廣川玉枝「普遍的な美しい身体」
【ファッションデザイナーにとってのミューズとは?】

2023.08.18

普遍的な美しい身体

SOMARTA Skin Series “ATLAS”, 2018  © SOMA DESIGN  Photo: SINYA KEITA(ROLLUPstudio.)

 2006年に廣川玉枝さんが生み出した、MoMAにも収蔵されるソマルタを代表する衣服、スキンシリーズ。無縫製のニットが“身体”そのものの美を表現する。

「この企画のお話をいただいてから、あらためてミューズについて考えていました。私の中に確固たるミューズ像というのはないのですが、私は“美しい身体”を探究し続けているので、それをミューズと呼ぶのかもしれません。100人いれば100人の身体を持ち、それぞれに美しさがあります。ずっと“美しい身体”を追いかけながら、未来に向かって進んでいくのがデザイナーの仕事でもあるので、未来の“美しい身体”はどうなるのかということも想像しながら、衣服をデザインをしています。

 なぜこんなにも身体を美しいと思うのか、そのこと自体にもとても興味があります。学生時代から人体解剖学が好きで、皮膚や骨格、ひいては人間に興味を抱いていました。時代によって美しいとされてきた姿形には違いがありますが、古代ローマの彫刻に見る豊満な体も、昔の日本人のしなやかな体も美しいと感じる。美の基準が変化した今見てもなお、美しいと思わせる、その“普遍性”に惹かれるのだと思います。

どんな肉体にもフィットするスキンシリーズは廣川さんが提案する“世界服”

第2の皮膚をコンセプトに、身体と衣服の空間を意識した新しいプロセスの衣服。2次元で設計したパターンに人体の立体を意識した組織をはめ込むことで、美しい立体感を表現する。

SOMARTA Skin Series “Guardian”, 2006  © SOMA DESIGN  Photo: SINYA KEITA (ROLLUPstudio.)

SOMARTA Skin Series “Horus”, 2015  © SOMA DESIGN  Photo: SINYA KEITA(ROLLUPstudio.)

 また、皮膚に装飾を入れるタトゥーやメイクは、人類が皮膚をメディアとして最初に始めた表現方法だと思っています。特別な願いや思いを身体に刻む行為が人類普遍の共通美意識であるならば、その模様が刻まれた着脱可能な衣服という道具─スキンシリーズ─として実現すれば、人類の願いが叶えられる“世界服”を作れると思ったのです。

 人間は、ファッションやヘア&メイクによって、いかようにも変幻できます。デザイナーとして、身体が持つ基本的な要素に自分なりの形をデザインで加えることで、身体が変化していくことに興味があります。理想のバランスに近づけるように、衣服にカッティングラインを入れてフォルムを作ることで、衣服を通じて理想の“美しい身体の夢”を叶えようとしているのかもしれません」

誰もが持つ皮膚や骨格に魅了されて集めた資料

独立後に発表したスキンシリーズのテーマは「身体における衣服の可能性」。人類すべてがまとっている皮膚という共通項の上に千差万別の個性を有する人間の表現の拡張を、今もファッションで試みている。
右上から反時計回りに 『ALBINUS ON ANATOMY』 Robert Beverly Hale & Terence Coyle 著 DOVER PUBLICATIONS刊/『EVOLUTION 【IN ACTION】 NATURAL HISTORY THROUGH SPECTACULAR SKELETONS』 JEAN-BAPTISTE DE PANAFIEU 著 Thames & Hudson刊/『解剖の美学 ART OF ANATOMY』 荒俣 宏 著 リブロポート刊/『AN ATLAS OF ANATOMY FOR ARTISTS』 FRITZ SCHIDER 著 DOVER PUBLICATION刊/『SCIENCE FACTS HUMAN BODY』 LIONEL BENDER 著 CRESCENT BOOKS刊/『Decorated Skin A World Survey of Body Art』 KARL GRÖNING 著 Thames & Hudson刊

photo: SINYA KEITA(ROLLUPstudio.)  © SOMA DESIGN

廣川玉枝 Tamae Hirokawa
文化服装学院アパレルデザイン科を卒業後、イッセイ ミヤケに入社。2006年より、複合的にデザインを手がけるスタジオ、ソマデザインをスタート。同時にブランド、ソマルタを立ち上げる。’06年、「身体における衣服の可能性」をコンセプトにしたスキンシリーズを発表。’07年、毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞を受賞。’17年、スキンシリーズがMoMAに収蔵された。’21年、アシックスと共同で、東京2020オリンピック・パラリンピックの表彰台ジャケットも制作した。

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