松坂桃李は、その穏やかな人物像とは裏腹に、「仕掛ける」役者だ。近作をざっとさらってみても『孤狼の血』(2018、’21年)に『新聞記者』(’19年)、『空白』、ドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」、「あのときキスしておけば」(すべて’21年)など、常に新しい驚きを観客に提示してきた。5月13日には、『悪人』(’10年)や『怒り』(’16年)の李相日監督作『流浪の月』が公開される。誘拐犯を演じた本作もまた、観る者の価値観を激しく揺さぶる力作であり、松坂の一貫した審美眼には唸らされるばかりだ。
そんな彼が、盟友である絵本作家・長田真作とコラボレーションし、絵本を作り上げたという。そのニュースを聞いた時点で「面白そう」と嗅覚が働いたファンは少なくないだろう。長田が松坂との対話を経て描き出した『まろやかな炎』は、エリマキトカゲの「マロ」と、彼のもとに現れた「炎」の絆を描く物語。
装苑オンラインでは、この“共作”が成立した背景を紐解きつつ、松坂桃李という表現者の生きざまを本人に語っていただいた。
photographs : Yudai Kusano / hair & make up : Emiy / styling : Takafumi Kawasaki / interview & text : SYO
『まろやかな炎』
ボーッと静かに、穏やかな日常を過ごしていたエリマキトカゲの「マロ」。ある日、マロの前にジェット機のように速く、蜂のように軽やかな「炎」が現れる。その日からマロの周囲は熱を帯び、今まで見えなかった場所も目に映るように。マロの日常が変わっていくように、炎も少しずつ変わっていく。マロと炎が最後に辿りついた世界は……。人気絵本作家の長田真作さんと、俳優として注目作への出演が続く松坂桃李さんが、初めての共作で生み出した一冊。
長田真作著、 長田真作・松坂桃李原案 303 BOOKS ¥1,980
WEB:https://303books.jp/
本当にくだらない話から、自分の仕事に対して、お互いが日頃思っていること、漠然と抱えている不安……浅い話から深い話までしました。
――TopCoat Landの長田真作さんとの対談動画を拝見しましたが、おふたりを引き合わせたのは満島真之介さんなんですね。
そうです。僕が『風俗行ったら人生変わったwww』(2013年)で真之介と共演しているときに2人でご飯を食べることになって、真之介が「もう一人連れてきていい?」と引き合わせてくれたのが長田真作でした。そのとき彼はまだ絵本作家デビュー前だったのですが、描いている水墨画を見せてくれたんです。それを見たときに「うわっ、すっごく好きな絵だ」と思いました。
実は今日真作と話して「あれは武田信玄なんだよ」と聞くまで誰を描いた絵なのかは知らなかったのですが(笑)、直感的に魅了されてしまったんです。墨で描いた黒一色の中に彼自身の優しさや、「何かを伝えていく」という探求心が込められていて、ファンになってしまいました。そこで真作に興味を抱き、色々話していくうちに仲良くなっていったという形ですね。
松坂さんが見た長田真作さんの墨絵
――松坂さんと長田さんは1歳違いで、同世代ですね。
はい。彼とは馬が合って、くだらない話から真面目な話までする仲です。その中で「いつか一緒に仕事をしたいね」というお話をしていて、今回ようやく実現できました。
松坂桃李さんと、長田真作さん。
――今回の企画にはマネージャーさんの後押しがあったと伺いました。松坂さんは以前「チーフマネージャーさんと年イチで翌年の活動方針を打ち合わせる」と話されていたかと思います。今回もその一環でしょうか?
実は以前からちょいちょい「同年代で絵本作家のすごい奴がいるんです」とプレゼンしていたんです(笑)。それでチーフマネージャーさんも認識はしてくれていたのですが、その後、真作が絵本『ほんとうの星』を出すときに僕が帯コメントを書かせてもらうことになったりして、さらに刷り込みました。
それで、年イチの打ち合わせなどで「何月にこういう作品をやって……」という話の合間に「なんかちょっと違う表現もやりたいんですよね。例えば絵本とか……」みたいなジャブを少しずつ入れて(笑)、ようやく機会を与えてもらいました。ちょうどそれが真作の「本当に一緒にやりたい」というタイミングとも重なっていたんです。
――『まろやかな炎』の制作においては、長田さんが松坂さんを原作に“脚色”のイメージで書く、と発案し、アトリエで話すところから共作が始まったそうですね。どんな話をしたのでしょう?
本当にくだらない話から、自分の仕事に対して、お互いが日頃思っていること、漠然と抱えている不安……浅い話から深い話まで、満遍なく話しました。まず4時間くらい話をして「じゃあまた」と別れて、後日また集まって4時間くらい話して。そういったことをやっていく中で、僕の想いみたいなものを真作が『まろやかな炎』という本に具現化してくれました。
――仲が良いとはいえ、4時間話が尽きないのはすごいですね。
全く尽きなかったですね(笑)。コラボレーションすることが決まった後も、「こういう絵本にしよう」とか「こういう構成でこのセリフを入れて、タイトルはこうで……」といった話は一切しませんでした。久しぶりに会った友達がお茶を飲みながら話し込むみたいな、そういった時間がただただ流れていて。その中でこの絵本が生まれたんですよね。
――だからこそ、表紙に使われている一枚絵を初めて見た際は驚いた、と仰っていましたね。
はい。真作から見た僕のイメージがこうなんだ、と思ったり、エリマキトカゲの「マロ」もある種僕を投影したキャラクターといいますか、読んでいくと自分の心を俯瞰で観ているような気恥ずかしさもありつつ……。真作との7年の付き合いがこの1冊に詰まっている気もするし、僕の心の形であり、彼の心の形でもあるような、混ざり合った色になっている気がしました。
絵本『まろやかな炎』より
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