映画『スパゲティコード・ラブ』特集3:えぐられた、
リアルだった、衣装が可愛い!・・・「東京の街で13人の若者達がもがく映画」を見て、学生の私達が感じたこと 

映画『スパゲティコード・ラブ』の公開前、去る11月8日に、文化学園の学生を対象とした本作の試写会イベントを開催しました。ここからは、その試写会に参加した学生4名を招いて、本作について自由に語ってもらう座談会企画。ファッションや映像を学ぶ彼女達が見て感じた、映画『スパゲティコード・ラブ』とはーー!?
ついつい見た人と語りたくなる本作について、存分に話してもらいました!

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)

左から 文化学園大学造形学部デザイン造形学科4年 大山諒子さん/文化学園大学服装学部ファッション社会学科3年 高橋杏奈さん/文化服装学院ファッション工科基礎科1年 東海林クレアさん/文化服装学院アパレルデザイン科3年 金子亜未さん

『スパゲティコード・ラブ』
舞台は現代の東京。フードデリバリー配達員の羽田天、シンガーソングライターの桜庭心、ノマド生活を標榜する大森慎吾、気鋭の広告クリエイター黒須凛……。現在と過去の恋人同士、仕事仲間、客と従業員など、13人の若者の人生が交差してつながっていく。やがてそれぞれの物語は思いも寄らないエンディングへ。丸山健志監督、倉悠貴、三浦透子、清水尋也ほか出演。
11月26日(金)より、東京・渋谷の「ホワイトシネクイント」ほかにて全国公開。ハピネットファントム・スタジオ配給。©『スパゲティコード・ラブ』製作委員会

WEB:https://happinet-phantom.com/spaghetticodelove/
Twitter @SCL_movie 
Instagram @spaghetticodelove

https://youtu.be/NjnOzQgwUkY

”おしゃれ映画”だと思っていたら・・・

ーー『スパゲティコード・ラブ』文化学園の学生試写会に参加する前、映画について予想していたことと、実際に見て感じたことの間に違いはありましたか?

高橋杏奈さん(以下、高橋さん):最初に思っていたのは、13人も登場人物がいるなんて多いなって(笑)。13人の物語を時間内におさめようとすると、全体にふわっとしちゃうんじゃないかなと思っていたんです。でも実際見てみると、誰も取りこぼすことなく一人一人にフォーカスされていたし、テンポよく全体がまとまっていて「こうなるんだ」と思いました。見る前と後では印象が変わりました。

大山諒子さん(以下、大山さん):私も最初、全く同じことを思ってた!もしかして13って「スパゲティコード」(プログラムのソースコードがそれを制作したプログラマ以外にとって解読困難である事を表す俗語)に関する数字なのかな、と思ってちょっと調べてもみたんですけど。
 さっき高橋さんが言っていたように13人それぞれの物語に見せ場があり、ちゃんと繋がってもいて・・・。私は普段、映像を作っているのですが、こんな方法があるんだってすごく勉強になりました。

東海林クレアさん(以下、東海林さん):私は、題名に惹かれて引き寄せられました。どういう物語が始まっていくんだろうって想像が膨らむようなタイトルですよね。
 実際見たあとは、こんなにも生々しい話なんだ!と思って驚きました。あとは、共感できる部分が多かったです。登場人物が13人いることで、見た人にもいろいろな感想が生まれるような気がします。

金子亜未さん(以下、金子さん):私は、登場人物が多いことや予告編がかっこいいことから、正直、ライトめに見られるおしゃれ映画かなーと思っていたんです。かっこいい映像を見にいこ、みたいな気持ちで試写会に参加したら、会話や登場人物の生きざまが生々しいので、思ったよりえぐられてしまって。学校帰りに見るにはヘビーでした(笑)。

一同:わかる・・・(笑)

大山さん:私達は学校でクリエイティブなことを勉強しているけど、この映画の登場人物も、カメラマンや広告クリエイター、シンガーソングライターとかなので、映画に描かれている「彼女・彼らがぶつかる壁」や「周囲の目線」がより近しいものに感じられて、突き刺さるんですよね。あるよね〜こういうの!って何度も思いましたし、見ていてしんどくなっちゃう時がありました。

東海林さん:私も、見た後の帰りはしんどかったな。私自身、映画に影響を受けやすいのもあって、数日間考えてしまいました。こんなにも共感に近いものを映画で見せられるんだっていうことが大きかったです。映画内の会話も、日常そのまますぎて。

やっぱり衣装が良かった!

高橋さん:試写会後のトークで、丸山監督が一人一人のキャラクターにモデルがいるっておっしゃっていたけど、全員にすごく人間味があったよね。普通の映画なら多少フィクショナルになりそうなところ、この映画は、私達の身近にいるような人達のいいところも悪いところも、全部詰め込まれているから、ヘビーな感じがするのかもしれないなって思う。

 私は洋画や海外ドラマが好きで普段よく見るのですが、実は、日本の映画には見たいと思えるものが少なくて。邦画だとふんわりした質感や色彩の映像が多いのかなって、自分の勝手なイメージもあって敬遠してしまっていたのですが、『スパゲティコード・ラブ』は色彩が綺麗ですごく引き込まれました。衣装も面白いから、海外ドラマを見ているみたいで。衣装についてはみんなもそう思ったんじゃないかな?

金子さん:思った!私は将来、衣装デザイナーになりたいのですが、この映画では衣装がキャラクターを表していることに一番感激しました。みんな、あの服を本当に着ていそうでしたよね。さらにそこにかっこ良さが加わっていたことで、リアルな物語なのに、見ていて苦にならなかったです。あと浅い感想かもしれないのですが、広告クリエイター・黒須凛役の八木莉可子さんの衣装が可愛いなって。

八木莉可子さん演じる黒須凛。

東海林さん:可愛かったですよね!私も、あのカラフルな衣装に、彼女の強気なところが現れているようで好きでした。
 あとは清水尋也さん演じる大森慎吾が着ていた衣装も、理系な感じかつ現代のおしゃれな子っていうキャラに合っていていいなって思いました。

大山さん:映像を作る時、よく先生などから言われるのが「登場人物の見た目や部屋も、ちゃんと考えて作らないといけないよ」ということなんですよね。この映画は、衣装がキャラクターを作っているなって、普段習っていることがしっくりきました。

思わずドキっとしてしまう、「いるいる」なキャラクター達

ーー13人のキャラクターがいる中で、リアルに周りにいそうだったり自分に近かったりして、思わずハラハラしてしまうような人はいましたか?

高橋さん:私は、ちょっとずつ色んな人に共感できました。恋愛系だと、香川沙耶さんが演じていた綾瀬夏美が「顔で1ヶ月、セックスで3ヶ月(関係を続けられる)」みたいなことを言っていましたけど、私も恋愛が続かないタイプだからわかるなって(笑)。あとは、土村芳さん演じていた剣持雫も、すごく地味な子かと思いきや好きな男性にはよく見られたいとか可愛く見られたいという意思がはっきりしていて、そこにも共感できましたね。

 それから、SNS上に偽のリア充投稿をしていた高校生の小川花(上大迫祐希)さんが、「東京は一回来たら戻れない場所。負けたことになるから」という風に言うところが印象に残りました。私は地方出身で上京して大学に通っていて、就職も東京でしたいので、同じことを思ってるなって。
 親は就職がうまく決まらなければ実家のほうに帰ってきたらいいじゃんって言ってくれるのですが、好きなスタイルがある東京で働きたい私としては、戻ったら「ちょっと負けたことになる」って思ってしまっているんですよね。刺さる部分がありました。

香川沙耶さんが演じていた綾瀬夏美(上)と、上大迫祐希さん演じる女子高生・小川花(下)。

大山さん:私は若手カメラマンの男の子、日室(古畑新之)が刺さりましたね。これまではコミュ力だけで世の中を渡ってきたけど、「25歳を過ぎたらその魔法が解けました」と言っていた部分。あそこには、これから自分もそうなるかもしれないという恐怖がありました。技術面は磨けるし磨いていきたいけれど、自分が持っていないセンスを他人に見い出したら、そう感じてしまうときがくるのかなってドキドキした。

古畑新之さん演じる若手カメラマン、日室翼(上)と、xiangyuさん演じる女子高生の千葉桜(下)。

東海林さん:私はxiangyuさんが演じていた女子高生。私も中高生の頃はずっとあんな風で・・・(苦笑)。映画の中の彼女は、ずっと「死」について友達とカフェで話していましたが、私も「死んだら人はどうなるんだろう」とか「どこに行くんだろう」って、毎日あんなふうに喋っていたんです。映画の中のあんなにおしゃれなカフェではなくて(笑)、カラオケとかサイゼでそんなことを喋っていたので、昔の私を見ているみたいでした。
 私自身は、文化服装学院に合格したことで前向きになれたんです。何か新しいことが始まったり節目があることで、ぱって気持ちが前を向いたりしますよね。だから、最後に明るさに向かっていった映画の中の彼女も、なにかそういうものに出会えたのかなと思いました。

リアルに、希望ってああいうものかも。

ーー作品自体には、今、東海林さんが言ってくださったように日常を美しく見せたり映すことで、希望を描きたいという思いが込められているようです。

金子さん:確かに、ラストも希望的な終わり方でした。私達は登場人物が絡まり合っているのを「神の視点」のようなところから見ているので、映画の中の彼女・彼らが前を向き始めたなというのがわかるのですが、私達って、今、まさに東京で絡まっている最中で。
 でも自分はもがくしかないし、これからいい方向に進むかどうかもわからないけど、まぁやっていくしかないなと思ったんです。そういう重たさがこの映画にはあったんですよね。映画自体は気持ちのいい終わり方だったと思います。

大山さん:ラストまでが生々しすぎて、ドキュメンタリーじゃないかとすら思っていたけど、最後に映画らしい表現がきたなって私は救われました。このままで終わってしまったら、ちょっと帰れないって思っていたので(笑)。

東海林さん:希望に向かっていきたかったと聞いて、正直、今「え!?そうだったの?」と思いました。私としては、ラストの希望よりもそれまでの人間臭さのほうがメインだと思っていたから、「あの映画は希望だったのか」って。
 でも・・・もしかしてですが、希望って実際、ふっと瞬間的に現れるものじゃないですか。この映画の最後、ほんとに最後だけ希望が表現されていたのも、「希望というものがそういうものだから」なのかなって思わせられて、はっとしました。

高橋さん:私が一番気になっているのは、八木さんが演じられていた、気の強い広告クリエイター・黒須凛のその後。

大山さん:確かに、あのクリエイターのかたは、13人の中で一番いろんなものを「持ってる」ように思えたけど、最後には真逆でしたよね。みんながこれから何かを手にしていくんだろうなというラストなのに、手放していくような役で。

高橋さん:そうなんです。彼女は才能があるのに、周囲の嫉妬からなのか、彼女自身のとがった言動からなのか、どんなに活躍しても有名な親の「七光り」と言われてしまっていて、相当苦しかったと思うんですよね。
 また地道に、イチから心も安定するような環境でやっていくのか、それとも海外などで自分一人で違うスタイルを築いていくのか・・・想像してしまいました。どの登場人物についても、どんな想像もできるように終わっていたと思いますが、私が一番考えたのは黒須さんでしたね。自分の名前だけを輝かせていける場所で、才能を開花させていけたら幸せだろうなと感じました。

東海林さん:私も、彼女(黒須凛)がすごく印象に残っています。あのプライドの高さであったり、世間に名が知られていることから逃げたくなる部分・・・。
 私は小さな頃から芸能活動をしていて、東京生まれですし、誰かにはトントン拍子にやってきたんでしょって思われているかもしれないけど、実はそうでもなくて。だから、あんな風にまわりから「七光り」と言われてしまえば、どんどん突っ張ってしまい、言葉や態度がとがっていくのも分かるなって思ったんです。けれど彼女の行動は、「逃げ」ではなく「闘い」だと思いました。そう思わせる終わりかただったな。

金子さん:私は、この子(黒須凛)とは性格が真逆なんですよね。この人は自分が突き進んでいくタイプだと思うのですが、私は周りといい関係を作って、人の和を大切にしちゃう。純粋に、こんな風に突き進める人ってかっこいいなって思った。憧れみたいな気持ちを持って見ていましたね。

 私は、もともと丸山監督が撮ったMONDO GROSSO「ラビリンス」のMVが好きだったのと、清水尋也さんのファンなので試写会に参加したんです。特に、あのカラフルで湿気も感じる映像を期待していたので、初っ端からそれが見られて「うわ、きた〜!」って満足していました(笑)。

「ラビリンス」MV

承認欲求がテーマだった

ーー映像美も特徴的でしたよね。今、金子さんから話が出たので、このまま映像について聞きたいと思います。まずは映像制作をやっていらっしゃる大山さんから見て、本作はどう映りましたか?

大山:私は、自分が作っていくときに特に色が苦手で・・・。さっき、高橋さんが日本映画にはあまりはっきりした色使いが無いって言っていましたが、私自身、こういうパキパキした色使いや、構図にも苦手意識があるんです。でもこの映画はポスターを見た瞬間に「私にできないことができてる・・・!」と思って。惹かれる色を使っているな、素敵だなって思いました。

高橋さん:色もそうですし、光も印象的でした。歩いている背景にある、夜の町のキラキラ感がちょっと映像では珍しいように感じて。もしかして、普段は映画をあんまり見ないかたも、映像の色彩感やキラキラしたところに興味を持ったまま見られるんじゃないかなって思いました。
 あと、色といえば、ゆりやんレトリィバァさんが演じてた女の子(目黒梅子)の部屋の光が、白でもオレンジでもなくピンクなのが面白い!って思いました。そのピンクも気に障るようなものではなくて、映像の色彩の一つとして入ってきた。そういうのも重要なんじゃないかな。既婚者の彼と暮らしていた、剣持雫の部屋も可愛かった。

ゆりやんレトリィバァさん演じる目黒梅子。部屋にずっといる役で、インテリアもポイントに。

ーー剣持雫の役は、付き合う相手にものすごく依存していますよね。あんな若い女性、今どきいるのかなぁと思って他の人達から浮いても見えたのですがいかがでしょうか。リアルか物語らしい描写か、どちらだと思いますか?

高橋さん:います、います。むしろ最近多いんじゃないかな。今、人との繋がりが薄っぺらいものになっちゃったからこそ、近くにいる人をより深く思ってしまったり、バランスが取れなくなってしまってる子って結構多い気がします。「この人が全て!!」みたいになっちゃう人って私の周りにはいるので、現代のリアルな話だなって思いました。

大山さん:異性に限らず、同性や友達、あとは物にも依存しちゃう時代というか、流れなのかもしれないですね。それこそ、SNS依存とかもあるので。

高橋さん:うん、あとはこの映画、承認欲求もポイントかなって思いました。すべての子にそれぞれ異なる「承認欲求」があるし、そこが起点になっていると思いました。それは現代人が抱えている大きなテーマの一つなのかもしれません。

金子さん:「承認欲求」って誰にでもあるものだと思うけど、この映画の登場人物はそれを隠そうとしたりして、何か遠回りをしているなって思いました。素直になればもっと絡まった”コード”がほどけるんじゃないかと思いつつ、そうもいかないのが人生ですよね。

自分にとっては恥ずかしくてかっこ悪いことも、もしかしたら外から見ればかっこいいのかもしれない

ーーありがとうございます!では最後の質問です。この映画では、普段、東京で皆さんが見ているような景色が映されていたと思います。さっき、高橋さんが町のキラキラした光を印象的だったと言ってくれましたけど、知っている町が脚色され美しくなり、あのように煌めいて映っていたことをどのように感じましたか?

大山さん:いろいろな色彩が映像に使われている分、東京の雑多な感じや人の多さ、音の多さを感じられました。あとは普段見ている東京よりは綺麗だなって。そこから画面に汚いものを入れないという作り手の精神を感じましたし、本当はもうちょっと汚いような気がするけどな、とも思って見ていました。
 私は東京に通うようになるまで、東京って銀座とか六本木みたいなところがほとんどかなと思っていたんですよね。でも、ふとドブの匂いがしたりして、東京といえども汚いところは汚いし、どこでも本質は変わらないのかもしれないと思うんです。

高橋さん:私は、あの映像のキラキラした東京は、「東京の外から見た東京のイメージ」なのかなと感じて。私が地元にいて、本当の東京というものがわからないときは、東京はすごくキラキラしている場所で、あそこに行けば何かいいことがあるはずだと思っていたので。
 あとは、登場人物がキラキラした東京の街を歩いていることで、彼女・彼らが町の中で自分の道を探しながら必死に生きていることが際立っていました。

金子さん:自分が今、実際に東京にいるから「こんなに綺麗じゃないな」って思いましたけど、確かに上京前にイメージしていた東京は、これくらいかっこいいものだったことを思い出しました。
 外から見てこんなにかっこいい舞台でもがけるなら、情けなく承認欲求を剥き出しにしても画になるんじゃないか・・・って思えてきます。プライドもあるし自分自身は恥ずかしくても、周りから見れば、そのさまだってかっこいいのかもしれない。もがいて生きていこうと思えますよね。

東海林さん:私は、あの映像を東京っぽい!ってめっちゃ思っていました。もちろん、普通の目で見たらああではないけど、東京って皆が夢を抱いて集まるところなので。そう考えれば、東京ってああいう「キラキラ」した感じなんです。私は、音楽を流してヘッドフォンをして街を歩いていると、ああいう映像の中に自分自身がいる感じがします。
 東京にはたくさんの人がいますが、一人一人にはその人としての人生があって、その大事な人生の一つを、映画で見ているんだな・・・そんなことも綺麗な色彩と町の描写から際立つ「孤独感」によって感じました。

金子さん:嫌なことがあって、孤独を感じて呆然と街に立っている自分も、もしかしたら『スパゲティコード・ラブ』みたいにかっこよく演出されて見えるのかもしれないね(笑)。

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