その人物として生きた時間は確実に自分の人生の中にあるから、作品が終わった後も心のどこかに消えずにいます。
――先日(11月25日)に開催された第15回TAMA映画賞の最優秀新進男優賞スピーチの場で「今しかできないお芝居を意識してやりたい」と話されていましたが、『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』は大きな転機になりそうですね。
奥平:そうですね。もちろん、今まで出させていただいた作品は忘れられないくらい大きなものばかりですが、『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』はまた違った意味で大きいものになりました。作品のテイストや背負うもの、やることも全て違っていた気がします。「新しい世界に飛び込む」を初めてやった作品になりました。1年前の自分にしかあのタイムは出来なかったと思うし、今やったらまた違ったアプローチをするだろうなと感じます。
僕は、お芝居にかかわらず若いときにしかない感覚があると思っています。遠慮して出さないよりは「良くも悪くも若いね」と言われたとしてもちゃんと自分を出した方が、後々、勉強になるはず。周囲にご迷惑はかけられないけど、自分なりの今の感覚は大事にして役に落とし込んでいきたいです。
――授賞式では「自分と違う性格の人物を演じてみたい」ともおっしゃっていましたね。これも「ゼロから1を作る」につながってくるように感じます。
奥平:『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』のクランクインの1週間くらい前まで『君は放課後インソムニア』の現場でした。そこでご一緒した森七菜さんがゼロから1を作る天才だと僕は思っています。ひょっとしたら森さん自身、無意識なのかもしれませんが、一緒にお芝居をしていると新しい角度から投げかけてくれるような感覚が強くあるんです。現場では「この人を見て勉強しよう」と考えていました。
例えばタイムは自分の気持ちを一方的に話すところがありますし、それでいて無邪気な人物だと思います。そうした周りを巻き込んでいく人物の演じ方は、『君は放課後インソムニア』の森さんから学びました。『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』の前に共演できて本当に良かったです。
「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」より
――一つひとつの作品でのご経験が次の作品の糧になっているのは、素晴らしいことですね。
奥平:もちろん作品自体は別ですからそれぞれを別個のものとして大切にしないといけないのはわかっているのですが、僕としてはつながっていて「今まで演じてきた役のお陰で、今の役を出来ている」という感覚が強くあります。自分の中では、今までやってきた役は友だちのような存在です。たとえ1ヶ月ちょっとでも、その人物として生きた時間は確実に自分の人生の中にあるから、作品が終わった後も心のどこかに消えずにいます。
――いまお話しいただいたことは、この3年間の歩みの総括でもありますか?
奥平:特に今年1年で強く思うようになりました。公開する作品が割と多かったので、改めてそう感じたところはあります。
――装苑2024年1月号では、ジャケットづくりにも挑戦されました。
奥平:自分は元々お洋服の仕事に就きたいと思っていた人間です。それが役者になり、縁あってなかなかないジャケット作りを体験させていただいて、本当に嬉しいです。装苑の皆さんとは長い時間を一緒に過ごさせていただきましたよね。同じメンバーの皆さんが今日も来てくださって「取材会場に入ったら知った顔しかいない」というのを初めて体験しました(笑)。
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――まさに新しい可能性をどんどん切り拓いている道中かと思いますが、『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』の劇中に「現実を見ろ。自分に出来ることをしろ」というセリフが出てきますよね。アクタがタイムにかけるアドバイスですが、理に適っている一方で未知の可能性を潰す危険性もあるように感じます。奥平さんご自身は「夢と現実」についてどうお考えでしょう?
奥平:僕としては、どちらの言っていることもよくわかります。アクタは現実主義で、タイムは理想主義という違いだけだから、僕の中ではいまだに答えがわかりません。「絶対にあきらめない」は物語の重要なテーマではありますが、僕自身が現実世界でそういった選択を迫られた際、どちらに傾くかは何とも言えないし、その時にやりたいことを信じるしかないのかなと思います。
諦めなければ続けられることもあれば、現実を見ることで逆に出来るようになることもある。どの選択肢を選ぶにしろ、常にその先に可能性はあるから良いも悪いもないんじゃないかなと。そういった意味では、答えがないのが答えなのかもしれません。
――奥平さんご自身は、未知への挑戦に対してどんなマインドをお持ちですか?
奥平:出来れば色々なことをしたいなと思います。役者という仕事をしているからいろんなことが気になるのかもしれませんが、僕の人生で挑戦してマイナスになったことが今のところないので、経験則でいうと、挑戦は良いことだと感じています。失敗しても結果的に勉強になったことも多いです。僕は逆にやりたくないことはとことんやらないので、やりたくないこともできるようになりたいとは思いますが――まずは自分のやりたいことからやってみようと思っています。それこそ、大好きな洋服の分野でもジャケットを作るなかで何百個も発見がありましたし、「誰がこの技術を考えたんだろう」と想像するだけでも面白いです。
知識を付けることは極端にいえば自己満足ですが、知っていくことで自分の楽しめる幅が広がりますし、自分を豊かにする道具として大切にしていきたいです。
Daiken Okudaira 2003年生まれ、東京都出身。演技未経験ながら初めて臨んだオーディションでメインキャストに抜擢され、映画『MOTHER マザー』(’20年)で俳優デビュー。同作で第44回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか数々の新人賞を受賞。映画出演作に『マイスモールランド』『ヴィレッジ』『君は放課後インソムニア』など。’23年9月まで放送されていたテレビドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」での星崎透役も大きな話題となった。今年、第15回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。Disney+の完全オリジナル大作「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」(12月20日配信開始)でW主演、映画『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』(’24年3月8日公開)でW主演を務めるなど、今、最も活躍が期待されている俳優。
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