KIDILL 末安弘明 × 帽子クリエイター 日爪ノブキ
対談『自分の想像を超えるために』

2023.07.18

末安さん(右)と日爪さん。ショー前日、作業場の中庭にて。

パリ・メンズファッションウィークで、じわじわと存在感を高めているKIDILL(キディル)。デザイナーの末安弘明さんは先日発表した2024年春夏コレクションで、M.O.F.(フランス国家最優秀職人)の称号を持つ帽子クリエイター日爪ノブキさんとコラボレート。まったく異なるスタイルの二人が出会った先の化学反応とは?

KIDILL 2024年春夏コレクションより。テーマは「異端児たち(HERESIE CHILDREN)」。

同じ温度感を持ってないと上手くいかない

――コラボレーションをするきっかけになったのは?

末安 弘明(以下、末安):日爪くんに会ったのはちょうど一年前です。ファッションウィーク中に彼の誕生日パーティーがあって、食事をしながら「いつかコラボレーションできたらいいね」って話をして。それから会う回数を重ねて、実現した感じです。

日爪ノブキ(以下、日爪):ヒロさん(末安さん)は本気で服を作っている人なので、その情熱にぐっときたのが大きいです。コラボレーションって、同じ温度感を持ってないと上手くいかないことがあるんですよね。

末安:確かにね。

日爪:僕はたくさん仕事をするハードワーカーなんですが、ヒロさんに出会って、自分はまだまだなんだなって思いました。それくらい真剣に向き合っている人だから、すごく刺激になります。作っているものは違いますが、根底にあるものが同じではないかと。

先シーズン、ヒロさんがアトリエに来てくださった時に「日爪くんって何も考えずにきれいなものが作れるんだろうね」っておっしゃったんですよ。「そんな人がパンクをやったら新しいものが見られそう」と。僕もそう感じていたんですよね。パンクは好きだけど、あまりやったことがなかったので。

今季はブランドの核であるパンク精神に着物や“ボロ”など和の要素が融合。“釈迦”の刺繍、仏や餓鬼の柄も印象深い。
「日本の“ボロ”ってパンクと一緒なんですよね。パンク少年はお金がないから破けたジーパンに当て布をして、繕うしかなかった。僕は日本人だし、“ボロ”のテイストを入れてみたかったんです」と末安さん。写真下左:KIDILL提供

末安:日爪くんと一緒にやりたいと思ったのは俺にないものを持っているから。パリでショーをして、自分に足りないのはエレガントさだと気がつきました。作ってもらった帽子は一見カジュアルですが、シルエットはエレガントなんですよね。今回は売ることが前提にあったので軽い感じになっていますが、タイミングを見て、すごく大きい帽子とか、アート性の高いショーピースの帽子をお願いしたいですね。僕らは対極なものを持っているので、バランスがいいと思うんですよね。

日爪:お互いの世界観が違うだけに、混ざったらどうなるんだろうって、わくわくするんだと思います。そして、できあがったものをスタイリストがミックスするわけですが、そこでさらに次の次元のものに昇華されるんですよね。

魔女やサタンのモチーフが、品のいいシルエットの帽子にマッチ。

想像しなかったところに行くには余白が大切

――スタイリングに日爪さんは関与しなかったのですか?

日爪:僕は何かを制作する時に、反対意見が入ってくる状態を絶対作るんです。経験を積むと成功体験ができますよね。でも、これがいいと決めてしまうと、そこから先に行けなくなります。だから、ある一定以上のところから“空”の状態を作っておくというか。どっちにも行ける状態にしておくんです。

末安:俺も同じですね(笑)。

日爪:本当ですか!?

末安:自分の意見だけを押し通すと、想定内で終わってしまいますよね。想像しなかったところに行くためには、人に任せる余白みたいなものが大切です。そうゆう考え方も僕らは似ているんだなって気がしますね。

日爪:僕もですよ。だから人選びが大事ですよね。

末安:信頼できる人と一緒にやっていくのが、一つの醍醐味ですね。

ショー当日、準備中の会場をじっと見つめる末安さん。

壊すほうが難しい

――コラボレーションでは実際にどのようなことをリクエストされたのですか?

末安:コレクションの方向性とキーワードなどの要素をざっくり伝えただけです。

日爪:細かいデザインやどうゆうアイテムを作るかは、最初から「任せる」と言ってくださって、僕はショーを実際に観ていたからKIDILLに向かって行くにはどうしたらいいのかを自分の中で考えました。

末安:日爪くんは作っているものが、めちゃくちゃヤバいんですよ。帽子ですが、帽子を作ってないから。なんか、あふれ出ているんですよね(笑)。発想力がすごくある人なので、つべこべ言わないほうがいいと判断しました。パリでやってるだけあってエレガントなんだけど、めちゃくちゃエッジが効いてるものを作っている。唯一無二みたいな。それが大袈裟じゃなくてマジなんですよね。まぁ、それが一周まわって、パンクになるんですけど。下手したら、いっちゃってる。いき切っているものも作れる方なんで、それが魅力に感じるんですよね。

バックステージで黙々と帽子を整える日爪さん。最後まで余念がない。

――エレガントが一周まわるとパンクになる?

日爪:自分はフランスに来てM.O.F.を取ったこともあり、10年かけて究極に基本をやり尽くしました。そして、自分のブランドを作って何をやってるかというと、それを壊す作業なんですよね。だからヒロさんとリンクするんだと思います。パンクはもともとあったものの破壊じゃないですか。僕は今もクチュールメゾンのトラディショナルな帽子を作っていますが、自分のブランドではとにかく破壊し続けている。僕は帽子の基本が身に染み付いているから意図しないと壊れないんですよ。きれいに作ることのほうが簡単ですよ、本当に。破壊することのほうが難しい。そこで生まれる違和感が新しいデザインになったり新たな収穫になったりするんですよね。

“少数派の精神や思想”“魔女”も今回のキーワード。KIDILLの“異端児たち”は帽子がよく似合う。写真:KIDILL提供

――実際にできあがった帽子をご覧になっていかがでしたか?

末安:KIDILLに合わせて作ってくれているからか、キュートさもあるキャッチーなものになっていて、すごく好きですね。器用だなって思いました。ブランドを理解しているなって。

日爪:それが帽子デザイナーのキャラクターなんです。色々なブランドと仕事をするので、なんというか、、、戦国時代でいうと小姓のような存在を目指しているんです。殿が手を出したら、パッと刀を渡せるような(笑)。帽子デザイナーって、そんな役割かなって思います。

末安:マニアックだなぁー(笑)。

日爪:帽子ブランドとしてのアイデンティティは?と聞かれますが、どことコラボしても僕のアイデンティティは染み付いているので、そこにそのブランドの良さが乗っかる感じなんです。変な主張は必要ではないし、どこにでも溶け込める状態が一番いいと思っています。そうでないとお互いが食い合ってしまいますから。

末安:(深く頷く)

モデルに帽子を装着後、最終チェック。

一番下からどれだけ這い上がれるか

――末安さんがパリでコレクションを発表し続ける理由は?

末安:ここが世界最高峰の舞台だから。ここで戦いたいなって感じです。世界中から一級の目を持った人たちが集まる場所なので、そこで登れるところまで登りたいって。

日爪:僕もまったく一緒です。何でパリに来たかというとパリがファッション界のメジャーリーグだから。世界中から一流の人間が集まってくる。

末安:ブランドだけじゃなくて、バイヤーもジャーナリストも。パリコレでは俺はペーペー、一番下なんですよね。その一番下からどれだけ這い上がれるかっていう楽しみもあります。

ショーの冒頭には今季のKIDILLを象徴するマスク姿のモデルたちが登場。マスクは“Deadly Sweet”とコラボレーション製作したもので、力強くインパクトがある。

僕らの世代のパンクを作りたい

――日爪さんから見て、末安さんの魅力は?

日爪:変わらずに貫いているところですね。僕らが10代の時に見ていたギドギドしたショーを今は誰もやらないじゃないですか。良くも悪くもサラッとしていて。でもヒロさんはギドギドしていていいなって思う。

末安:それも日本から来て(笑)。

日爪:初めてKIDILLのプレゼンテーションを観た時「おぉー!これをまだやり続けている!!」って感激しました。異空間を作っていて、そうゆうのも含めてブランドの世界観だと思うんで。それをずっとやり続けているから気持ちいいです。普通は怖くてできないですよ。デザイナーって、時代に合わせようとする下心が出てくるんですよ。でも、まったくブレてない!

ピンク色に照らされたショー。ミュージシャンのライブ演奏も行われた。

末安: 以前、ドーバーストリートマーケットやトレーディングミュージアム・コム デ ギャルソンで取引が始まる年に「このまま変わらずパンクを続けなさい」と、川久保怜さんの言葉として、バイイング担当者から伝えられたことがありました。迷走していた自分を導く言葉に心が楽になり「俺、同じことをやり続ければいいんだ。好きなパンクを続ければいいんだ」ってなりました。日爪くんが言ったように、ものを作る人って迷う時があるんですよ。俺もそうで、メンズを作っていると「もっとシックにテーラーに寄せたほうがいいのかな?時代に合わせたほうがいいのかな?」って。ブレずに作り続けるのは、すごく難しいんですよね。でも、ああいう先輩にそう言っていただけたので、それからですね、ブレないようになったのは。

上の世代があり、現在があるわけで、僕らは僕らの世代のパンクを表現していく必要があると思っています。過去の焼き直しをやっても何の価値もないと思うので、僕らで新しいパンクを作っていきたいです。

ショー本番、バックステージでの末安さん。観客の歓声に見送られ、チームの元に戻ると思わずガッツポーズが。

末安 弘明 (すえやす・ひろあき)
2014年にKIDILLをスタート。’17年にTOKYO新人デザイナーファッション大賞プロ部門で受賞し、’21年1月にはパリ・メンズファッションウィークの公式カレンダーに迎えられるが、コロナ禍によりオンラインで参加。同年、TOKYO FASHION AWARDを獲得し、’23年春夏よりパリでコレクションを発表する。

日爪ノブキ(ひづめ・のぶき)
2004年、文化服装学院アパレルデザイン科を卒業。国内外の舞台やミュージシャンのヘッドピースを制作し、同時にNOBUKI HIZUMEの名前でアートピースを展開。’09年に渡仏し、数々の著名メゾンの帽子を手がける。’19年には栄誉あるフランスの称号 M.O.F.(フランス国家最優秀職人章)が授与され、同年、帽子ブランド HIZUMEをスタート。LOEWE ’23-’24年秋冬メンズコレクションでは、帽子のテクニックを応用したコートとジャケットを製作。LA GALERIE DIORで帽子作りのデモンストレーションを行うなど、活動の場は多岐に渡る。

KIDILL
2024年春夏コレクションの全ルックはこちらから。

NOBUKI HIZUME
WEB:http://nobukihizume.com/

Photographs:濱 千恵子 Chieko Hama
Text:水戸真理子 Mariko Mito(B.P.B. Paris)

関連記事:
「KIDILL 2022年 春夏コレクション デザイナー末安弘明インタビュー」
「世界へ飛び出した日本人 vol.1 日爪ノブキさん」

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