映画監督、俳優・須藤 蓮(『逆光』監督)×脚本家・渡辺あや(「エルピス-希望、あるいは災い-」脚本)対談。
新オープンの「FOL SHOP」に込めたスピリットをひもとく

2023.04.27

2018年にテレビドラマとして放送され、その熱い支持が生み出したうねりから2020年には映画化にいたった『ワンダーウォール』。須藤蓮と渡辺あやは、その作品で俳優と脚本家として出会い、2021年の映画『逆光』では、須藤が映画監督となって共闘した。『逆光』もまた、通常の映画宣伝の枠を超えた有機的な広がりによって、作品を大事に思う人の輪を増やしてきた映画だ。

「今、この社会に新しく豊かな価値を生み出したい」という思いを持った二人の元にはいつしか磁場が生まれ、そこに「FOL(Fruits of Life)」と名が付けられた(名付けたのは渡辺さんだ)。「生命の果実」を意味するこのプロジェクトが、拠点となるお店「FOL SHOP」を4月にオープン。店内には古着やスニーカー、雑貨、本が並び、クラフトビールやコーヒーも提供する。

この場所で須藤蓮と渡辺あやが発信したいこととは?秋には最新作『ABYSS アビス』の公開も控えるお二人に、共有するスピリットを語っていただきました。

photographs : Josui (B.P.B.) / interview & text : SO-EN

Ren Sudo
1996年生まれ、東京都出身。「ワンダーウォール」、『ワンダーウォール 劇場版』、NHK大河ドラマ「いだてん」、Netflixドラマ「First Love 初恋」などに出演。映画『逆光』で初監督を務め、 2023年秋に最新作『ABYSS アビス』が公開予定(監督・主演 須藤蓮×脚本 渡辺あや)。

Aya Watanabe
1970年生まれ、兵庫県出身。映画『ジョゼと虎と魚たち』で脚本家デビュー。主な作品にドラマ「その街の子ども」、連続テレビ小説「カーネーション」、ドラマ「ワンダーウォール」、映画『ワンダーウォール 劇場版』、ドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」、ドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」など。

 この記事の内容 
P1 映画とファッションが分断された時代の、FOL SHOPの冒険について
P2 渡辺あやさんの”スピリット”
P3 文化や芸術は、人間が内包する不都合さを受容する

「FOL SHOP」店内

映画とファッションが分断された時代に

――須藤さんと渡辺さんのプロジェクト「FOL」(エフオーエル)がお店をオープンするというお知らせを拝見し、とてもワクワクしていました。

須藤 それは嬉しいです。でも、どこにワクワクしていただいたんでしょうか?

――映画とファッションがこういう形で結びつき得るんだというところです。受け取る人の中には洋服も映画も両方好きで、両方をカルチャーとして楽しんでいる人が多いはずなのに、作り手の中でその二つは、今、分断されているように感じます。

渡辺 映画は本来ファッションと相性がいいはずなのに、昨今ファッション的に楽しい邦画をあまり見かけないですよね。そもそも作っている人たちもファッションに興味持ってないことが多いかも。

須藤 あやさんはすごくおしゃれですよね。

渡辺 センスには自信ないんですけど、単純に好きなんです。服を見ること自体が好きで、映画の中のファッションを見るのも好き。雑誌の中にある映画衣装の特集も大好き。

須藤 僕はこれまで、映画やドラマの制作現場で洋服が好きな人に出会ったことがほとんどなかったんですよね。ご一緒するスタイリストさんも、服好きというよりは、どちらかというと衣装職人さんみたいな方にお会いすることが多かったんです。

 僕は古着屋でずっとアルバイトをしていたのですが、役者を始めた動機の一つに「素敵な服を着たい」とかもあって。自分じゃ買わない・買えない素敵な服を着させてもらって写真を撮られたい、みたいな動機も少なからずあったので、役者になればそういう場がたくさんあるのかなと思いきや、意外とそんなになかった(笑)。

渡辺 物語となるとどうしても、服はある種記号になってしまう側面があります。例えば、服屋の店員さんの役ならおしゃれでもいいけれど、サラリーマン役はある一定以上おしゃれではないとしたり。わかりやすくそう見えるように作ってしまうことが多いからでしょうかね。

須藤 すごく難しいんだと思います、ファッション性と映画を両立させることは。これまで日本では、ファッション性にふった映画がうまくいきづらかったこともあるかもしれない。でも僕はそういうことがしたくて、この秋に公開する『ABYSS アビス』では、ディガウェルやクードス、スドーク、ロキトなど、いろんな国内ブランドのデザイナーさんに衣装提供をしていただきました。ファッションとのご縁も映画に持ち込みたいという思いがあります。

「FOL SHOP」店内より

――須藤さんは『逆光』公開時の他媒体のインタビューでも、衣装に一番こだわられたとおっしゃっていましたね。

須藤 役者として現場に来てくれた人に、素敵な衣装を着てもらいたいなと思うんですよね。あと、僕の好きな映画は衣装が華やかなことが多くて。ウォン・カーウァイ作品や、ルカ・グァダニーノの『君の名前で僕を呼んで』も、衣装が素敵ですよね。そんなふうに、素敵な衣装が出てくる映画を撮りたいんです。

――いま須藤さんがあげてくださった作品のように、日常に根差した素敵な衣装というあり方もあって、そんな登場人物の服を真似したいと思うことも映画を観る楽しみの一つです。

渡辺 そうですよね。映画はそういう楽しみ方もできるはずだから、自分も作ってみたい気持ちはずっと持っています。

須藤 映画は「ブリッジ」みたいなものをたくさん持っていると思います。映画を観ることで古着に興味を持ったり、文学的な映画を観て小説を読みたくなったり、いい映画音楽を聴いたら音楽が聴きたくなったり――。あらゆるジャンルのカルチャーに、橋渡し的に作用していく力が映画にはある。僕の中でだんだんその確信が強まってきていて、今回の「FOL SHOP」は、その派手な挑戦の一つという感じです。

「FOL SHOP」店内より

須藤 例えば映画業界の人に「古着屋をやろうと思うんですよ」なんて言ったら、「お前は何を言ってるんだ?」ってなるじゃないですか(笑)。オーナーの高橋も、映画のチームと一緒に古着の店を出すなんて仲間に言ったら、一見、よくある失敗のコラボみたいに思われてしまうと思うんです。だけど僕らは映画制作だけをやりたいチームではなくて、このお店も、ただ古着を売りたいだけの場所じゃない。じゃあ何を伝えたいかというと、「冒険」かなと。もし、まだ古着に目覚めていない人やファッションが好きじゃない人がここに来て何か一着を手にするとしたら、それは相当な冒険であり発見ですよね。あやさんがこのお店に出資してくださったのも大冒険だし、そもそも、僕が『逆光』を撮ったのも発見と冒険の連続でした。場を作ることでいろんな人の発見と冒険を促し、人と人の縁が有機的につながっていくようなことができたらな、と。人は冒険している時にすごく輝くと思うので、そういうものを後押しする場にしたいです。

 ただ、そういう大冒険でありチャレンジなので、立ち止まって不安になる瞬間もあるんですよね。僕は何か大きな間違いを犯しているんじゃないか?何をやっているんだろう?などと自問自答しながらお店のオープンまで進めていました(笑)。今日、やっと、「これはやって絶対に正しかった」と思えました。

渡辺 今まで誰もやったことがないことだから、私もこの先の展開がまったく読めません(笑)。ただワクワクしています。それこそが「冒険」ですよね。

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