世界最高峰の縫製ハサミ『Ō』をパリで発表
今年で創業116年を迎えるグローバル刃物メーカーの「貝印」が、フランス国家最優秀職人章(M.O.F.)の称号を持つ帽子デザイナーの日爪ノブキさんと縫製ハサミ『Ō(オー)』を共同開発。パリで開かれた世界最大級のインテリア&デザインの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」で、プロジェクトの集大成を披露した。
今年1月に開かれた「メゾン・エ・オブジェ」より。
先進的な刃物の技術を誇る「貝印」と日爪さんは5年以上の歳月をかけて『Ō(オー)』を完成。“ハサミの歴史の新たな原点になる”という意志を込めて、製品名は“Origin(起源、始まり)”の頭文字から命名された。
まだ目指せる。使い手のこだわりと作り手の思いを結集
薄い生地から厚い革まで、多種多様な素材を扱う日爪さんにとって、ハサミは仕事の要となる道具。新製品の開発にあたり遠藤浩彰社長(代表取締役社長兼COO)は「フランスで活躍しているヘッドピースデザイナーの日爪さんが、私たちの製品を使ってくださっていることを知り、アトリエでどのように使われているのかを見せていただいたことがきっかけになりました」と話す。
「我々も作り手としてハサミへの思い入れがありますが、それ以上に日爪さんが、まだ目指せるところがあると、使い手のこだわりを熱く語ってくださいました。ミシュランガイドのシェフの知見を得て、包丁を研究開発した経験があるので、ハサミでもぜひ同じようなことができないかと、このプロジェクトが始まりました」
刃物の老舗「貝印」4代目の遠藤浩彰社長(左)と日爪さん。
究極の機能美を追求
「貝印」に出会うまで満足できるハサミがなかったという日爪さん。
「フランスに来た当初に働いていたアトリエが、ある日、それまで使っていたものとまったく違うハサミを入手して、よく見たら『貝印』でした。衝撃でしたね。それから日本に帰る度に、買って帰るようになりました。学生の頃は指にタコができるくらい裁ちバサミを使っていたので、そんな経験もあって、手に一番馴染むハンドルの形を考えていったらこのデザインに行き着つきました。究極の機能美を追求していったらこの形になったんですよね。小指まで固定する設計は力が分散できるからで、切る角度のコントロールも断然し易くなりました」
「剣道の竹刀もギュっと握らず、人差し指と親指を少し脱力させることで“遊び”をもたせます。だから、それ以外の指の役割がとても大事なんですよね」と剣道経験者の日爪さん。
『Ō』のハサミは6丁でワンセット。糸切りをはじめ、理美容ハサミの刃体や形状を取り入れたモデル、刃元から刃先にかけてピッチの異なるセレーション(ギザ刃)を採用したモデルが揃う。圧倒的な切れ味と使い心地のよさを兼ね備え、ハンドルのリング内側にマーブル模様のシリコンが装着されているのも特徴だ。もちろん、定期的なメンテナンスによって末長く愛用できる。
切れ味抜群!カットしにくいモスリンも、すっと切れる。
パッケージにも深いこだわりがあり、ハサミを保管するケースは創業の地である岐阜県産のクリ材を使用。さらにケースを包む風呂敷は、フランスの著名クチュールメゾン御用達の日本のメーカーによって製作される。
発売は2025年の予定で、受注生産で展開。使い手のこだわりと作り手の思いが結集した『Ō』は、まさに、ハサミ界のオートクチュールといえるだろう。
温もりのある木製ケース。出荷時に無駄なく集積できる8角形になっていて、ここにも機能美の理念が表れている。
日本らしさが感じられる風呂敷には『Ō』のロゴが。
Photographs:濱 千恵子 Chieko Hama
Text:B.P.B. Paris
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