去る、6月27日(火)、第97回 装苑賞 公開審査会が開催されました。
戦後いち早く、デザインの重要性と、新人デザイナーの才能の芽を育てることの必要性を感じた先達の知恵から、『装苑』創刊20周年を記念して1956年に創設された「装苑賞」は、97回で96名の装苑賞受賞者を世に輩出してきました。
審査員はファッションデザイナーのコシノジュンコ(JUNKO KOSHINO)、津森千里(TSUMORI CHISATO)、廣川玉枝(SOMARTA)、三原康裕(MIHARAYASUHIRO)、森永邦彦(ANREALAGE)、熊切秀典(beautiful people)、宮前義之(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)、坂部三樹郎(MIKIOSAKABE)の計8名。
一次審査のポートフォリオ審査で32組の候補者を選出。その後、対談形式の2次審査を経て半数に絞られた16組が、ランウェイにて各3体のミニコレクションを発表しました。
装苑賞の栄誉に輝いたのは、香蘭ファッションデザイン専門学校 ファッションデザイン専攻科卒業の上村英太郎(かみむら えいたろう)さん。テーマは「第3の目(だいさんのめ)」。私達人間が第3の目を持ち得たら、世界はどう見え、どう変化するのだろうと考え、本能的に生きるために進化を遂げた、生き物の目に着目。スーツをベースに、ハニカム構造を服に取り入れることで、視界が変わる様を表現した。ステージ上でデザインが華麗に変化し、審査員から高い評価を受けた。また、上村さんはNEW ENERGY特別賞も受賞し、W受賞に輝いた。
装苑賞佳作1位に選ばれたのは、文化服装学院 アパレルデザイン科 三年次在学中の田口裕大(たぐち ゆうた)さん。「石材を模した直方体」からパターンを取り、素材を削る事で形を出し、命を表すフェイクファーに、感情を意味するライトモデリングペーストを染み込ませることで、重みのある存在感と軽い着心地を両立させた。
佳作2位は、文化服装学院 アパレルデザイン科 三年次在学中の鈴木昌朗(すずき まさあき)さん。服に直接触れる皮膚とその構造から着想。素材には、皮膚のように経年変化するデニムを選び、皮膚組織の三層構造をスラッシュキルトで表現した。
また、PR01.特別賞を受賞したのは、グラフィックデザイナーの田中玲乃(たなか あきの)さん。雲の様にフワフワした色合いのモヘアをベースに、チクチクした糸やキラキラした糸を使用し、ニットによって物事の相反する2つの面、表と裏を曖昧な心地いいバランスで見せた。
受賞作品
装苑賞/NEW ENERGY特別賞
上村英太郎「第3の目」
装苑賞/NEW ENERGY特別賞
受賞者:上村英太郎(かみむら えいたろう)
テーマ:「第3の目(だいさんのめ)」
コンセプト:私たちが目で見ている世界は、皆すべて同じではない。立場や人種、生物としての違いの数だけ物の見え方やとらえ方は違うと考えました。そこで、人の視野を限定させている象徴でもあるスーツをベースに、生き物の目にフォーカス。オリジナルプリント生地を使い、人間と虫、鳥、魚の目の違いを表しました。
プロフィール:2001年生まれ、山口県出身。2020年、香蘭ファッションデザイン専門学校 ファッションデザイン専攻科入学。2023年、同専門学校卒業。
装苑賞佳作1位
田口裕大「Sculpture ~彫刻的服造り~」
装苑賞佳作1位
受賞者:田口裕大(たぐち ゆうた)
テーマ:「Sculpture ~彫刻的服造り~(すかるぷちゃー~ちょうこくてきふくづくり~)」
コンセプト: 人は常に自分の命(時間)を削り、削られ生きている。"削る"という行為から見えてくる"人間らしさ"を作品で表現したいと考えました。軍服やスーツなどからデザインのイメージを広げ、フェイクファーとライトモデリングペーストを使い、削りながら形を作っています。裏地にもこだわり、服としての着心地のよさも意識しました。
プロフィール:2001年生まれ、愛知県出身。2021年、文化服装学院 ファッション工科専門課程 ファッション工科基礎科入学。現在、同専門学校 アパレルデザイン科 三年次在学中。
装苑賞佳作2位
鈴木昌朗「デニムと皮膚の親和性」
装苑賞佳作2位
受賞者: 鈴木昌朗(すずき まさあき)
テーマ: 「デニムと皮膚の親和性(でにむとひふのしんわせい)」
コンセプト:人は生まれてから死ぬまでほぼすべての時間を服と過ごします。そこで布と人との間にあるつながりを考え、作品を制作しました。素材には皮膚と特徴が似ているデニムを使用。皮膚が衰え、しわやしみが生まれるように、デニム特有の色落ちやダメージなどの経年変化に注目し、色の濃淡を意識してデザインに反映させていきました。
プロフィール:1999年生まれ、静岡県出身。2021年、文化服装学院 ファッション工科専門課程 ファッション工科基礎科入学。現在、同専門学校 アパレルデザイン科 三年次在学中。
PR01.特別賞
田中玲乃 「cloud」
PR01.特別賞
受賞者: 田中玲乃(たなか あきの)
テーマ: 「cloud(くらうど)」
コンセプト:ニットの特性を生かして、雲みたいに曖昧でつかめないけれど、広大で優しいパワーを感じるような服を作りたいと思いました。画家のジョン・コンスタブルが描く雲などから影響を受けています。ブルーをベースに様々な色のモヘアを使い、入道雲のようなシルエットに、太陽のようなハートをあしらったワンピースなどを完成させました。
プロフィール:1996年、熊本県生まれ。2015年、熊本デザイン専門学校 グラフィックデザイン科 入学。2017年、同専門学校卒業。現在、ニットスクールAmitに在学しながら、広告制作会社にてグラフィックデザイナーとして勤務。
さらに第97回装苑賞受賞作品や公開審査会の模様は、2023年7月28日(金)発売の『装苑』2023年9月号でも詳しくお伝えします。ぜひご覧ください!