社会とのつながりを生む
衣食住に広がる
ファッションの提案
『装苑』2025年7月号 掲載
こだわりのテキスタイルと重厚なディテールで、質の高い服作りを見せるdaisuke tanabe。手がけるのは、京都大学在学中にパターンを学び、西陣織で知られる老舗企業で生地作りや企画制作に携わっていた経歴を持つ田邉大祐さん。細部まで追求する姿勢が印象的だ。
「その企業ではラグジュアリーブランドとともに仕事をする機会も多く、生産の現場で最前線の空気に触れることができました。ものづくりの＂本物＂を学べた、自分にとって貴重な経験だったと思います」
黒硫化物とロープ染色のたて糸と茶色の綿のよこ糸を用いてヴィンテージのような風合いに仕上げたデニムジャケット￥64,900、デニムパンツ￥55,000
2025年春夏では、ロンドン・ブライトンの海辺で見た骨組みだけが残る遊園地の＂世紀末なムード＂に着想を得た。風化した海辺の質感を思わせるビスコース糸などの素材を、近未来のユニフォームや防護服をイメージしたフォルムに組み合わせ、「荒廃した未来を生きる人々」を描き出している。
擬麻加工（コンニャク樹脂をコーティング）した綿糸と紙糸を使用し、ドライなタッチを生み出した生地。複数の織組織をランダムに合わせ、砂浜や海の質感を表現したポロシャツ￥59,400
「ファッションはその人のライフスタイルや趣味嗜好をダイレクトに映すもので、そこが面白いと思っています。なので、できるだけ日常や社会と接続点を持つテーマを扱い、表現者として独りよがりにならないクリエイションを意識しています。将来的にはdaisuke tanabeを通じて衣食住のすべてに広がる活動を。例えば、お皿やお酒を作ること、あるいは、工芸や民芸とその文化をつないでいくような取り組みを行い、社会の中に意味を持って存在できるブランドを目指していきたいです」
ブランドを象徴するレザージャケット
イタリア製ベジタブルタンニングカーフレザーを採用。厚みが出すぎないよう縫い代をつけずに裁ち端で処理、ダーツもデザイン性のある縫製を施すなど、こだわりを詰め込んだレザージャケット￥330,000
料理と服作り命と向き合いポジティブな循環を
展示会で手料理を振る舞うほど料理好きの田邉さん。「料理は機械的な側面もありますが、塩ひと振りで味が変わるように繊細な感覚も必要です。その感覚は、服作りにも通じるものがあり、アイデアの着想につながることもあります。料理が好きだからこそ、食肉産業とレザーの関わりについては、より強く意識しています。食事も、服作りにおいても命をいただいているという感謝の気持ちを忘れずに、ポジティブに循環していきたいです」
人工物と自然物の形や表情が混合。2025-’26年秋冬コレクション
アゾフ海の干潟、腐海に見る文明と自然の均衡関係を表現したというコレクション。タイルのようなパターンで織り込まれたシルクモールのジャカード生地、古びた青銅器のようなムートンなど、人工物と自然物から想起される要素を、一つの素材やルックの中で共存させた。透明糸とウールで立体的に編み上げたニット￥69,300、シルクのモール糸で織ったパンツ￥143,000
特殊な染色加工、ダメージを施したフランス製ムートンを使用したジャケット￥396,000、ラップスカート￥275,000
ブランドプロフィール
Daisuke Tanabe 田邉大祐●大阪府出身。京都大学在学中にパターン養成学校に通いながら服作りの基礎を学び、卒業後は西陣織の老舗企業に入社。生地作りに携わった後、2023年に独立し、自身のブランドであるdaisuke tanabeを立ち上げた。プロダクトとしてのデザインの強度と、幼少期から映画監督を目指していたというデザイナーの考え方やストーリー性を併せ持ったアイテムを提案している。＠daisuketanabe_official
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EUCHRONIA／ ユークロニア デザイナー
文化服装学院卒業の宮崎さんと佐藤さんによって立ち上げられたブランド。おのおのアパレル企業のデザイナーとして勤務した後、共にイギリスへ留学。2023年4月にユークロニアをスタートさせた。 Instagram：@euchronia_official
