
——デビューして約5年ですね。今の気持ちを聞かせてください。
最初の頃とずいぶん気持ちのあり方やクリエーションへの向き合い方が変わってきました。ブランドで関わるスタッフが増え、個人戦でなくチームでゴールを目指すことをより意識するようになりました。以前は手が伸ばせなかったことや、一人では難しかった挑戦も、今ではトライできるようになり、状況が良い方向へと動いています。おそらく他のブランドさんに比べても、さまざまな領域で任せることができているのだと思います。
一人でやっていると、どうしても経営面など、見えすぎてしまう部分が気になって、制作に集中しづらいことがあると思うのですが、その部分を委ねられているおかげで、ものづくりに向き合えています。今はこのスタイルが自分にとってベストな形だと思います。
—— 一緒に戦う仲間と、服についてのコミュニケーションもありますか。
ブランドとしてどういうアイテムが欲しいとかどうしたらより着やすくなるか、という部分はMDや女性のスタッフの方に相談しながら進めています。一緒に意見を重ねて作っていく商品も増えました。
——着る人の意見はとても大事ですね。
当初は一人で思いついたものをそのまま決めてしまうことが多くて、ある意味“メンズデザイナーが作るウィメンズの服”という印象が強かったと思います。ですが、そこは少しずつ変わってきている気がします。
——男の人の目線と女の人の目線ってやっぱり違いますね。ここまでは肌は出せるけどこれ以上は出したくないとか。微妙に差がでますよね。
そうですね。もう少し肌を出した方が綺麗なのに、と思うけれど女性は違う基準があったりする。その線引きが女性は現実に根ざしていると感じます。見て美しいのと、着て心地いい部分のバランスを探っていくのは難しいけれど、それはそれで楽しいです。
——アトリエは女性のスタッフが多いのですか。
ほぼ女性です。うちのブランドの特性もあるのかもしれないです。

——レースとかビーズ刺繍とかとても繊細で美しいものがたくさん服にあしらわれていますが、幼少期から興味があったのですか。
きっかけはおそらくアニメのクランプ作品、“カードキャプターさくら”や、“セーラームーン”。そのちょっとした服や小物のさりげない装飾にときめいていました。あと、姉と読んでいた“なかよし”や“りぼん”などの付録についていた便箋の端のレース柄とか、振り返ればそこがスタートなのかなって。
——中学とか高校とかではどんな美しいものに興味を引かれたのですか。
大阪ではもの作り全般に興味があり大阪工芸高校のインテリアデザイン科に通っていました。内装や建築の基礎を学びながら、手を動かしてインテリアを作っていました。その中で、CADを使っての製図よりも手を動かす時間のほうが性に合っているんだなと気づきもありました。
——そこからファッションを志して大阪文化服装学院に入ったのですね。ファッションに興味を持ったのは何がきっかけだったのですか。
いくつかきっかけはあったのですが、ファッションが面白いと思ったのはちょうどその頃にデビューしたレディー・ガガ。もちろん音楽も好きですが、ファッションでありながらアートで、そこに感じてビビッときました。とても刺激的でドキドキしたのを覚えています。

——先日、コンテストの審査もなさっていましたが、ご自身も学生時代はコンテストに応募していたのですか。
はい。学内で評価されるよりも外で評価されたいという気持ちがありました。もちろん近くの方に評価されるのも嬉しかったのですが、もっといろんな人に認められたいと。そういう渇望が強くありました。
——外の方々から刺激的な言葉をいただきましたか。
ナゴヤファッションコンテストに応募したとき、審査員のデザイナー岩⾕俊和さんのコメントで、“小手先でものを作らないように”と。今考えると、技術だけで作らないでということだと認識しています。自分の作った作品は、その一言に全てが集約されていました。
当時確かに自分は技術を見せなきゃと焦っていて、技術の次にハートと思っていました。今でもその言葉は心に残っていて、ふいに思い出すことがあり、ものづくりを続けるうえで心に留めておくべき言葉だなと。
——そういう言葉が忘れられずに残っていて繰り返し自分の中で響いているのですね。
ものづくりってきっと変わらない部分があるんですよね。時代や技術が変わっても、それに対する思いや気持ちや姿勢はきっと変わらないのだろうと。
——クリエーションする上で大切にしていることはそこなんですね。
刺繍技術を評価されたいっていうのが今でも少なからずあるのですが、そこが一番手前に来ると、それはちょっと押し付けがましい。見せびらかしているように見えて、ちょっと品がないし、何より色気がないのかなと思って。自分の中で大きな視点で捉え方を変えなければと思っています。
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——2026年の春夏のヴィジュアル撮影がストーリー性を感じるものになっていて素敵でした。コンセプトはどのようなところから。
今シーズンはドールハウスに興味があり、その中で生き物たちと一緒に暮らす二人をテーマにしました。もともとあるものにアンティーク加工をして装飾をつけてアレンジして、そこにオリジナルの”生き物”が登場します。その生き物の首輪がブランドらしいビジューで作られていたり。
新しい試みだと、今回初めて羽根を使っています。羽根は根元の隠し方に技術が必要で、ブランドらしい面白さが出せる部分です。硬くなっている根元を縫い付けた後に、そこをビーズ刺繍で隠していて、それを軽やかに仕上げました。
素材、テクニック、ムード、この三つをどう組み合わせるか。自分は秋冬の重厚さが好きでつい寄ってしまうのですが、春夏だからこその軽やかさとのバランスは悩みました。

イメージしたアンティークのドールハウス
——コレクションのスタートはパーツから始まるとおっしゃっていましたが。
今作りたいものとか興味があるものを探っている段階で、自分はどうしても手を動かしたくなります。好きなパーツや生地を集めてどう組み合わせたら今の気分に応えられるかというのを探っていきます。そこから徐々にこういうものを作りたいなとか、こういうムードなのか、輪郭が見えます。
あとは、香りを頼りにすることも多いですね。いろんな香りをテイスティングして、そのシーズンの自分の思い描いているムードにフィットしている香りを探します。2026年春夏の香りは表参道でふらっと入ったお店で出会いました。ヴィンテージ感あるドールハウスに漂うような空間を漂う甘く乾いた香り。

2026年春夏のイメージの香り
——コンセプトが“おまじないをかけたようなお洋服で、自分の中にいるまだ見ぬ自分と出会えますように”ですね。出会えていますか?
僕は最近出会えてきていると思います。自分の服を着ることが増えてきました。自分の気持ちとブランドがうまく近づいた気がします。当初は見たいものや作りたいものを作っていたので、自分がその中に入り込めてなくて。
自分が着られるサイズ感のものもたくさんありますし、なるべくシームレスにしたいということは心がけていますね。自分も古着屋で“レディース”でも気に入れば買うので、そんな感覚で手に取ってくれるならどちらでも。そこに制限はつけたくないです。
——レディースとメンズを分けて発表しているブランドもありますよね。
ビジネス面で考えるとしたらおそらく分けたほうがいいんだろうなと後から気づきました。でも自分はそうしたくないって、ちょっと意地を張ってるんですけどね。(笑)

——ヴィンテージの服からインスピレーションを得ることは多いですか。
古着は楽しいですよね。パリの蚤に行くと、「今の時代ではもう作れないだろうな」という景気のいい技術が残っていたりして、ヴィンテージならではの味わい深さに魅力を感じます。そういう服を見ていると、ハートが動きますね。使命感で買います。
——そういうことから細かいディテールのアイディアが生まれるのですね。実際に手を動かしているときはどんなことを考えていますか。
無心にやることもあります。でも最近は細かいディテールの適切な配分を考えます。細かい部分は徹底して細かく、大胆にするところは思い切り大胆に。自分の中でルールを設けて、なるべく全部同じタッチじゃなくて、見せ場のある部分と抜け感がある部分をうまくバランスを取るように意識しています。
——田中さんは衣装制作も手掛けていますね。オートクチュールみたいなところがあると思いますがシーズンごとに提案する服とは明らかに違いますよね。
衣装は“誰が何処で着るか”が先に決まっているのが大きな違いですね。最近だとブランドを知って声をかけてくれるので「タナカ ダイスケ」のどの部分が欲しいのか、オーダーの中に入っていたりします。その部分と演者とのバランスは結構考えますね。
あとはファンが望む見たい姿を想像します。うちに頼むということは、何か“いつもと違うもの”を求めているんだろうなと。
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——直近の目標と将来の目標を教えてください。
直近だと、次のシーズンで5周年なので、それに向けて色々準備しています。言えないことばかりですが、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
遠い将来の夢は、好きなものを好きな分だけ作って暮らしたいですね。でもそれはいつでもできると思うので、今は人とものづくりをする中で自分らしさを探したいです。
——建築を勉強していたから、生活空間とかこだわりがあるんじゃないですか
生活空間にこだわりは少なく、ものづくりしているときも視界に手元しかないので、周りの環境にこだわりは少ないタイプかもしれません。
——「タナカ ダイスケ」ファンに伝えたいメッセージはありますか。
服を着てテンション上がったり熱量が上がったりするのはファッションのいい部分だと思っています。是非うちのアイテムで、思う存分遊んでください!色んなブランドとミックスして、自分なりに楽しんで欲しいです。
——ご自分がイメージしていなかった着こなしを目にすることはありますか。
あります。特にスタイリストさんの技術によって、うちのブランドって化けるんだなと思っています。ハイファッションにも見えるし、カジュアルにも落とし込める。ファッションが大好きな人たちに面白がってもらえるようなブランドでありたいですね。
——デザイナーを目指す人たちにメッセージをお願いします。
ひたむきにものづくりをしていたら、それを見ていてピックアップしてくれる人が必ずいるはずです。そういうチャンスを逃さず、臆せずにトライすることが大事だと思います。ものづくりが好きな人は控えめな気質の人も多いと思いますが、そこは一歩踏み出す勇気を身に着けてください。
photographs: Josui Yasuda(B.P.B.)
Daisuke Tanaka
1992年、大阪府生まれ。大阪文化服装学院を卒業後、ファッションブランドを経て独立し、2021年に自身のブランド「tanakadaisuke」をスタート。コンセプトは「おまじないをかけたようなお洋服で、自分の中にいるまだ見ぬ自分と出会えますように」。得意とする刺繍を活かした、ロマンチックで幻想的なコレクションが特徴。自身のブランド以外にも衣装制作や刺繍作家としても活動する。
WEB:tanakadaisuke.jp
Instagram:@tanakadaisuke_official














