
2025年4月22日(火)まで、東京の伊勢丹新宿店で開催中の「ピース de ミライ」は、ファッションを通じて新しい未来を示唆するプロジェクト。リーバイス®のユーズドストックをはじめ、マリアケント社のサンプル生地や尾州産地の残反などのアップサイクル素材に加え、ヤマサワデニムや合成皮革(アップルレザー)などのリサイクル素材を「ピース」とし、その「ピース」を用いたブランドの商品が一堂に揃う。
その一環として、1本ずつ丁寧に洗浄されたリーバイス®︎ 501®︎のユーズドストックのデニムを素材とし、服飾学生たちが新たな作品づくりに取り組む「三越伊勢丹ミライアワード ~ファッションの未来を彩る~」が開催され、「ピース de ミライ」の期間中、伊勢丹新宿店本館1階のウィンドウに学生作品21体が展示されている。
エントリーしたのは、文化服装学院、エスモード・東京校、東京モード学園の学生たち。そして、本アワードの審査員を務めたのは、モードの世界でいち早くサステナビリティへの取り組みを行ってきたステラ マッカートニー(Stella McCartney)だ。
アワードの開催を記念して、3月には東京の文化服装学院をステラ マッカートニーが訪れ、環境大臣の浅尾慶一郎さん、伊勢丹新宿本店長の近藤詔太さんとトークイベントを行った。サステナビリティな取り組みをクールなものとして提示し続けるステラが、未来のファッション業界を担う学生たちに語ったこととは?ファッション性と地球環境の保護の両立という難しい課題に第一線で取り組み続けるステラが語った、熱いトーク内容をお届け。
photographs : Josui (B.P.B.)
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「サステナビリティにはイノベーションが必要」

ステラ マッカートニーにとってのサステナブル
環境大臣の浅尾慶一郎さんと伊勢丹新宿本店長の近藤詔太さんによるファッションとサスティナビリティについての対話の後、ステラ マッカートニーが登場。2001年のブランド設立当初から取り組んできた、サステナビリティについて語った。
Stella「私たちが環境のことを考える時、サステナブルという言葉を使いますが、その意味を深く理解しないまま使ってしまっていることが多い気がします。そこが問題かもしれませんね。私たちの使命は、この母なる大地、地球を守っていかなければいけないということなんです。私はブランドを立ち上げた1日目から、自然に対して愛と敬意を持って、ハーモニーを築いていくことを考えていました。今も同じことを考えながら、ブランドを続けています。今、私が着ているジャケット、パンツ、ニット、靴もすべて動物由来のものは使っていません。靴の接着剤も含め、すべてです。
そうした材料を使うには、イノベーションが欠かせません。グレープフルーツやリンゴの皮由来の素材、ニットの材料としてケルプ(大型の褐藻類のこと)を用いたり、石油由来の材料を使わずにパンツを仕立てたりといったことには、最新技術が必要です。その上で、セクシーでスタイリッシュなアイテムを作ります」
2025年サマー コレクションに込めたメッセージ「視点を変えて」
Stella「2025年サマー コレクションは、自然の鳥からインスピレーションを得ました。皆さんも都会に住んでいるので、周囲に花や鳥、海などの自然がなく、それを希求するような気持ちがあるのかな、と今回の『ミライアワード』の作品を審査していても感じましたが、私がいつも考えているのは、毎日の生活の中で視点を変えることです。ちょうど、空を飛ぶ鳥が上空から地上を見るような視点を持ちながら毎日の生活をとらえてみるといいのかもしれない、と、2025年サマーでは『Save What You Love』をテーマにコレクションを作りました。海に廃棄されていたプラスチックを再利用して制作したニットや、コピー機などの金属をリサイクルした素材を用いています」
学生とのQ&A
「私たちは完璧ではない。好奇心と興味を持ち、毎日闘って、新しい方法を求め続けて」

——ファッション業界において、生成AIの活用や技術の進化は希望がある一方、大量生産は環境破壊につながるという側面があります。現実と夢の狭間で揺れている私たち学生に、近未来の予測から、希望を抱けるような一言をいただけますでしょうか。
Stella「目の前に山積する課題を解決しなければいけない、それは私も同じように感じています。デザインができる喜びを感じつつも、今までとは違う視点を持って課題に向き合わなければいけません。
なぜなら、これまでと同じやり方でものを作っていては、絶対に地球を痛めてしまうからです。それを避けるために私たちはイノベーションを続け、さらにヴィンテージのものを使いながら、楽しくものを作っていく必要があります。
また、私は、地球環境にとって正しい方法でファッションの仕事を行う若い世代には何かしらのインセンティブを与え、また、そうではない人たちにはペナルティが課せられるような規制や法整備も必要だとも思っています。皆さん自身が将来の希望です」
——若いデザイナーがサステナブルなブランドを立ち上げる際に最も重要なことは?
Stella「私がブランドを始めた2000年の初め頃に比べたら、今のほうがずっとやりやすい状況だとは思います。当時は、皮革の代わりになる素材は、とてもバッグには使えないような硬いものしかありませんでしたから。
何もしないより、とにかくスタートすることが重要です。私たちは、皆、完璧ではありません。本当に完璧を目指すなら、ものを作らなければいいということになってしまう。完璧ではない私たち人間が地球のためにできることは、動物由来のものを使わないこと。そのほうが気持ちも豊かになると思います」
——これからのファッション学生に必要な視点、視野は?
Stella「色んなことに興味を持って、自分で様々なものを探してみてください。そうすることで今とは違ったり、今のものに代わるものが見つかると思います。現在のファッション産業のサプライチェーンの仕組みはダメなんです。それではないものを探してください。
そしてもう一つ、ファッション産業は本当に競争が激しくて、皆が手を取り合って一緒に何か協力しましょうという動きを起こしづらいんです。それを、皆さんの世代でやってみてください。そして、毎日闘ってください。私も毎日、変化を起こすために闘っています。それを続けることで賛同する人も出てくるはずです。好奇心と興味を持ち、毎日闘って、新しい方法を求め続けてください。
ものを作ることができるというのは、一つの特権だと思います。その特権には、やはり責任が伴うものです」

トークイベント会場に展示された「三越伊勢丹ミライアワード」の作品。この中から、ステラ マッカートニーが選出した「ミライアワード大賞」、「伊勢丹新宿店賞」、「メディア賞」、「リーバイス®︎賞」、「環境大臣賞」が決定する。アワードは、「デザイン性・新規性・ビジネス性・将来性」の4項目を基準に審査される。写真の作品は、文化服装学院ファッション高度専門士科学生作品。
第2回 三越伊勢丹ミライアワード
会期:2025年4月9日(水)〜22日(火)
場所:伊勢丹新宿店
東京都新宿区新宿3-14-1