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世界へ飛び出した日本人
vol.3 田根 剛さん

2021.12.10

日本から世界へ飛び出したクリエイターたちをシリーズで紹介。
今回のゲストは建築家の田根 剛さんです。

建築家の田根 剛さん。パリのオフィスにて。

今年11月、パリの新名所「オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ(Hôtel de la Marine)」に、完成が待ち望まれていた「アル・サーニ・コレクション財団美術館(The Al Thani Collection)」がオープンした。展示されるのはカタール王族のアル・サーニ殿下が収集した世界屈指の個人コレクションである。設計を手がけたのはパリを拠点に活躍する田根 剛さんだ。

コンコルド広場にある「オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ=海軍の館」はルイ15世によって王室調度品の保管所として建てられ、革命を機に海軍省の本部が置かれた。国の重要な文化財である建物は4年の歳月をかけ修復され、この夏から一般公開される。

「一本の未来に向かうような軸を作ることが、僕たちの役割」

美術館があるのは、ルイ15世の時代に建てられた歴史的建造物。18世紀の雅な装飾が施され、ヴェルサイユ宮殿をも彷彿させる佇まいである。大階段を上がり、エントランスを通って館内に入ると、現れるのは異次元の宇宙のような空間。設けられた4つのギャラリーには、世界各地の文明から生まれた芸術品が並び、およそ5千年前に遡るものもある。

「アル・サーニ・コレクション財団美術館」より。無数のオーナメントが飾られた最初のギャラリー。中央に置かれるのは、3千年以上前のエジプトの彫像。「Head of a Royal Figure」前1473-1292年頃。

「殿下(アル・サーニ殿下)から古代の神々の像や宝飾品を展示する21世紀の美術館にしたい、という命題をいただきました」と、田根さん。とても丁寧に物静かな口調で話す。
「僕たちが仕事をするときには、過去と現在をしっかり繋いで未来に継続させていきたいという考えがあります。この建物は、ヴェルサイユ宮殿のような王宮をパリに造るというルイ15世の計画から始まり、のちに海軍の施設になったという歴史があります。そして、展示されるのはメソポタミア文明やマヤ文明など、いろいろな人類史の記憶が詰まったコレクションです。このような異なる時代のものが集まる場所に、一本の未来に向かうような軸を作ることが、僕たちの大きな役割だと思って取り組みました。建物内には、黄金の間のような壮麗な歴史を感じさせる部屋がありますから、そうした部屋を回ってこの美術館に辿り着いた時に、同じように時空を超えたような体験をしてもらいたいという願いもありました」

18世紀の雰囲気を残しながら、現代的なマテリアルを使った館内。オーナメントは黄金の間にも使われるロカイユ装飾がモチーフに。植物や貝殻などを表現したロカイユは、ロココ様式に欠かせない要素であり、石の床にはヴェルサイユ宮殿の寄木張りの模様が採用された。壁は漆喰で、イタリアの職人の手仕事によるもの。

「元々ヴェルサイユ宮殿の床は石でできていましたが、重さで軋むようになったため木材に変えなければとなり、フローリングのヴェルサイユ・パターンが発案されたそうです。それを知って、当時はできなかった石の床を創りたいと思い、装飾芸術としてはロカイユ様式のモチーフを取り入れました。この部屋を18世紀と21世紀が対話するような場所にしたかったんです」

「Stargazer」前3300-2500年頃(アナトリア半島西部)。

頭部の彫像が並ぶギャラリー。純チタンの結晶がキラキラと輝くショーケースもこだわりの一つで「工業的なものではなく、ミネラルなものを使いたかった」田根さん。

「アル・サーニ・コレクション財団美術館」は20年間の限定で開館される予定。
写真上:テンポラリーの企画展が行われるギャラリー。中:波状のガラスのケースが印象的な4つ目のギャラリー。

公式サイト(日本語):https://www.hotel-de-la-marine.paris/jp/node_8564288/node_8666907

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