本作の原作となるのは、劇作家・映像作家のマキタカズオミが主宰する劇団・elePHANTMoonが2009年に上演した同名戯曲。そこで注目の若手監督、宮岡太郎がメガホンをとり、苛烈な状況下で交差する人々の想いを、生々しくも映しとった。キャストには数々の映画やドラマ、アニメで活躍する柊瑠美に、映画『あの頃。』や『21世紀の女の子』など様々な邦画作品を彩ってきた木口健太など。そして、主人公・小夜を演じるのは、『街の上で』『花束みたいな恋をした』『佐々木、イン、マイマイン』など、数多くの話題作に出演してきた萩原みのりだ。
今回は、3年ぶりの主演作公開を間近に控えた萩原にインタビューを実施。苛烈な役柄に、説得力をもって演じる彼女の演技の裏側に迫る。
photographs : Jun Tsuchiya(B.P.B.) / hair & make up :Naoki Ishikawa / styling : SO-EN / interview & text :Takako Nagai
『成れの果て』
小夜は東京でファッションデザイナーの卵として暮らしていた。そんなある日、地元に暮らす姉のあすみから結婚の報を伝える電話が入る。「おめでとう。何て人?」。姉が、結婚相手として言いにくそうに言った「布施野」という名前を聞いて、小夜は愕然とする。その男は、8年前の小夜にとって絶対に許せない事件を起こしていた男だった。小夜はいてもたってもいられなくなり、友人のエイゴを伴って帰郷。そして、驚くべき行動にでるーー。宮岡太郎監督、マキタカズオミ脚本、萩原みのり、柊瑠美、木口健太、秋山ゆずき、後藤剛範出演。12月3日(金)より、東京の「新宿シネマカリテ」ほかにて全国順次公開。
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心の奥の方でふつふつとする何かを
ぎりぎり溢れないように保っていた
——萩原さんが出演されていると見てしまうほど、いつも難しい役柄に寄り添った演技をされますね。本作で主演を務めた小夜も凄まじい人生経験のある役ですが、脚本の最初の印象を教えてください。
脚本が届いた時、出演をすぐには決意できず悩みました。あまりに過酷で、小夜の行動も心情もすぐに理解することができなかった。役に対して共感や理解がないまま、彼女の気持ちに達っすることかできるのか、役に挑んでいいのか不安だったんです。
——これまで壮絶な役柄を務めることも多かった萩原さんにとっても、挑戦でしたか?
はい。心情が想像できない役は初めてでしたから。けれど「演技を通して小夜になってみないとわからないのかもしれない」とも感じました。小夜の見ている景色を見てみたい気持ちで現場に挑み、撮影が脚本順に進められたこともあって、徐々に小夜の空気のなかに入っていくことができたんです。
映画『成れの果て』より
——自身の肌感をもってして小夜になり、撮影を重ねるたびに、その心を感じていったんですね。
小夜であるために、撮影中は周りの共演者の方とのお話しも避けました。けれどそれは、共演者のみなさまが創り出してくださった環境。現場入りの挨拶をする時も、目を合わせているようで、合わせていないような…あえて距離を取ってくださっていた。よくお話ししていたのは、仲の良い友人役である後藤剛範さんだけ。皆さんが、腫れ物に触るように接してくださったことで、実際に小夜の気持ちを感じられる瞬間が度々ありましたね。先輩方の現場創りはさすがでした。
——休憩中も撮影中も、ある種、似たような環境を創られたんですね。撮影が始まってからは役作りに苦労はなかったですか?
いえいえ、最後まで葛藤しました。けれど小夜に寄り添うという意味では、それで正解だったのかもしれない。特に、木口さん演じる相手役の布施野と、どう向き合うかは難しかったです。演技中はなるべく彼の姿を見ないことを大切にしていました。というより、見たくもなかったし、見ると怒りしか沸いてこなかった。布施野の言葉は聞くけど、彼の姿や表情や奥側を知りたくもなかった。知るということ自体が、相手に近づいていく行動ですから。
映画『成れの果て』より。写真上 姉のあすみと対峙するシーン、下 布施野光輝(木口健太)。
——監督である宮岡太郎さんとはどのようにコミュニケーションをとりましたか?
基本的には委ねてくださる方です。その中で、監督の思い描く絵と、私自身の想いとの擦り合わせもしてくださった。個人的には「小夜はもっと苦しいはずだ」という同性の視点があり、その感情をもっと押し出したかったんです。小夜の「人を許せない、あるいは絶対に許してはならない」という気持ちに対して、彼女の行動が揺らいで見えてはいけないと思い、悩みました。私の希望でセリフを変えていただいた箇所もあり、監督にわがままを聞いていただきながら丁寧に進めていくことが出来ました。
——2週間と短期間での撮影だったそうですが、丁寧に議論をして、撮影を進めたんですね。
そうですね。例えば撮影につきものの機材トラブルで撮り直しがあっても、私の気持ちをゼロから持っていくためには、このシーンのどのセリフから撮り直したいかをお願いすることができました。大事なシーンなのに、少し前からしかセリフを返せないとなると、そう器用なタイプじゃない私には難しい。監督がしっかりとコミュニケーションをとってくださったんです。
——劇中、小夜の苦しみや心の混沌が伝わってきて、その涙には説得力がありましたね。
重要なシーンでは、貯めていた感情を爆発させられました。私は役づくりのために、シーンを反芻し続けたりはしないタイプ。事前に考えすぎると、現場で感情を出しにくくなるという自分なりの経験則があって。なるべくは撮影中に一気に放出させたいんです。この作品中も、心の奥の方でふつふつとする何かを、ぎりぎり溢れないくらいで保つように心掛けていました。撮影中に他者と話して初めて、怒りとも言い表せない、震えのような感情を溢れさせることができました。
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