加納愛子インタビュー
初短編小説集『これはちゃうか』と芸人としての執筆にまつわるお話

2022.12.23

本を読んでいる時は自分のことも読んでいる

――『装苑』2022年9月号にご出演いただいた際に、「小説に、お笑いの舞台より打ちのめされたことが何回もあった」というお話をされていましたが、そういったご経験が加納さんの執筆の原動力になっているのでしょうか?

それはありますね。私の本を読んでくれた方にも、読みながら「うわぁ」とか言っててほしいですよね。感想が届きだして知ったのが「ここにすごく共感しました」ってよく言われるなということ。自分が共感したところを、皆、人に言いたいんだなというか。それは意外やったし、私的にはそんなに共感せんでいいけどな~って思ったりもして。共感したところが一番刺さるところっていうのは、本の読み方としては少しもったいないなって気もするんですよね。もちろん共感も嬉しいんですけど、誰かの気持ちを代弁しようとして書いているわけではないから、読み方はもっと自由でよくて。全然わからんけどおもろい、みたいなものもあるやろうし。本って読んでいる時に自分のことも読んでいると思うんですよ。色んな文章を読んで、こんなに距離があるんやとか、近いんやって、自分のことも知れるから面白い。

――加納さんが書かれる文章はもっと読んでみたいと思わされる特別な魅力がありますが、その言葉の表現力は何から培われてきたのでしょうか?

わかりやすくお笑いと読書から得ていたんじゃないですかね。昔から、テレビや本で得られる日本語のほうが面白くて、でも友達同士で喋ってる言葉はすごく少なくて、歯がゆい思いをしてたというか。現実よりもフィクションの方が言葉は豊かでしたね。

――「カーテンの頃」は日常の中にある何気ない瞬間の切り取り方も印象的だったのですが、そういった些細な風景や心情を描く上で意識したことはありましたか?

まだ小説を書き始めたばかりなので、大きな出来事を起こせないだけかもしれないですね(笑)。何かを起こすことのほうが難しいです。セリフはなんぼでも書けるんですけどね。登場人物にセリフはずっと喋らせられるけど、そのまわりにあるものを描くのはまだまだ難しいです。喋っちゃう(笑)。

――『これはちゃうか』には加納さんの(小説家としての)この数年間がつまっているのではないかと思いますが、ご自身で振り返り返ってみるといかがでしょうか?

今読むと、最初の「了見の餅」は明るいな〜って思いますね(笑)。芸人として書いている感じがします。

――相方の村上さんはすでに『これはちゃうか』は読まれたのでしょうか。何か感想を伺ったりしましたか?

読んでないんちゃうかな。この前もYouTubeで読書感想文の動画を撮ったんですけど、装丁のことを褒めて終わりましたね(笑)。いつか読んでくれるとは思いますけど。

――執筆業で新たに挑戦したいことはありますか?

ちょうど12月にダウ90000という8人組とAマッソでお芝居をやるんですけど(2022年12月15日上演)、その脚本を書いていて。10人分の台詞を書くのは初めてなので、この人喋ってへん!喋らさな~ってなったりもしますが(笑)すごく楽しいです。来年もまた新しい挑戦ができそうなので頑張りたいなと思っています。

――その新しい挑戦というのも本当に楽しみにしています!最後に、装苑読者へメッセージをお願いします。

ファッションと小説はちょっと近いような気もするんです。誰かのためではなく、ただ好きだからという理由で服を纏う感覚で、文章にも付き合ってもらえたらなと思います。感想を求められるものでもないですし、一着服を買うような気持ちで『これはちゃうか』も手にとって読んでもらえたら嬉しいです!

『これはちゃうか』
著者:加納愛子 
定価:1,540円(税込) 
発行:河出書房新社
購入は【こちら


『文藝』に掲載された4篇に、書き下ろしの2篇を加えた全6篇の短編小説集。
「了見の餅」同じアパートに住む友人が元気ないっぽい(書き下ろし)
「イトコ」イトコという存在の不思議についてバズり記事書きたい
「最終日」美術展の最終日に駆け込んでマウントとってくる奴
「宵」映画研究会の言い伝え、〆切間近になると現れる怪奇
「ファシマーラの女」駅がいっぱい生えてくる変な町
「カーテンの頃」失った両親の友人にしもんと二人暮らし(書き下ろし)


Aiko Kano●1989年生まれ、大阪府出身。2010年に幼なじみの村上とお笑いコンビ、Aマッソを結成。ネタ作りを担当。執筆業でも才能を発揮し、注目を集めている。2020年には初の著書であるエッセイ集『イルカも泳ぐわい。』を刊行。YouTube「Aマッソ公式チャンネル」も人気。

着用衣装:セーター 参考商品 YUKI FUJISAWA/パンツ ¥46,200  five year old/シューズ ¥31,900 アルレット リリー(エスティームプレス)

問い合わせ先:
YUKI FUJISAWA:info@yuki-fujisawa.com
five year old:Instagram @fiveyearold_
エスティームプレス:TEL03-5428-0928


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