2021年にリリースしたシングル「Every Second」がInstagramのリール動画を通じて75億回再生されるなど、世界的なバイラルヒットを記録したシンガーソングライターのミイナ・オカベ。デンマーク人の父と日本人の母をもち、デンマーク・コペンハーゲンを拠点に活動している彼女の新曲「Flashback feat. Daichi Yamamoto」がテレビドラマ『ONE DAY ~聖夜のから騒ぎ~』主題歌に起用され、ここ日本でも注目されている。今回、同曲や「Every Second」、2021年以降の新曲を収録した『Flashback EP』のプロモーションのために来日を果たした次世代のグローバルスターにお話をうかがいました。
Interview & text: Yu Onoda / photographs: Jun Tsuchiya (B.P.B.)
──ミイナさんはデンマークを拠点に音楽活動をされているということですが、ご自身にとってデンマークはどのような国ですか?
「デンマークは自然が豊かで、すごく静かな国ですね。私が住んでいる首都のコペンハーゲンは街のスペースが広くて、自転車に乗って行き来している人もいますし、賑やかという感じはしないかな」
──デンマーク人のお父さん、日本人のお母さんのもと、コペンハーゲンに生まれ育ったんですか?
「生まれたのはロンドンなんです。6年滞在した後、ニューヨークに3年。その後、1年間だけデンマークに戻って、そこでデンマーク語がしゃべれるようになったんですけど、そこからフィリピンで5年間過ごした後、またデンマークに戻って、今に至るまで8年間をコペンハーゲンで過ごしています。私は生まれてからずっと引っ越しを繰り返してきたので、どこかに落ち着いて、拠点を持ちたいと考えた時、デンマークには父方の親戚がいましたし、そこで長い期間、関係を保てる友達作りをしたいと思いました」
──世界各地で生活してきたんですね。では、ご自身のホームはどこにあると思いますか?
「子供の頃は家族がいるところが自分の居場所だと思っていたんですけど、年齢を重ねるにつれて、自分のホームは色んなところにあるんだなと思うようになりました。今の拠点はデンマークなんですけど、東京に戻ってくると日本もまた自分のホームだと感じます」
──様々な国の文化に触れながら、音楽のルーツや音楽をはじめたきっかけを教えてください。
「色んな国で生活しながら、色んなジャンルの音楽に触れてきたんですけど、どこの学校に通っていても、学校のコーラス隊やミュージカルに参加してきて。そうした様々な音楽体験が自分の音楽スタイルに影響を与えていると思います。音楽自体は昔から自分でもやってみたいと思っていたし、歌ったり曲を書いたりもしていたんですけど、真剣に取り組むようになったのは15歳くらいかな。自分で作った曲をSoundCloudにアップするようになり、高校の最終学年になった時、その音源を聴いたレコード会社のスタッフから「ミーティングしませんか?」と、メールが来て。3年前に最初のシングルをリリースしました」
──SoundCloudをきっかけに、アーティストデビューしただけでなく、2021年にリリースしたシングル「Every Second」がInstagramのリール動画をきっかけに、全世界でバイラルヒットを記録。ミイナさんの存在はここ日本でも認知度が高まっていったわけですが、現代的なネットプロモーションを駆使したアーティストかというと、むしろ、アコースティックな楽曲のオーガニックな響きやアナログな感覚を大切にされている音楽家であるように感じました。
「SoundCloudに自分の曲をアップするようになった時、私が考えていたのは、自分の好きなタイミングで曲が投稿できるのは自由でいいなということくらいで、あわよくば、自分の音楽活動に協力してくれる誰かが現れないかなということくらい(笑)。雲をつかむような気持ちだったというか、具体的なことは全く考えていなかったんです。SNSでのバイラルヒットに関しても当初は誰かに頼らなくても音楽それ自体の力で広がっていったことがうれしかったんですけど、それがグローバルヒットになったのはどうしてなのか、自分でもよく分からないんですよ(笑)。自分でもすごく驚きましたし、自分のチームにとっても予想外のことでした。そもそも、「Every Second」は私とスタッフの間では、『ラジオでかかるようなタイプの曲じゃないよね。でも、好きな曲だからリリースしよう』と話していたくらいでしたから(笑)」
──世界各地で暮らしてきたミイナさんの生い立ちを考えると、自然に熟成されたグローバルな感覚が世界的なバイラルヒットに繋がったのかもしれませんね。
「分析ありがとうございます(笑)。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。自分では理由も分からないし、意図した現象でもなかったんですけど、曲自体は私らしいものだと胸を張って言えますね」
──そして、「Every Second」が日本でも注目されたことによって、今回、ミイナさんが初めて日本語詞を歌った「Flashback feat. Daichi Yamamoto」がテレビドラマ『ONE DAY ~聖夜のから騒ぎ~』主題歌に起用されました。小袋成彬さんがプロデュースを手掛けたこの楽曲を初めて聴いた時、どう思われましたか?
「最初に聴いた時、まず、曲の構成がすごく面白いなと思いました。というのも私の曲はバースがあって、サビが来るオーソドックスなポップソングの構成になっているんですけど、小袋さんの曲は旅に出かけるような感じで、ゆっくり始まって、それがどんどん広がって、さらにはラップも出てきますし、歌詞も部分的にリピートするところもあるんですけど、同じことの繰り返しにはなっていないので、聴いていて面白いなと思いましたし、もっと聴きたいと思いました。自分が曲を書く時はもちろん自分で歌詞を書きますし、それ以外の全てのパートも自分の意志や意識が色濃く反映されているんですけど、今回は自分のコントロールから曲を解き放つような感覚だったというか、小袋さんが歌った仮歌を最初に聴いた時、歌のメロディは自分でいくらでも解釈できるなと感じたので、スタジオでは仮歌のメロディをもとに自分でインプロバイズしてみて、それに対してどういう意見が出るだろう?とワクワクしましたし、自分の曲作りのプロセスとは全く異なるアプローチが上手くハマったと思いますね」
──ミイナさんはデンマーク在住、小袋さんはロンドン在住、そしてラッパーのDaichi Yamamotoさんは京都在住ですが、楽曲制作はどのように行われたんでしょうか?
「小袋さんもDaichiも2人とも素晴らしい方たちだったので、今回のレコーディングは自分にとって素晴らしい体験になりました。私の歌録りは日本のスタジオで行ったんですけど、小袋さんはロンドン在住ということで、Zoom越しにお会いして、スタジオでもディレクションしてもらいました。日本人のプロデューサーと制作するのも、遠隔地を結んだレコーディングも初めての経験でしたが、今回の制作の何が良かったかというと、日本語の発音が分からないところを教えてもらいつつ、自分にとって一番自然な歌い方を受け入れてくれたことですね。だから、私自身、自由な気持ちでレコーディングに臨むことが出来ました」
──京都在住のラッパー、Daichi Yamamotoさんはお父さんが日本人、お母さんがジャマイカ人で、ジャマイカ、ロンドンに住んでいた経験もあり、ミイナさんと共通するグローバルな感覚の持ち主ですが、彼のラップについてはどう感じましたか?
「今回、彼とのコラボレーションを提案された時、すぐにSpotifyやInstagramをチェックしました。音楽はもちろん、ヴィジュアルにもその人となりが表れると思うんですけど、すごくセンスがいいなと思って、楽しみにしていました。ラッパーにも色んなタイプがいますけど、彼の音楽はギャングスタスタイルではなく、チルなラップですよね(笑)。もっといえば、今回のようなジャズっぽい曲にラップが乗るのはどんな感じになるのかなとすごく興味があったんですけど、彼の声自体、曲にマッチしていましたし、ラップもスムーズだと思いました」
──世界の音楽シーンの主軸を担ってきたアメリカのポップカルチャーにおいて、近年、K-POPが存在感を増していますし、スペインやアフリカ音楽のテイストもトレンドになったりと、ヴァリエーション豊かになっていますが、日本を含め、海外で音楽活動をするようになり、ミイナさんが聴かれる音楽にも変化がありますか?
「私もここ2年くらい、今まで聴いてきたものとは違うテイストの音楽、日本語の曲もそうですし、デンマーク語の曲やスペイン語の曲も積極的に聴くようになって。英語圏の音楽にはない新しい感覚が得られる楽しさに気づきましたね。J-POPだと母が聞いていた宇多田ヒカルさんやレミオロメン、従姉妹が聞いていたSexy Zoneの音楽は以前から耳馴染みがあったんですけど、最近はもっと範囲を広げてVaundyやaikoさんなんかを聴くようになりましたし、最近のスペイン語のポップスだとロザリアが大好きですね」
──今回の『Flashback EP』は、代表曲の「Every Second」に加えて、2021年のアルバム『Better Days』以降の楽曲が4曲収録されていますが、『Better Days』以前以降で変化を感じますか?
「『Better Days』以降、デンマークを出て、世界を回るようになりましたし、新しいプロデューサーと仕事をしたり、ライブが増えたり、自分を取り巻く環境は大きく変化しました。今まさに制作中の新作アルバムでは、新しい段階に入った自分を見せたいなと思っているんですけど、今回のEPは今の自分にしっくりくるかどうかを基準に選曲して、自分らしい作品になっていると思います」
──音楽活動においては外に目を向け、新たな挑戦に意欲的なミイナさんの歌詞世界はむしろグローバルというよりパーソナルですよね。何かを待っていたり、内面に不安や不満を抱えている登場人物が描かれています。
「私は声にできない思いを曲にしていることが多いんです。だから、どうしても悲しいトーンのものが増えてしまうんでしょうね。「Rain」なんかはリリースした時、友達から一斉に「大丈夫?」って連絡があって(笑)、みんな優しいなと思ったんですけど、言葉にならない思いを曲にして発散しているからこそ、自分は大丈夫なんだと思います」
──最後の質問です。デンマークのR&Bシンガー、エリカ・ド・カシエールがNewJeansの楽曲を多数手掛け、K-POPとつながったように、この先、デンマークと日本のカルチャーをつなぐことになるであろうミイナさんがデンマークの音楽やファッション、カルチャーシーンにおいて注目しているアーティストを教えてください。
「音楽では、ハンズ・フィリップですね。彼の音楽は一般的なデンマークの音楽とは全然違って、その個性は唯一無二というか、すごくチルなシンガーソングライターです。それからカルチャー的な話をすると、デンマークはライブを楽しむ場所が多くて、色んなフェスも行われているんですけど、特に夏になるとみんな出かけていって、ビールを飲みながら音楽を楽しむのがデンマークらしい過ごし方ですね。デンマークは小さな国なので、エリカ・ド・カシエールをはじめ、世界的に活躍するアーティストが出てくると、みんな興奮して応援するんですけど(笑)、私も色んな方から応援してもらえるアーティストになれたらうれしいですね」
Mina Okabe
デンマーク人の父親と日本人の母親を持ち、コペンハーゲンを拠点に活動するシンガー・ソングライター。2021年8月にデビュー・アルバム『Better Days』(ベター・デイズ)をリリース。アルバムの収録曲である「Every Second」(エヴリー・セカンド)が480万本以上のInstagramのリールが作成され、ミイナ・オカべの楽曲は Facebook/インスタグラム上て“これまて“に合計75億回を超える再生回数を記録し、日本をはじめ、世界中でトレンドになった。
■公式サイト:https://www.universal-music.co.jp/mina-okabe/
■Facebook:@minaokabesings
■Instagram:@minaokabesings
■YouTube:@MinaOkabeSings
ミイナ・オカベ「Flachback EP」
¥1,980 Universal Music
グローバルな感性とパーソナルな作風を見事に共存させたデンマーク在住のシンガーソングライターによる新作EP。小袋成彬プロデュースの「Flashback」では、ジャズと現代音楽を横断するピアノ主体のミニマルなトラック、その緩急がついたグルーヴに乗せ、Daichi Yamamotoのラップと共に初の日本語歌唱を披露。カップリング収録の5曲はバイラルヒット曲「Every Second」のアコースティックなタッチを基調に、パーソナルな胸の内を繊細に描き出している。
配信リスト:https://umj.lnk.to/MO_FlashbackEP
ミイナ・オカベ MV「Flashback feat. Daichi Yamamoto」
Mina Okabe MV「Rain」
Mina Okabe MV「Every Second」