾多郎に触れ、円の概念についても語られる。


「円は無限の可能性を抱いていると考えていたので、もう一度円を描きたいと思いました」とインタビューに答える安藤氏。「古い建物の中に新しい建物を入れることで、歴史を意識する。その建築の中に現代美術がくることによって、現在、過去、未来と、同時に体験できる空間を作りたかった。単に美術品を観るだけじゃなく、歴史を考え、自分自身はなんだったんだろうと考える場所にしたいと思いましたね」と語っています。

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5月22日にグランドオープンを迎える「ブルス・ド・コメルス – ピノー・コレクション」。改装工事は2017年から始まり、当初は2019年春に開館の予定だったが、工事の遅れとコロナ禍で、延期に次ぐ延期になっていた。


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建物の裏手、左側にあるのが16世紀の塔。日が暮れると、塔の上に設置されたフィリップ・パネロ(Philippe Parreno)の光のインスタレーションを見ることができる。


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建物は1889年の万博の際に改修され、現在の姿になった。天井にある迫力のフレスコ画もその時に描かれたもので、5大陸の貿易の歴史が表されている。


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ドームの真下、コンクリートブロックを重ねた壁が取り巻く展示場。ブロックひとつは畳一畳の大きさなのだとか。オープン第1弾の展示は、ウルス・フィッシャー(Urs Fischer)のインスタレーション。蝋でできた彫像や椅子に毎日火が灯され、最後には溶け崩れるというもので、無常、時間の経過、変化、創造的破壊を意味する。ちなみに男性の像は、フィッシャーの友人でアーティストのルドルフ・スティンゲル(Rudolf Stingel)がモデルになった。


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1階の展示風景。上の写真はベルトラン・ラヴィエ(Bertrand Lavier)、下はデイヴィッド・ハモンズ(David Hammons)の作品の展示。


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2階は写真作品がメイン。監視員の椅子のような作品は、タチアナ・トゥルーヴェ(Tatiana Trouvé)のシリーズ「ザ・ガーディアン(The Guardian)」で、各階にさりげなく設置されている。


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3階の展示。上の写真はルドルフ・スティンゲル(Rudolf Stingel)の作品。同階には、ケリー・ジェームス・ マーシャル(Kerry James Marshall)、ミリアム・カーン(Miriam Cahn)、ピーター・ドイグ(Peter Doig)などによる人物画が集められている。


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地下の展示場とオーディトリアム。上の写真はタレク・アトゥイ(Tarek Atoui)の視覚と聴覚を刺激するインスタレーション。美術館では一年を通して講演会やコンサートなどのプログラムが組まれ、絵画、彫刻、写真、インスタレーション、ビデオ、パフォーマンスなどのあらゆる芸術を鑑賞できる。


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最上階には著名シェフのミシェル&セバスチャン・ブラスがプロデュースするカフェ・レストラン「アル・オ・グラン(Halle aux grains)」もあり、穀物をテーマにしたオリジナリティに富む料理が提供される。こちらは6月10日に開店予定。ポンピドゥーセンターやサン・トゥスタッシュ教会を一望できる眺めもすばらしい。


開館は5月22日より。オープニングを飾る展示の多くは12月31日まで継続されますが、途中で入れ替わるものも。アーティストと日程は公式サイトのプログラムでチェックを!


Bourse de Commerce – Pinault Collection公式サイト:
https://www.pinaultcollection.com/en/boursedecommerce


Photographs : 濱 千恵子 Chieko HAMA
Text:水戸真理子 Mariko Mito(B.P.B. Paris)