これからデジタルファッションやデジタル技術を使った服作りに挑戦したいと思っている人、今、チャレンジ中の人が理解しておくと便利なデジタル用語を解説します!
illustration:OMA MIO、 『装苑』2024年 9月号掲載
この記事の内容
どんどん進むファッション業界のDX化
・DX
・VX
ファッションの現場で欠かせないデジタル用語をピックアップ
・アパレルCAD
・アパレルCAM
・生成AI(人工知能技術)
・対話型AI (Chat GPT)
・画像生成AI (Midjourney、Stable Diffusion)
・3Dモデリング
・3DCG
・モーションキャプチャ
・CLO Enterprise(クロ エンタープライズ)
知っておきたいバーチャルの世界
・NFT(Non-Fungible Token)
・AR(Augmented Reality)
・VR(Virtual Reality)
・メタバース
デジタルファブリケーション機器も要チェック
・カッターマシン
・ホールガーメント ®横編機
・3Dプリンター
・レーザーカッター
・コンピューターミシン(刺繍ミシン)
どんどん進むファッション業界のDX化
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略。直訳すると「デジタル変革」で、単純なIT化ではなくデジタル技術を活用して新しいことを始めたり、ビジネスモデルを革新させることを指します。ファッション業界では、コロナ禍を機にDX化が急加速中。デザインから生産、販売、マーケティングまでの過程でデジタル技術を活用し、業界全体を向上させる取り組みが多くなってきています。例えば、アパレル企業が3Dシミュレーションを取り入れたり、ECサイトのオペレーターにAIを活用したりと様々。これからはデジタルに特化したファッションに限らず、ファッション業界で生きていく上でデジタル用語は避けて通れぬ道! ということなのです。今の服作りの現場で頻繁に使われるワードを、ぜひチェックしてみてください。
VX化とは??
VXは「バーチャルトランスフォーメーション」の略。DX化の次なる革新として期待されている概念で、バーチャル技術を活用して業務やビジネスプロセスを更新するのがVX化。こちらは、まだまだ発展中。今後さらなる進化が予想されるので覚えておきましょう。
ファッションクリエイションの
現場で欠かせない
デジタル用語をピックアップ
アパレルCAD(キャド)
CAD(Computer Aided Design/コンピュータ・エイデッド・デザイン)は、コンピュータを使用して製品や部品の設計を行うこと。ファッション業界では、パソコンでCADソフトを用いて、衣服の製図・パターンを制作します。
アパレルCAM(キャム)
CAM(Computer Aided Manufacturing/コンピュータ・エイデッド・マニュファクチュアリング)は、CADで設計された製品や部品の製造プロセスを自動化しアウトプットすること。ファッション業界では、CADで作成したデータをもとに布地を自動裁断するCAMのシステムが利用されています。
生成AI(人工知能技術)
機械学習やディープラーニングを用いて、与えられたデータをもとに学習し、新しいデータを生み出す技術。応用範囲の広さからファッション業界での活用も急速に進んでおり、今後のさらなる進化が期待されています。近年ファッション業界でよく活用されている二つのAIシステムをピックアップし紹介します。
\絶対に抑えておきたいAIシステム /
対話型AI (Chat GPT)
会話チャット形式で文章をやり取りするAI。2022年に発表されたChatGPTは、そのAIとは思えない自然な対話で大きな話題に。ファッション業界では、ECサイトの問い合わせチャットシステムや、コレクション制作のアイデア出し、画像生成AIを使う際のプロンプトの作成などの活用が期待できます。
画像生成AI (Midjourney、Stable Diffusion)
どんな絵を描きたいか文章(プロンプト)を入力することで自動で画像を作るAI。ファッションクリエイションにおいては、テキスタイルのデザインや、コレクション制作の案出しなどに活用できます。
3Dモデリング
コンピュータを使って3次元のオブジェクトやシーン、つまり3DCGを作るプロセスの総称。
3DCG
3次元コンピュータグラフィックス。コンピュータを使って3次元空間内に物体やシーンを作り、視覚的に表現する技術のことで、立体的な表現が可能に。3Dモデリングによって作成された3DCGは、映画、ゲーム、建築、デザインなど、様々な分野で利用されています。
モーションキャプチャ
現実の動きをデジタルデータ化する技術。体や顔の動きを撮影してデジタルデータ化し、3DCGで制作したアバターモデルなどに同じ動きをさせることができます。主にアニメーションや映画のCG制作などに使用され、ファッションにおいては、バーチャルファッションショーのモデルの動きや、スポーツウエアの開発などに活用されています。
\マストで覚えておきたいアプリケーション/
CLO Enterprise(クロ エンタープライズ)
ファッションに特化した着装シミュレーションシステム。パソコン上でパターンを作図、それを実際に立体化しサンプル(服)にするという一連の流れが、3Dソフトで行えるように。完成した3D衣装を現物として作ることはもちろん、データ化しメタバース内でアバターに着せるなどして楽しむこともできます。ゲーム衣装の制作などにも使用されています。
知っておきたいバーチャルの世界
「バーチャル」って当たり前のように使っているけど、説明できる人は少ないのでは? バーチャルとは、いわゆる「仮想」で、現実ではないもの、実際にはないものを"ある"と想定すること。つまり、仮想〇〇とつくものはバーチャルといえます。ファッション業界でも大いに活用されており、制作や買い物、体験と様々なシーンで登場する重要なピースです。デジタルなクリエイションを行うのであれば、知っておきたいバーチャルにまつわる、覚えて損はない基本用語をご紹介します。
NFT(Non-Fungible Token)
メタバースの世界でよく聞くのがNFT(Non-Fungible Token)。日本語では非代替性トークン(トークン≒暗号資産/仮想通貨)といい、ブロックチェーンを利用したデジタル資産の一種です。ほかの通貨や資産と交換できない独自の価値を持ち、簡単に言うと、コピーができないデジタルデータの証明書のようなもの。デジタルアートなどの所有者であることの証明が可能になります。アパレルのラグジュアリーブランドのアイテムが高額で取引されたことでも話題になりました。
AR(Augmented Reality)
「Augmented Reality/アグメンティッド リアリティ」の略で、訳すと拡張現実。現実世界の映像や画像にコンピュータで作った情報やオブジェクトを重ね合わせて表示する技術。スマートフォンやタブレット、ARグラスなどを使い、現実世界にデジタルコンテンツを組み込むことで、没入感のある体験が可能に。スマートフォンゲームの「ポケモンGO」や、アパレル業界ではカメラをかざすことで服を試せるバーチャルフィッティングなどにもAR機能が使われています。
VR(Virtual Reality)
「Virtual Reality/バーチャル リアリティ」の略。仮想現実と訳され、コンピュータによって作り出された仮想の3次元空間を現実のように擬似体験できる仕組み。ヘッドセットやスマートフォン、パソコンなどのデバイスを使って、CGで作られた仮想空間内を360度自由に動き回り、リアルな体験を得ることができます。ファッション業界では、仮想空間でモデルが歩き服を披露するバーチャルファッションショーや、メタバース内に現実にある店が出現し、実際の商品を仮想空間を通じて販売するバーチャルストアなどがVRを使用した例としてあげられます。
メタバース
バーチャルに付随してよく聞くメタバース。ひと言で表せば「仮想空間」のこと。はっきりとした定義は確立されていませんが、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、インターネットをミックスさせた仮想空間の集合体のこと。メタバース内では、人々がデジタルアバターを通じて、仕事、遊び、学習、ショッピングなど、現実世界と同じようなコミュニティ活動を行うことが可能です。様々なプラットフォームがあり、誰でも参加できるもうひとつの世界と認識しておきましょう。
デジタルファブリケーション機器も要チェック
「デジタルファブリケーション機器」とはデジタルデータを活用し、ものづくりができる機器のこと。作業効率のよさはもちろん、手仕事ではできなかった繊細な作業を可能にし、ファッション業界で大活躍中。そこでファッションクリエイションで利用されることが多いマシンをご紹介します。
カッターマシン
布地や紙、革などの素材を正確にカットするための機械。効率的かつ複雑なデザインやパターンを簡単にカットできる。
ホールガーメント ®横編機
縫い目が一切ない無縫製ニット(ホールガーメントR)を、専用のデジタルソフトウエアで作成したデータをもとに成型する機械。
※ホールガーメント及びWHOLEGARMENTは株式会社島精機製作所の登録商標です。
3Dプリンター
3DCGのデータをもとに立体造形物を制作する機器。様々な素材を層状に積み重ねて造形していく。靴やアクセサリー作りで利用されることが多く、近年では実験的に服の制作も行われている。
レーザーカッター
レーザー光線を使用して材料を精密にカットまたは彫刻する機械。布地や革、アクリルなどの素材を加工するために広く利用されている。
コンピューターミシン(刺繍ミシン)
デジタル化されたプログラムに基づいて自動的に刺繍を行うミシン。あらかじめ設定したデザインやパターンを糸によって布地に刺し込むことができ、文字やロゴ、複雑な装飾パターンなどを繊細に再現することができる。
\教えてくれたのは!/
加藤淳之介●Junnosuke Kato
文化学園大学国際文化学部国際ファッション文化学科専任助教。クラフトワーク、デジタルファブリケーションを活用した衣装制作とコンセプトクリエイションの研究が専門。昨今では3DCGや生成AIを活用したファッションデザイン法も探求している。
『装苑』2024年9月号はこちらから