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コシノジュンコと現役文化生が語り合う、ファッションの世界で生きていくということ。【文化服装学院100周年記念連載vol.1】

2023年に創立100周年を迎える文化服装学院。その長い歴史の中で、ファッション業界はもちろん、エンターテインメントや芸術、表現の世界に携わる多くの”感性”を育み、輩出してきた。そんな文化の100歳をお祝いして、文化服装学院をめぐる過去と現在、未来をつなぐ連載が『装苑』2022年11月号よりスタート。
その第1回では、文化服装学院の歴史に名を刻む「花の9期生」と呼ばれるOGであり、世界的デザイナーのコシノジュンコさんと、現役の文化生の対話をお届けします。

▼ジュンコさんと対話した学生たち▼

(左から)パラミタ 文化服装学院ファッション高度専門士科3年
インドネシア出身。ジョグジャカルタの伝統的な織物「ルリック」などを使用して、インドネシアの伝統を現代のモダンウェアに昇華する。ジュンコさんが日本の文化や伝統を洋服に取り入れるさまに感銘を受けている。

高橋知優 文化服装学院アパレルデザイン科3年
ジュンコさんの出身学科にあたるアパレルデザイン科に所属する高橋さんは、自身のブランドのデザイナーになるのが夢。社会問題や自然物からインスピレーションを得たドラマティックなメンズ服を制作。

駒田夕喜 文化服装学院ファッション流通科1年
ファッションの魅力を伝え、商品を流通させるための知識を習得する学科の1年生。コシノジュンコさんの著書『コシノジュンコ56の大丈夫』(世界文化社)を読み、ポジティブなエネルギーをもらって勇気づけられた。

窪田里咲 文化服装学院ファッション高度専門士科4年
着物が大好き。祖母と母から着物を受け継いだことをきっかけに、和服に目覚めた。着物にはさみや縫い目を入れず、着つけ(スタイリング)で新たな着こなしを提案する衣装スタイリストを目指している。

この記事の主な内容
1. コシノジュンコ作品から探る、未来をクリエイターとして生きるためのヒント
2. コシノジュンコさんと文化服装学院の現役学生との対話をお届け
3. 文化生が自らの作品でジュンコさんへ自己紹介

1. コシノジュンコ作品から探る、未来をクリエイターとして生きるためのヒント

まずは過去のコシノジュンコ作品を契機に、ジュンコさん自身に創作哲学を尋ねます。文化服装学院の後輩たちに送るメッセージも!

パラミタ:私が最初にジュンコさんの作品を知ったのは、文化服装学院の入学案内でした。円と四角で構成された真っ赤なドレス*を見て、なんて素敵なんだろうって。ほかのデザイナーの作品もたくさん載っていましたが、一番惹かれたのはジュンコさんの作品です。ジュンコさんが用いる「円」と「赤色」について教えてください。

* ‘80年代より、コシノジュンコのデザインの基幹コンセプトは「対極の美」。対立する二つのものが相反しながらも影響し合い、そして止揚する、というこの世の理を表現する。

コシノ:私は1975年に結婚して、’80年に子どもができた。それまで仕事一辺倒で子どもを作るなんて考えたこともなかったから、おなかがこんなに(と言いながら手で球形を描く)丸くなったことにびっくりしました。宇宙がここにある!と思ったんです。それから丸に夢中になって、しばらく丸い服ばかり作っていました。それがこの作品なの。丸というのは月や地球の形よ。人間が作れない自然物は、大体丸いの。じゃあ人間は何を作るかというと、合理的な「四角」です。建物が四角形なら、都市計画もしやすいですから。だから私が通っていた頃の文化の円形校舎は、使いづらくて大変だったんですよ(笑)。
 丸と四角は、そのまま神様と人間の関係です。世の中は丸だけでも四角だけでも成り立たないでしょう。これって、すべてのものに言えるんです。光と影、昼と夜、前と後ろ、左と右――。異なるもの同士のバランスで世界はできている、それを服で表現したかったんです。赤色は太陽の色ですね。最高の光は太陽だと思うから。

高橋:僕は2019-’20年秋冬コレクション「FUKUSHIMA PRIDE BY JUNKO KOSHINO」*が好きです。白黒を基調にした服の、山ぶどうのつるで編んだスカートやコルセット、シルクの羽織などの素材選びに関心を持ちました。

* 福島県の伝統工芸とのコラボレーション。先人たちから受け継いだ工芸の技を、コシノジュンコのデザインの核である「対極の美」をテーマとした創作でさらに発展させた。

コシノ:2011年の東日本大震災で莫大な被害を受けた福島県は、数百年の歴史をもつ伝統工芸や、優れた技術が数多くあるの。最初の頃は「伝統と革新」をテーマに、家具や器、和紙や金属の技術を用いて、インテリアを中心にしたデザインの力を表現していたんです。今、言って頂いたのは、プロジェクトの3年目にして開催したFUKUSHIMA PRIDEコレクション。高い技術力を生かしたニットやシルクのアイテムを、それから山ぶどうのつるでカゴを作る工房で、コルセットとスカートを作りました。その制作はものすごく大変ですが、服になる素材は布ばかりじゃないんですよ。生地屋さんにないものも、考え方次第で服になるの。

窪田:能楽師の観世清和さんとのコラボレーション作品*を見た時、まず盆栽のような斬新なヘアスタイルに目を奪われたのですが、服は引き算の美学で洗練されていることに驚きました。私は、作っていくうちにどんどん足し算をしてしまいます。

* ‘20年「観世清和×コシノジュンコ 能+ファッション “継承される伝統と現代の融合”」。舞台装置やシテの装束などもデザイン。ジャージーやレザーなど意表をつく素材も用いた。

コシノ:デザインには「つじつま」が必要なんです。足し算するなら引き算もしないといけない。引き算のさじ加減に正解はないので、頼りになるのは自分の目です。だから、目を間違いなく鍛えて「目利き」にならなければいけない。
 いいものってやっぱりシンプルなんですよ。でも、自分の好きなものをきちんと経験するのはいいことよ。とにかくやってみなければ、次はこないんですから。

窪田:色選びに決まりはありますか?ジュンコさんは、異なる2色をよく使っていらっしゃる印象があります。

コシノ:私は好きな色が決まっていて、それしかもう使わないですね。パステルカラーなどの優しい色が、どうも性に合わない(笑)。これ以上引いたら何もなくなってしまうというギリギリのところを探っていて、使うのはたいてい2色、もしくは3色ですね。

駒田:コロナ禍以降、不要不急という言葉をよく聞くようになりました。そんな中、様々な表現が「不要不急か」と議論されるのを見るにつけ、ファッションは不要不急なのか?と考えるようになりました。ジュンコさんは、コロナ禍でファッションをどう思われていますか。

コシノ:私は、コロナの真っ最中に結構大きなショーをやったり、展覧会をやっていたんですね。世間を無視して動くというわけではないのですが、何かやることによって動きが生まれますよね。なんでも「だめ、だめ」というのではなく、皆を元気にすることはやったほうがいいという考え方。今は世界中、同じ思いをして同じ経験をしているから平等なんです。その中でも、成功する人と停滞する人がいる。それは、こういう時だからこそ新しい発見があると思うか、だめなんだと思うかの違い。

 中世ヨーロッパでは、ペストが流行った後にルネサンスが起こりました。未曾有の感染症の後に文化が花開いたということです。そんなふうに、今のこの状況が落ち着いたら新しい文化が作られていくと思いますよ。私は、その時、過去のよかった物事の延長はないんだろうなと感じているんです。あなたたちは、そういう変化の時代の真っ只中にいる。だから私がやったことを参考にする必要もないんですよ。変化の時だからこそ面白いんじゃないの?
 みんな、どうか元気に進んでいってくださいね。そして今あるものに感謝すること。何もかも当たり前じゃないの。感謝をすると生かされていきますからね。

NEXT2.コシノジュンコさんの文化生時代は?

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