あの『鯨の骨』インタビュー。
バーチャル世界への距離感と”明日香”へのシンパシー

テレビやラジオでの活躍のみならず、音楽活動では確たる表現の世界を示しているあのちゃん。10月13日(金)公開の映画『鯨の骨』(大江崇允監督)ではAR(拡張現実)アプリの世界のカリスマ“明日香”を演じ、また新たな才能の一面を見せている。その活動や表現に多くの注目が集まるあのちゃんが、“明日香”と『鯨の骨』を通じて感じたことは?

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Momomi Kanda / hair & make up : Yuuki Deguchi /  interview & text : SO-EN

映画『鯨の骨』
結婚間近の恋人と破局した間宮(落合モトキ)は、マッチングアプリで唯一返信をくれた女子高生と出会う。しかし、女子高生は間宮のアパートで自死。あまりの事態にうろたえた間宮は山中に女子高生を埋めようとするが、その死体はいつの間にか消えていた。悶々とする間宮は、ある時ARアプリ「王様の耳はロバの耳(通称:ミミ)」で消えた女子高生と瓜二つの少女、“明日香”(あの)を発見する。彼女は、「ミミ」を通じて再生できる動画を街中で投稿しているカリスマだったーー。『ドライブ・マイ・カー』「ガンニバル」の脚本を手がけた大江崇允が、オリジナル脚本でリアルとバーチャルの境目が曖昧になる現代を描き出す。
監督・脚本:大江崇允
出演:落合モトキ、あの、横田真悠、大西礼芳、内村遥、松澤匠、猪股俊明、宇野祥平
2023年10月13日(金)より、東京の「渋谷シネクイント」、「シネマート新宿」ほかにて全国公開。カルチュア・パブリッシャーズ配給。Ⓒ2023『鯨の骨』製作委員会

ボクはライブの一瞬でしか出せないものをやってるつもりです。

――『鯨の骨』では、ARアプリ「王様の耳はロバの耳(通称:ミミ)」が現実をどんどん侵食していく様子が描かれていましたが、あのさんはこの映画の世界を、率直にどう感じられましたか?

あのAIやARが実際に発達している今、これから「ミミ」みたいなものもどんどん出てきそうですよね。遠い未来の話じゃない感じがリアルだったし、そこで交流ができる良さや救われる部分があるのはわかりつつ、やってる側にとっても、受け取る側にとっても、危険なものだなぁと思いました。それは結局AIで、人間ではないから。事実じゃないものが作り出されているのに、そこに見ている側の本当の感情が乗っかってる。触りたくても実際に触れるものじゃないのに、受け手の妄想が膨らんでエスカレートして、それこそ映画の中のような事件に繋がってしまうこともあるだろうなって。

――本当にそうですよね。世の中では今、AIとどう付き合うか、これを使ってどう世の中を発展させるかが盛んに話し合われていますが、あのさんのバーチャルな世界のものとの距離感が気になります。

あの自分がそういうものを取り入れてしていることはまだ何もないのですが、番組でバーチャルの世界に入る体験をしてみたら、全然そこで成立しちゃっていたんです。バーチャルのアーティストもたくさん支持されてますけど、その良さもわかるし、今後もっと増えていくんだろうなと思います。ただ、ボク自身がバーチャルになるっていうのはなかなか難しいかな。演出の一部にバーチャルを使って自分自身と融合するのは良いかもしれないけど、自分そのものをバーチャルにしたいとは思わない。そこはむしろ、戦いというか。アーティストは感情を歌に乗せて届けるものでもあるし、ボクはライブの一瞬でしか出せないものをやってるつもりです。自分がしていることは、あらかじめ計算されたものとは比べられないものになるべきだと思っています。

そういう感情がありつつ、自分が何体もいればいいのになとも。なんならそっちの方が純度が高いかもしれない(笑)。要所要所でいい使い方ができたら便利ですし、世の中がそうなっていくのは良い未来だなと思います。

映画『鯨の骨』より

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