デザイナーのアルフォンス・メトロピエール。
バルセロナ発のファッションブランド、デジグアル(Desigual)が、メトロピエール(Maitrepierre)としてパリ・ファッションウィークの公式スケジュールでランウェイショーを行う気鋭の若手デザイナー、アルフォンス・メトロピエール(Alphonse Maitrepierre)と三度目のコラボレーションを発表した。好評だった前回、前々回のエネルギーはそのままに、エッジとエレガントさを融合した今コレクションは、蜜月のコラボレーションの進化を物語っている。10月16日のお披露目にあわせて初来日した、アルフォンス・メトロピエールにロングインタビュー。コラボレーションの舞台裏からジャンポール・ゴルチエやアクネ ストゥディオズなどで積んだ経験、大好きなゲームのことまで……注目のデザイナーの脳内にダイブ!
photographs : Norifumi Fukuda (B.P.B.) / interview & text : SO-EN
——9月にパリで行われた今コラボレーションのお披露目でお話を聞いた際、アルフォンスさんがデジグアルのサステナビリティの姿勢をリスペクトしている、とおっしゃっていたことが印象的でした。具体的にどの部分に感動されたのでしょうか?
アルフォンス・メトロピエール(以下、メトロピエール):デジグアルとコラボレーションをする前は、作った服がどのくらい生産され、どのくらい廃棄されてしまうのか、全く想像がついていなかったんです。今から約5年前、パリの自治体とともに商品を作ったことがありました。それは自分が作った服が多くの人に届く初めての経験だったのですが、その時に廃棄が出てしまって……。それからというもの、サステナビリティに対する意識をしっかり持つようになりました。
デジグアルとの初めてのコラボレーションは2年前ですが、その当時は、Desigualの(コラボレーションではない)レギュラーコレクションのサステナブルの達成水準は全体の50パーセントだったと思います。コラボレーションのお話をいただいた際、サステナビリティのレートを上げることができるかどうかをデジグアルに尋ねたら、「やってみよう」というポジティブな話になり、今回のコラボレーションでは100%を達成、レギュラーコレクションでも85%を達成することができました。実際にそのアイデアを具体的な数字に落とし込むことができる、その実行力にはとても感動しましたね。
デジグアルストア 銀座中央通り店での、初日コラボレーション商品展開の様子。すべてのウェアには環境に配慮した持続可能性のある素材が用いられた。環境に配慮して採用されたBCIコットンや、持続可能なプロセスで生産されたLENZING ECOVERO ビスコース、プラスチックを再利用したリサイクル・ポリエステルなどを使用。
——今回のコラボコレクションはいつから準備されていたのでしょうか?パリの公式スケジュールのショーで発表しているご自身のブランド、メトロピエールの2025年春夏コレクションとの間に相関関係があれば教えてください。
メトロピエール:コラボレーション自体は1年前から制作していました。通常はファッションウィークに向けてもう少し短いスパンで動くので、1年後を想像しながら制作を進めるというのはとても挑戦的なことでもありました。結果的にはすごく面白い試みになって、またデジグアルとともに仕事をすることができて良かったと思います。
メトロピエールにしても、デジグアルとのコラボレーションにしても、いつも私はデザインをする際に、背景や文脈、物語性を大事にしています。自分のブランドと違う面は、デジグアルとのコラボレーションではリアリティ、特にセールスに対するリアリティを重視するということです。売ることについてデジグアルからプレッシャーを与えられているわけではありませんが、ユニークなデザインをストーリーとして組み立てつつも、世界中で売るためのバランスをとらなければなりません。自分のブランドの服も世界中で売れればとても嬉しいですが、どちらかといえば、メトロピエールはラボラトリー(実験場)のようなものなので、セールス前提の意識ではありませんでした。デジグアルとのコラボレーションを通して、それを学べたことは大きいです。
——スプレー風のプリントを施したボトム(写真下)がとてもアイコニックで素敵です。1回目と2回目のコラボで登場していた人気のデニムを思い起こしましたが、このプリントがどのように生まれたか教えていただけますか?
ニット ¥22,900、パンツ ¥26,900
メトロピエール:このボトムを褒めてもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます。
デジグアルとコラボレーションする際は、デザインする前に必ずアーカイブを見ます。その中にブランドのDNAを強く感じていて、それは自分にとってすごく好きな部分でもあります。パンクやグランジの精神を見出すことができますし、同時に、プリントで知られているブランドであることも読み取ることができます。それらをどう合わせていくかというのが常に頭の中にありますね。
今回のコラボレーションでは、グランジ的で強いニュアンスを出したかったというのと、「レイヤー」(重なり)を大切にしました。パンツも、同じプリントのアイデアで作られているドレスも、スプレーペイント風の柄とソリッドな単色のレイヤーです。
そしてドレス(写真下)によく現れていますが、着る人の身体の形や、造形から出る影に直接働きかけるようなデザインを作りたかったんです。そこにレイヤーや強さの要素を組み合わせて、この柄を作りました。セーターでは、編み組織の奥側と、その表側にあるスプレー柄というレイヤーを作り出しています。
ドレス ¥32,900
——いま説明してくださった生地表面のプリント柄の魅力もそうですが、パターンやフォルムが美しいケープつきのトレンチコート(写真下)も際立っています。このトレンチコートが50,000円以下であることにも驚きを感じていますが、デザインやフォルム、パターン、素材などのこだわりや工夫点をぜひ教えてください。
トレンチコート ¥43,900
メトロピエール:トレンチコートについて聞いてもらえるのはすごく嬉しいです。今回、デザインする中で気を配っていたことが2つあって、一つは、デジグアルの女性らしさとパンクっぽさのバランスをどう取るかということ。もう一つは、複雑な構造の商品をどう市場に落とし込むかということでした。後者のトピックだけで、一週間話し合いに時間を割いたほどです。その代表的なアイテムが、このトレンチコートなんです。
今回のトレンチコートは、2年前に自分のブランドで作ったトレンチコートがデザインのベースになっています。それは、ものすごく複雑な構造で布の量も多く、当時1100ユーロで販売しました。商業的なことはほぼ度外視で作っていたんです。そのデザインのアイデアを、どのようにデジグアルの希望販売価格で実現するかが大きな挑戦でした。トレンチとケープの融合というのがデザインの核にあるものなので、コートの前半身頃とケープの表側は一体となっていて、ケープの内側で切り替えを入れています。そのことでこのケープのドレープが生まれるんです。
このクリエイティブな要素を残しつつ、2年前にブランドで売った時よりもはるかに安い、半分以下の価格で商品化を実現するプロセスは本当に大変でしたし挑戦的でしたが、最終的にはとても気に入ったアイテムになりました!今回のトレンチコートには、1着につき約5mの布地を使用しています。
——ドレープが印象的なケープつきのトレンチコートのように、アルフォンスさんの仕事には、伝統的なファッションの美しさに対する愛とユーモアの両方を感じます。そのクリエイションの根底にあるモチベーションは?
メトロピエール:元々、シャネルのツイードのジャケットのように歴史あるアイテムが好きで、敬意がありました。そのような普遍的な美しさと同時に、ファッション業界にはトレンドを追い求めるという、もうひとつの側面がありますよね。私自身は、普遍的な美しい服が存在していることで、自分の服は未来を見据えることができると思っています。トレンドだけにアクセスするような商品は消費されて終わってしまいますが、普遍的な美しさを獲得すれば、物理的なものとしての寿命を全うするまで、その服は愛されると思うんです。
もちろんそれはサステナビリティの観点でも重要なことですが、精神的にも大切なことだと感じています。「今」と「クラシック」の両方を見せることで「未来」を創造することができるのではないか、消費社会的なアプローチではないものづくりができるのではないかと思っています。
——アルフォンスさんはジャンポール・ゴルチエや、アクネ ストゥディオズ、シャネルで経験を積んでこられましたが、今伺った思いはこれらのメゾンでの経験とどのようなつながりがありますか?
メトロピエール:3つのブランドを短い期間で経験し、様々な知見を得てきました。それは今思えば、学校を卒業したばかりの学生にとって最良の「スターターパック」のようなもの(笑)。
ゴルチエでは、服におけるキャラクター性やコンセプト、ストーリーの組み立て方やユーモアを学びました。アクネではデザイン性や、どのように日常生活からインスピレーションを得るかということ、そしてデザイナーたちの世界観をどうデザインに落とし込むかを学びました。
ゴルチエとアクネは正反対のブランドで、前者はグランジ的であり、様々な素材を使っていて、デザインの要素もたくさんあります。しかしアクネでは商品化を前提に服を作るため、商業的な持続性を実現するための素材選びなどを行う必要があります。この全く異なる二つのブランドを経験できたことはとても良かったことです。シャネルではブランドイメージのセクションで働いていたので、また仕事内容が異なっていました。
この3ブランドを経験する中で感じたのは、ファッション業界というのは非常にタフだということです。サイクルが早いことも、環境への取り組みが必要なことも含め、体力的にも精神的にもかなりタフである必要があると。3ブランドでの経験は、今のクリエイションにとっては非常に良かったのですが、そこから脱却したいとも思っています。そこで得たものは自分の一部ではありつつ、同時に私が自分自身を定義するときも、他者が私を定義するときも、その3ブランドでは語りたくないです。過去との訣別とでもいいますか——いまは、そこから自由であることを意識しています。
——日々のインプットはどのようにされていますか?また、最近、刺激を受けた事柄はありますか?
メトロピエール:インプットは、日常生活すべてから。僕自身はスポンジみたいなので、すべてのことを自然にインプットしています。道を歩いているだけでもインスピレーションを得ますし、あなたがいま着ているシャツからもインプットしているんですよ!
また、パリ近郊に庭つきの自宅があるのですが、クリエイションをする時に、そこで一人で過ごす時間も大切にしています。クリエイションは時間がかかるものですし、デザインはうまくいくときも、そうでないときもあります。そんなときに一人でリラックスできる場所があることでクリエイションが捗ります。
——ものづくりにとって大切なことをたくさんお話しいただき、感謝しています。ところで、アルフォンスさんはゲーム好きだということを別のインタビューで拝読しました!今でもゲームは好きですか?
メトロピエール:大大大好きだよ!(笑) ゲームボーイを持ち歩いていて、地下鉄や街中どこでもゲームをしています。特に好きなゲームは、ポケモン(『ポケットモンスター』)。今日はこの後、2時間自由な時間があるから「ポケモンセンター」に行くんです。写真をたくさん見てきたから、もう、早く行きたくてワクワクしています(笑)。
今回は初めての日本なので、ゆっくり東京に滞在して、たくさんの人と会う約束もしています。東京のバイブスをたくさん感じたいな。東京は伝統的な文化と最新のデジタル技術の大きなコントラストがあって、それが魅力的にうつるんです。コントラストは私自身が持つ美しさの定義でもあるので、それを存分に味わいたいです。
その後は、5日間京都に滞在します。京都にもずっと憧れていてたくさん写真を見てきたので、今からどんなに美しい場所なのだろう、と想像が膨らんで楽しみで仕方ありません!東京に来る前は上海にいたのですが、その2都市のにぎやかでエネルギッシュな雰囲気を京都では一旦ストップさせて、静かに、自分にかえるような体験をしたいと思っています。
アルフォンス・メトロピエール
Alphonse Maitrepierre
2016年、ベルギー・ブリュッセルのラ・カンブル国立高等視覚芸術学校を卒業。ジャンポール・ゴルチエのアシスタントスタイリストとしてオートクチュールスタジオで働き、パートタイムのデザイナーとしてアクネ ストゥディオズや、その後シャネルでも経験を積む。’18年に自身のブランド、メトロピエール(Maitrepierre)を設立。パリにあるアトリエを拠点にオートクチュールとプレタポルテを生産し、パリ・ファッションウィーク(ウィメンズ)の公式スケジュールでコレクション発表を行う。2021年、パリ市が開催するアワード「The Grands Prix de la Création」を受賞。アップサイクルと環境に配慮した素材を用いながら、伝統的なオートクチュール技法とテクノロジーをミックスした、カラフルで近未来的なムードのウェアとアクセサリーが持ち味。
WEB:https://maitrepier.re/
Instagram @alphonsemaitrepierre
「デジグアルストア 銀座中央通り店」
住所:東京都中央区銀座7丁目8−4 モトキ7ビル
TEL:03-6264-5431
時間:11:00〜20:00 無休
Instagram @desigual