再結成が話題のUKロックバンド、オアシス(Oasis)を15年間撮影してきた写真家に聞く、オアシスと過ごした第二の青春時代。

2024.11.14

再結成が発表され、日本でも大きな話題を呼んだ伝説的ロックバンド、オアシス(Oasis)。1994年以降、オアシスを撮り続けてきたロンドンの写真家、ジル・ファーマノフスキー(Jill Furmanovsky)とコラージュアーティスト・グラフィックデザイナーの河村康輔による企画展『Oasis Origin + Reconstruction』が、現在、東京・神田で開催されている。展覧会に際し、ジル・ファーマノフスキーと河村康輔の二人のアーティストにインタビュー。ここでは15年間、オアシスを見つめ続けてきた写真家のジルさんに、オアシスと過ごしてきた時間や、彼らとの仕事について貴重な話を尋ねる。

interview & text : SO-EN

ジル・ファーマノフスキー(以下、ジル):1990年代半ば、私は、ある本を準備していました。その本では、私がビートルズのファンだった頃から撮っていたロックミュージシャンたちの写真を時系列に並べ、今注目のアーティストで締めくくろうと構想していました。本の最後を飾る「これから注目のアーティスト」でフォーカスしたのが、オアシスだったのです。「ビートルズからオアシスまで」というその作品集で、私自身は自分のロックンロールの時代を終わりにするつもりでした。写真集を締めくくるオアシスの写真を撮るため、ケンブリッジで1994年に行なわれた彼らのコンサートを撮りに行き、そのライブのあとで、ノエル(・ギャラガー)と(ポール・)ボーンヘッド(・アーサーズ)に会ったんです。リアムには会いませんでした。その時、ケンブリッジのコンサートで撮った写真を彼らに送ったら、すごく気に入ってくれたんです。オアシスのPR担当者から、「バンドの写真を撮ってくれる人をずっと探してたんだ!お願いできるか?」という連絡がきて。ロックンロールの写真を撮るのは最後にしようと思っていた矢先、こうして、新たな人生のチャプターが始まる形になりました。そして、ケンブリッジのコンサートから3週間後に、初めて彼らと対面したのです。『リヴ・フォーエバー』(Live Forever)のミュージックビデオの撮影現場でした。

ジル:「ビートルズからオアシスまで」の作品集の話をした時、彼らはすごく喜んでくれたんです。 ビートルズはもちろん、セックス・ピストルズもザ・フーも、彼らが好きなバンドが全部入っているその本の最後を自分たちが飾るということを、とても好意的に捉えてくれたんですよね。ですから、まず彼らからリスペクトを得ることができました。ただ信頼というのは時間をかけて徐々に築いていくものなので、よいスタートがあってから、関係性を続けていく中で信頼もしてもらえるようになりました。

ジル:すごく大切な時間でしたね。私はビートルズのカメラマンになりたかったのですが、ビートルズが活躍していた時代は13歳だったので、それは無理でした。若い頃にレッド・ツェッペリンやピンク・フロイドといったバンドの仕事をしましたが、彼らはその時、すでに神様のような存在になっていたので、ろくに話もできませんでした。1978年にパンクが出てきた時もたくさんのミュージシャンの写真を撮りましたが、パンクムーブメントは18ヶ月で終わってしまいました。その後に出会ったオアシスとの仕事というのは、まさに自分がこれまで積んできた経験を、これからの有望なミュージシャンに持ち込むことができるというすごく大きなチャンスだったのです。そうした意味でもまたとない機会でした。

ジル:私はフォトジャーナリストです。彼らが私をすごく評価してくれた点は「とにかく写真を撮るのが早い」ということ。こんなことがありました。 アメリカで、ある有名なカメラマンとの大掛かりなフォトセッションが企画されたんです。スタイリストが洋服を用意し、1日がかりで写真を撮ります、と。それを聞いたノエルが「は? 一日かけて写真を撮るだ?」と言って。「俺たちのカメラマン(ジルさんのこと)は、20分、いや、10分で撮るぜ。1日あれば俺たちは音楽を作っていられるのに、なんで写真なんか撮ってなきゃいけないんだよ」と。 やはり、彼らにとって早く写真を撮ることができるというのは高く評価すべきポイントで、それをすごくありがたがってくれました。

ジル :私も本能的にやっていると思うのですが、彼らが楽屋でくつろいでいる様子を撮るような時は、なるべく邪魔にならないように気遣いや配慮をすることが必要になります。さらにライブ写真ならライブ写真の、セットアップしたメディア用の写真を撮るならそのための、それぞれのバイブレーションが必要なのですが、しかしオアシスの場合、いずれにせよとにかく早く撮らなければなりません。

ジル:カメラマンとして駆け出しの頃は、オーケストラピットに入ってそのパフォーマンスを撮影していました。その時は、とにかく予測することが大事でした。「最後の音を奏でたら、きっとあの人は飛ぶだろう」とか、そういう予測ですね。というのも、私が写真の仕事を始めた当初は、カメラにオートフォーカス機能がなかったんです。予測と観察眼が何より大切でした。
あとはお客さんの存在も大きいです。後ろを振り返った時、観客が熱狂的に盛り上がっているのか、それとも泣いているのか——そうした場の様子を記録することも大事です。バンドもその客席の様子を見て何かを感じ取っているわけで、私はちょうどその真ん中にいる。 両者の橋渡しではないのですが、2者のエネルギーに挟まれているということも大きな要素になります。

ジル:先ほどもお話しした、ケンブリッジの「エクスチェンジ」で行われた最初のライブですね。当時から、定員3,000人程度の会場でチケットを売り切っていて、ものすごい熱気でした。あとはネブワース。最初のライブから18ヶ月後に行われた公演で、2日間で25万人を動員しました。それも本当にすごかったです。あとは、1996年にマンチェスターに戻って行った凱旋ライブ、メインロードも印象深いです。

ジル:出会ってからあっという間に、彼らがものすごい勢いでどんどんどんどん大きくなっていく、その勢いは凄まじかったです。そうした密度を自分自身の目で見届けたかったですし、彼らも私がそこにいることを受け入れてくれました。私は10代の頃、ビートルズの専属カメラマンになって、たまに一緒にお茶を飲んだり、彼らの悩みを聞いたりするんだーーという夢を持っていたんです。でもそれは叶えられなかった。私にとってオアシスは、まさにそうした夢を叶えられたバンドで、私にとってのビートルズだったのです。

ジル:そうですね。こうして常にカメラを持って写真を撮っていると、自分がシャイなことを隠せるのがよくて、ずっとこのスタイルでやっています。『装苑』やこの記事を今読んでいる学生さんたちにもお伝えしたいのは、オアシスを撮っている期間というのは、ちょうど写真がフィルムからデジタルに移行していく時代だったということ。それこそ愛用のライカも、最初はフィルムでしたが、今はデジタルを使っています。ライカ以外のカメラも用途によって使い分けますが、いつも持ち歩くのはライカで、携帯で撮るよりもやっぱり好きです。携帯も嫌いではないんですけど、どちらかといえば携帯で撮る写真はメモみたいなもので、ライカで撮る写真は「ソウルパネル」、自分の心を映し出す感じがします。

ジル:いい質問ですね。変わらないものは、リレーションシップ、トラスト、そして人間が関わっているということ。人間関係や信頼関係がそこに常にあるというのは、テクノロジーがどうなろうと変わらない面だと思います。

ジル:初めお話をいただいた時、熱意を持って「ぜひやりたい!」と思いました。河村さんの作品を検索して見たら、すごくワクワクしたんです。 私自身、学生時代はセントラル・セント・マーチンズでテキスタイルを専攻していましたし、働き出してから学生とコラボレーションしたこともあります。今回ご一緒した河村さんが創り上げる作品は素晴らしいと思いますし、何より、彼は自分の体を使って、手作業でものを作りますよね。その肉体性がすごく好きです。

ジル:はい、私もそう思います。ウィービングみたい、その通りです。

ジル:彼らを撮るときはプランニングをしないことがプランです(笑)。そして再結成は完全に「奇跡」です!


Oasis Origin + Reconstruction
Oasis | Jill Furmanovsky | Kosuke Kawamura
ジルさんが撮影したオアシスのドキュメンタリー写真と、オアシスのロゴやアルバムジャケット、ポートレート写真などを大胆に再構築した河村康輔によるコラージュ作品にて構成される展覧会。ジルさんは、ポール・マッカートニーをはじめ、ピンク・フロイド、スティーヴィー・ワンダー、ヴァン・モリソン、ビル・ウィザース、ザ・フー、ザ・クラッシュ、イギー・ポップなど、数々の著名なミュージシャン・アーティストを撮影してきたカメラマン。中でも、彼女が1994年から2009年にかけて撮影したオアシスのドキュメンタリー写真は、自身の最高傑作。2024年、ジルさんは「the Abbey Road Music Photography Awards」のICON賞を受賞。アワードのプレゼンターをサプライズで務めたノエル・ギャラガーが、ジルを「私の親友の一人だ」と紹介したことも話題に。

期間:開催中〜2024年12月8日(日)/11月25日(月)休廊
場所:「New Gallery」
   東京都千代田区神田神保町1-28-1 mirio神保町1階
時間:12:00〜20:00
入場無料

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