2026年放送予定のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」の主演が発表され、2024年も映画『笑いのカイブツ』『熱のあとに』『四月になれば彼女は』『十一人の賊軍』(11月1日公開予定)『本心』(11月8日公開予定)『聖☆おにいさん THE MOVIE〜ホーリーメン VS 悪魔軍団〜』(12月20日公開)にテレビドラマ『新宿野戦病院』等々、ノンストップで活躍し続けている仲野太賀。
かつて映画俳優に憧れていたという彼の意識が変わったのは、劇作家・演出家・俳優の岩松了との出会いがきっかけだったという。彼との6度目のタッグとなる舞台『峠の我が家』を前に、これまでの軌跡を振り返っていただいた。
photographs : Kotori Kawashima / styling : Dai Ishii / hair & make up : Masaki Takahashi / interview & text : SYO
——仲野さんは以前、恩人のひとりに岩松了さんの名前を挙げていらっしゃいました。2011年に出演された岩松さんの舞台『国民傘―避けえぬ戦争をめぐる3つの物語―』がターニングポイントになったと。
その通りです。当時は「映画俳優」に魅力を感じていましたが、岩松さんに出会って価値観が変わりました。そこからは映画に絞らず、様々なフィールドに挑戦していきたい、と思えるようになりました。何者でもない自分を舞台のワークショップ形式のオーディションで拾っていただいて以来、視野や世界観を広げてもらった岩松さんの作品に、今回に至るまで何度も出演させていただいているのは、とても嬉しいです。作品を経るごとに信頼関係が積み上がっていく感覚がありますし、10代の頃と30代になった自分は多少なりとも違う気がするので、成長した姿を見せたいという想いもあります。
こうして新しい作品にまた呼んでいただけると、それまでの自分の歩みは間違っていなかったのかな、一生懸命頑張って良かったなと安心します。特に今回は、10代の頃からの友人である二階堂ふみちゃんと一緒に主役をやらせていただけるので、本当に感慨深くて胸がいっぱいになりました。お話が来たときは概要もほぼ決まっていなかったと思いますが、ぜひお願いします!と即答しました。
——仲野さんが思う、岩松さんの特長はどんなところにあるのでしょう。
まず本当にセリフが美しくて、生きることや死ぬこと、それから人間関係に対する眼差しが深いと感じます。演出を受けていても、僕の経験値の範疇では出てこないような言葉で到達点へと導いて下さるので、毎回気づきが数多くあります。
それでいて、言葉を尽くしても言い表せない何かが劇場内に漂う感じがあり、「この作品は何だったのか」と形容することをはばかられるようなものを感じます。岩松さんご自身も、言葉で説明できることや自分が理解できたと思うことに対して疑問を抱いている方。みんなが分かったふりをして分かったようなことを言い、分かった気になっているけれど、実はそうではない何かをいつも描こうとしているんじゃないかと感じています。漠然とした部分にこそ真実味があるといいますか。
これは岩松さんがおっしゃっていたことですが、水面上に見えるものが全てではなく、水面下でドラマが起こっているのだと。舞台上でやっていることとお客さんが観ているものが必ずしもイコールではない感じが、岩松さんの戯曲にはあるような気がします。だからこそ、その“何か”を逃しちゃいけない緊張感が演者にもお客さんにもあるんですよね。
対して、演者としての岩松さんはまた別の魅力があります。これはもうお決まりですが、岩松さんが中盤や後半に登場するだけで劇場が湧くんです。ずるいなぁ、といつも思います(笑)。普段の演劇に対する鋭さとはまた違う、岩松さんが本来持っているチャーミングさや湿度が、特別な魅力なのかなと思います。
——仲野さんの岩松さんの舞台出演は2021年の「いのち知らず」以来、約3年ぶりになります。ちょうどその間は『すばらしき世界』で数々の映画賞を獲得されたり、毎クールテレビドラマにレギュラー出演されたりと、転換期だったのではないでしょうか。
確かにそう思います。転換期でしたし、それまでご一緒させてもらっていた監督や演出家さん、脚本家さんと久々に再会できた期間でもありました。一つひとつが身になって、全部が結実していく感じがありました。そういった意味では初めてのことだらけではなく、今まで積み重ねてきたものがどんどん人に届いていってくれた時期だったのかなと思います。個人的な体感としてはこの3年間はあっという間でしたが、よく働いたなとは思います(笑)。
——映画『すばらしき世界』の際には「見向きもされなかった時期」の悔しさを話されていました。今現在、悔しさを覚える瞬間はあるのでしょうか。
あります。届かないものは届かないんだなと感じるし、ひとつの作品をみんなに知ってもらう難しさを日々痛感しています。特に今は、コンテンツが世の中に溢れているぶん、映画やドラマ、演劇を見てもらうにはどうしたらいいんだろうという気持ちにはなります。そのもの自体の価値や存在が小さくなったわけでは決してないけれど、他の要素があまりにも増えましたよね。普段演劇や映画、ドラマを観ない人にちょっとでも振り向いてほしいなという想いはあります。
観てさえもらえれば何かしら持って帰ってもらえると思っていますが、そこまでたどり着くのに皆さん苦労しています。宣伝方法なども「この手があったか!」というものが出てくると良いな、と思います。
ただ、ここまで進んできたからこそ「世界は広いな」という感覚をより抱けるようにもなりました。
——「峠の我が家」の上演期間は10~12月で、来年に入ると大河ドラマ「豊臣兄弟!」の撮影も始まりますよね。NHK連続テレビ小説「虎に翼」や「新宿野戦病院」等々ものすごい活躍ですが、それでもまだ悔しさはおありなのですね……。
そうですね。ずっと消えないかもしれません。ただ、昔は自分のモチベーションは悔しさ一点に尽きるという感じでしたが、いまは頑張るための栄養素がたくさんあるような感覚があります。その中で悔しい気持ちがなくなってしまったらやっぱりダメかもなという気もしますし、いつまでも悔しいと言っているのも大人になれない感じがありますが、少しずつ上手に付き合えるようになってきたようには感じています。
——お忙しい中でも、「仲野太賀のPodcast」ではYouTube番組や映画をなるべく観るようにしている、とおっしゃっていましたね。
今年はなかなか数を観られていないのですが、『夜明けのすべて』がとにかく素晴らしかったですね。あとはつい先日『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』を観ました。あれもいい映画でした。
——同番組の中では「SNSを頑なにやらない男」という前口上がありました。
やりたい気持ちと、やらなくてもいいかという気持ちの両方があります。やりたいと思う理由はシンプルに、こうして舞台に出たときなどの宣伝をできるから。一人の人間がメディアを持つ強さがSNSにはありますから、それは大きな魅力だと思います。
と同時に、炎上が怖いんです(笑)。酔っぱらって何かを投稿して燃えることもあるかもしれないですし、炎上や誹謗中傷がある世界に触れたくない気持ちや、数値化されるのも怖いなという想いがあります。いまや俳優もSNSをする必要がある、という風潮があるかもしれませんが、個人的には元々なかったものが絶対に必要なわけがないという想いでいます。なくても生きてこられたから、これからもなんとかやっていけるかなと。ただ、そのうち気が変わってパッと始めるかもしれません(笑)。
M&Oplaysプロデュース『峠の我が家』
東京公演:2024年10月25日(金)~11月17日(日)
「本多劇場」
※新潟、宮城、富山、愛知、広島、岡山、大阪公演あり
作・演出:岩松了
出演:仲野太賀、二階堂ふみ、柄本時生、池津祥子、新名基浩、岩松了、豊原功補
主催・製作:株式会社M&Oplays
WEB : https://mo-plays.com/wagaya/
Taiga Nakano 1993年生まれ、東京出身。2006年俳優デビュー。’21年、映画『すばらしき世界』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞、ブルーリボン賞助演男優賞、’22年にはエランドール賞新人賞を受賞した。近年の主な出演作に、舞台『もうがまんできない』『いのち知らず』『二度目の夏』、映画『四月になれば彼女は』『熱のあとに』『笑いのカイブツ』、NHK連続テレビ小説「虎に翼」、ドラマ「季節のない街」「いちばんすきな花」など。’24年7月期放送のテレビドラマ「新宿野戦病院」でダブル主演を務めたほか、’26年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」にて、主演の豊臣秀長役を演じる。
(仲野さん着用)
ジャケット ¥74,800 ティー・ティー/シューズ ¥92,400 フィグベル(プロッド 東京)/その他スタイリスト私物
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