「ITS Arcademy」より。
フランス屈指のモード美術館で、数々の大展覧会を手がけてきたオリヴィエ・サイヤール(Olivier Saillard)さん。キュレーターの枠にとどまらず、ポエムを書き、ショーの演出・出演までをこなすパフォーマーでもある彼が、イタリアのトリエステに新設されたミュージアム「イッツ アルカデミー(ITS Arcademy)」とコラボレーション。哲学者のエマニュエル・コーチャ(Emanuele Coccia)さんと共に監修したユニークな展覧会「服の幾多の人生(The Many Lives of a Garment)」がスタートしました。
「ITS Arcademy」のエントランス。
2022年にオープンした「イッツ アルカデミー」は、若いデザイナーをサポートする国際コンテスト「イッツ」の過去20年以上に渡るファイナリストの作品やポートフォリオを所蔵。1,400平方メートルの施設内には、展示スペースのほか誇大な資料室や所蔵庫、トレーニングセンターなどを備え、“創造性を養う場”となることを目指しています。
サイヤールさんは初回のエキシビションに続き、第二弾となる今展のキュレーションを担当。同館のコレクションから抜粋された作品を中心に、著名な女優たちから貸し出された服なども展示されています。
館内にはポートフォリオの展示室もあり、来館者に公開されている。
「僕がこの仕事を受けた理由は、扱う作品が若いクリエイターのものだったからです」とサイヤールさん。
「実はトリエステに着くまで分からなかったのですが、アーカイブを見たら、これはいい展覧会ができると思ったんですよね。彼らの作品は純粋で、何にも染まっていないところに惹かれます。自分自身の中から生まれたもので、モード界のシステムに歪められていないという印象でした。僕自身、学ぶことがありましたね。これまで大きなメゾンのエキシビションに携わってきたので、まだあまり知られていない人たちに興味があるんですよ」
Tom Van der Borght(写真上)とNatsumi Osawaのポートフォリオ。
「ポートフォリオも胸を打ちました。ポエティックで、内面に何かを秘めている世界に一つしかないものです。代表のバルバラが作った資料室は唯一無二。それを見てITSがとても真剣な組織であることが分かりました」とサイヤールさん。
「今回の展示は、朝、家のクローゼットを開けた時から、個々のエキシビションが始まっている、というアイデアがベースにあります。皆それぞれに自分のお気に入りのワードローブを持っていて、今日は何を着たいか、見せたいかと、ソファーに服を並べてみたり、壁に服を吊るして眺めてみたりする。そうした行為もすばらしいモードのエキシビションだと思うのです。だから今回の展示は、そんな日常の私的な視点を見せているものでもあるんですよ。とても自由な展示内容になっています」
「The Many Lives of a Garment」より。
展示はクローゼットから始まり、鑑賞者のポーズをとるマネキンもいれば、クラシックなショーケースに収められたマネキンも。所有する人や置かれた状況によってその価値を変化させる服の生涯に焦点を当てつつ、服が持つ意味を探るという、ひと捻りもふた捻りもある内容です。
そんなサイヤールさんが国際コンテストである「イッツ」に期待することは?
「ファッションに夢を持つ人たちを賞賛し続けてほしい。デザイナーにならない人もいますが、業界でキャリアを積んでいくかどうかは大きな問題ではないと思っています。夢を持つことが大事。僕は彼らが成功したかではなく、その人自身に関心がある。だから、これからも夢を持つクリエイターとすばらしい作品を見つけてくれることを願っています」
左からCameron Williams (ITS 2020)、Kin Yan Lam (ITS 2020)の作品。
Cameron Williams (ITS 2020)の作品。
写真左:アカデミー受賞女優のティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)から貸し出された彼女の私服。リワンのクラシックな白シャツに、ハイダー アッカーマンのパンツとジェイエムウエストンの靴を合わせて。右:元トップモデルのアルダ・バレストラ(Alda Balestra)のウエディングドレス( Valentino Alta Moda 1989)。
左からHeaven Tanudiredja (ITS 2007)、Adam Elyassé (ITS 2021)の作品。
左からTolu Coker (ITS 2018)、Rosie Baird (ITS 2020)の作品。
ドレスはサイヤールさんのプライベートコレクション(Courtesy of Didier Ludot)。
Mayako Kano (ITS 2016)の作品。
Petra Fagerstrom (ITS 2022)の作品。
また同館では、今年度のファイナリストの作品を紹介するもう一つの展覧会「創造するために生まれた(Born to Create)」も開催中。新進クリエイターの作品に特化した世界に類を見ないミュージアムは、ファッション界の新名所として、さらなる発展を遂げていくことでしょう。
「Born to Create」より。
アーカイブには14,840点のポートフォリオ、1100点の服、165点のアクセサリー、120点のジュエリー等を保管。
オリヴィエ・サイヤールさん。トリエステにて。
●Olivier Saillard ファッション史家、キュレーター、アーティスティックディレクター。マルセイユ・モード博物館の館長、パリ装飾芸術美術館のキュレーター、パリ市立モード美術館ガリエラ宮の館長を経て、2018年にジェイエムウエストン(J.M. Weston)のアーティスティック・カルチャー・イメージディレクターに就任。現在はアズディン・アライア財団(Fondation Azzedine Alaïa)のディレクターも務める。
The Many Lives of a Garment / Born to Create
2025年1月6日まで。
ITS Arcademy – Museum of Art in Fashion
Via della Cassa di Risparmio, 10, 34121 Trieste, Italie
Photo & Text:B.P.B. Paris
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